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REPORT

業界レポート『自動車事業における物流戦略のポイント』

自動車業界、そして未来のモビリティ社会に関連する業界の最新動向や、世界各国の自動車事情など、さまざまな分野の有識者のレポートをお届けします。

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はじめに

コロナ禍に関する各国の行動規制については、地域によって緩和される動きが出始めているが、経済が以前のような状況に戻るかどうかは不明であり、多くの業界に継続して影響を与えることになるかと思われる。航空業界等多くの業界にとっては負の影響が大きいと思われるが、一方で一部では追い風となっている業界もある。外出自粛に起因して宅配等の物流において需要が拡大しているのもその一つであり、物の動きに関わる部分については、電子データの行き来で済むような世界が広がったとしても、効率化で削減されるものではなく、実際に物を動かすという点で需要として残る部分であると思う。

自動車を販売する上でも物流は重要なポイントとなる部分であり、特に今後も販売拡大が見込める地域(特に発展途上地域)においては、物流戦略により大きく販売台数が左右されると考える。

物流は、「コストをできるだけかけずに、適時に、商品(自動車)にダメージ等を与えずに輸送する」ことを目指す必要があり、それを最適に実現するためには重要なポイントが幾つかあると考える。

ここでは、少ないかもしれないが筆者の中東での物流業務経験をもとに、在庫保管を含めた自動車物流で重要と考えるポイントについていくつか述べさせていただきたいと思う。

 

物流戦略のポイント

【国の安定性(法制面、インフラ面等)】

他の業種にもある話ではあるが、物流拠点における法制面の安定性がある程度維持されているかは販売コストにもかかわる重要な部分と考える。輸出中継拠点として在庫保管をフリーゾーンで行う場合に法制改正によってフリーゾーンではなくなるようなリスクもあり得る。また、物流インフラの整備状況についても着目しておく必要があると考える。例えば、生産国から最終輸出先に輸送する前に中継拠点国で一旦在庫保管するような場合は、中継拠点国における税関システムが整備されているかという点は在庫場所からの出荷時手続のスムーズさや輸送手続のトラブル頻度にも関係する。

また地政学的リスクの具現化が頻発するような国かどうかも、物流拠点を設定する上で重要な留意点であると考える。

【安価な在庫場所の確保】

販売見込台数を見積もることは通常でも難しく、販売需要が急に発生しタイムリーにデリバリーが出来なければ商機を逃すことは多くあり得る。特に輸出により遠方から車両を輸送する場合は最終輸出先までの輸送時間は生産完了から数か月に及ぶ場合もあり、最終輸出先の近くにおいて在庫として保有しておくことが販売促進に有効である場合もあり得る。このような場合に在庫コストは在庫場所を決定する際の重要なポイントで、賃借料や購入代そのもののコストだけでなく、税関手続費用や港湾取扱手数料(ハンドリングチャージ)等の諸費用を踏まえて考える必要がある。賃借料は安いが、在庫場所から車両を入出庫する際にトランザクション毎にかかる費用が高くつく場合等があり得る。

【港湾オペレーションの品質】

生産国から船で運ぶ場合には、港湾での車両取扱いによっては車両にダメージ等が発生する場合もあり得る。車両をおろす港が自動車の輸出及び輸入に通常使われる港かどうかという部分も留意すべき点で、港湾での作業員が自動車の扱いに慣れていない場合は、ダメージや汚損が起きやすい。港湾が国により運営されている場合は、港湾作業員に対して教育することも難しく、継続して汚損が発生することにもつながる。

【物流業者の品質】

輸送中継国や最終輸出国においては、現地の物流業者への業務委託や協働が必要となる場合があり、輸送途中の車両品質を保持するためにも現地の物流業者にどれくらい車両品質に気をつける必要があるのか、また従業員をどの程度まで教育しなければならないのかを理解してもらう必要がある。この理解共有には時間がかかり、物流業者との関係を強固にする必要があるが、結果的に全体物流効率を高め、柔軟な輸送オペレーションにつながると考える。

【架装場所としての在庫拠点】

車両によっては、輸送中継国において移動診療車や冷凍冷蔵車等への架装が販売前に必要なことがあり、車両への架装が効率的に行われるような場所を在庫場所とした方がよい場合がある。これは法制面に関わるが、輸送中継国においては保税の状態で車両を保管することになるため、保税の状態でもその国で架装ができるような整備がなされているような国であれば尚都合がよいと考える。

 

まとめ

コロナ禍の影響で今後どのようなシナリオが待っているのかは不明だが、自動車業界は100年に1度の変革期にあるといわれ、「所有」から「利用」の時代への移行可能性が言われている。そのような現状においても、需要が飽和しつつある先進国と違い、発展途上国の一部では販売が今後拡大する地域はあると考える。

そのような自動車販売の拡大可能性のある国においては、一足飛びに現地生産とはならず、コストを含めた物流の最適化が、販売拡大において重要なポイントとなると考える。

上記で述べさせていただいた物流戦略で考えるべきと思われるポイントは主要なものの一部であり、状況によって他の点も含めて総合的な構想を練ることにより、自動車販売競争力を支える一助となるものと考える。

 

 

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