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REPORT

業界レポート『ポスト・コロナのモビリティを考える』

自動車業界、そして未来のモビリティ社会に関連する業界の最新動向や、世界各国の自動車事情など、さまざまな分野の有識者のレポートをお届けします。

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 アメリカ合衆国の3月の乗用車(LV: Light Vehicle)新車販売台数速報が先週末(4月2日)発表された。新型コロナ・ウィルスの影響により、3月単月の販売台数は990,332台、前年同月比38.4%の大幅減、SAAR(Seasonally Adjusted Annualized sales: 季節調整済年率換算)では1,135万台を記録した。しかも、未だ回復の見通しは立たない。3月最終週の失業保険申請件数も史上空前の660万件以上を記録する中、今月(4月)の新車販売は年率(SAAR)600~700万台まで落ち込むと言われる。リーマンショック直後2009年2月に記録した910万台を大きく下回る見通しだ。

 

 Moody’sは、3月26日付で、日産自動車の格付けを2段階(Baa1⇒Baa3)引き下げた。また、トヨタ自動車(Aa3⇒A1)、ホンダ(A2⇒A3)、ヤマハ発動機(A3⇒Baa1)、BMW(A1⇒A2)、Ford(Ba1⇒Ba2)についても夫々1段階引き下げた。また、前日3月25日には、欧州自動車OEM 7社(Daimler、Jaguar Land Rover、Peugeot、Renault、Volkswagen、Volvo、McLaren)についても格付けを引下げ方向で見直す旨を公表している。Moody’sは、新型コロナ・ウィルスの流行により、今後数か月の間に、特に欧州と北米で需要が低下し、グローバルでは2020年年間で約14%減少するとみている。

 

 一方で、世界に先駆けて新型コロナ・ウィルスの攻撃を受けた中国からは、徐々に楽観論が伝えられている。中国人民銀行副総裁は、今後のマクロ経済見通しに関して、「第2四半期に大幅な改善を示し、後、直ぐに潜在的なパフォーマンスレベルに戻るだろう」と表明した(3月22日)。果たして如何か、今後の動向が注目される。

 

 今後、いつになれば事態が落ち着くのか、新型コロナ・ウィルス問題の「終息」にまでは至らずも「収束」を迎えるのか、いまだ予測が立たない。但し、仮に収束を迎えられたとしても、世の中そのものが大きく変化することは間違い無かろう。著名なジャーナリストThomas Friedmanはこのことを「我々はB.C.(Before Corona時代)からA.C.(After Corona時代)へ突入した」と表現した。そして彼は、次の様に語る。「2004年以降、世界はフラット化した。そして、好む好まざるを問わず、相互接続・相互依存となった。結果、経済のグローバル化が進む一方、世界のどこかで悪弊が生まれれば、それが瞬時に世界中を拡散する。そして今、私たちは『指数関数的に増殖する新型コロナ・ウィルス』に対し『指数関数的に進化するITとバイオテクノロジー』を以て挑もうとしている。然し、その結果、巧拙には、社会的・政治的要素が大きく影響する(中国やシンガポールの状況と、日本やアメリカの状況を比べれば明らか)。新たなワクチンが生まれるまでには、少なくとも1年と言われるが、多分、より長期を要するだろう。何故なら、HIVやマラリアについても未だワクチンは開発できていないのだから。つまり、相当の期間、私たちは、新型コロナによるポテンシャルなリスクと同居し、うまく行けば懐柔して生きなければならない。つまり、私たちの生活も、社会も、文化も大きな影響を受けるだろう」と。

 

 モビリティをとってみても、新型コロナの影響は既に表れている。Uberは、3月17日、アメリカとカナダでの「Uber Pool」(乗合マッチングサービス)の提供を一時的に見合わせると発表した。このことは、「三密(密閉・密集・密着)回避」の原則からすれば至極当然に思える。Lyftのライドヘイリング・サービスも深刻な状況だ。需要が約20%減少し、サービス料金(ライドプライス)は11%値下がりしている。また、今後、需要は更に低下(約35~60%減)とも予想される。対して、LyftはAmazonと組み、余剰となったドライバーの問題に取り組む。Amazonはドライバーに対し、買い物代行、倉庫作業員、荷物の配達の仕事を提供している。

 

 マイクロモビリティについては、更に事態は深刻だ。大手LimeとBirdはフリートを大幅に削減する一方、WheelsやJumpをはじめ、幾つかのスタートアップは事業継続を模索している。背景には、都市封鎖による移動需要の縮小があり、既に多くが事業存続の危機を迎えているといわれる。マイクロモビリティ事業については、「未知数の見知らぬ人が触れる車両を共有することによるウィルス感染への恐怖」、というマイナスの見方がある一方で、「都市封鎖解除後、移動が復活すれば、混雑する地下鉄やバスの利用を避け、代わりにスクーターを使うのでは?」というプラスの見方もある。何れが正解かは、まだ判らない。

 

 BEVをはじめとする電動化に関しての流れについて。欧州では、コロナ前の2月まではEV販売は順調だったといわれる。2020年1-2月で、BEVは38,700台、PHEVは28,700台と、夫々、前年同期比92%増、153%増を記録していた。2月単月での販売上位モデルは次の通り。

              Renault Zoe         6,391台

              VW Golf-E           3,695

              Tesla Model 3      3,481

              Peugeot 208EV    3,463

              Nissan Leaf         2,416

 

 アメリカについて言えば、GMは、新型コロナが猛威を振るう中でも、予定通りデトロイト工場のBEV製造改造工事を3月16日から着工した。GMはこの改造工事に22億㌦を投資し、GMC Hummer EVを2021年後半に生産開始する予定だ。GMは長期的にみれば、BEVの普及は進むとみているのだろう。対して、一方、Trump大統領は3月31日に新燃費基準を発表した。これまで求められてきた「2026年までに54miles/gallon(CAFÉ)」は「40miles/gallon」にまで緩和された。それは、Obama前政権が掲げた気候変動対策を根っこから覆すものだと言われている。新たな基準についてAndrew Wheeler環境長官は、「新基準により、クルマに対するTCO(Total cost of owing)は燃料費増を織り込んでも1,400㌦削減される。結果、新たに年間270万台の新車需要が生まれる」、「自動車OEMは新基準の下、150億㌦を新たな目的に投資することができる。結果、2029年までに交通事故死傷者合計で49,300名(死者3,300+傷害46,000)の削減が見込まれる」、と語るが、当然ながら健康保全や環境保護の観点からは強い反発を受けており、今後は法廷での激しい論争が展開される見通しだ。果たして、新基準に自動車OEMがどう反応するかも注目される(これより先、カリフォルニア州独自の燃費基準制定をめぐっては、GM、トヨタ、FCAは反対、VW、Ford、ホンダ、BMWは支持を表明している)。

 

 なお、環境規制を巡っては、中国でも一部の排出基準を緩和する方向で検討が進んでいるようだ。7月1日からChina VI Emission Standardが発効する予定だが、新型コロナ・ウィルスによる衰退した経済を考慮し、導入を遅らせるものと思われる。中国国内では、新型コロナ蔓延により、新規制未適合車の在庫が数百万台単位で積み上がっていると言われる。

 

 以上の観察の結果を纏めれば、「A.C.時代のモビリティ事情」については、次の様な仮説が言えるのではないか。

  1. 新車販売需要は、新型コロナの見通しが立ち、経済活動が復活するまでの、少なくとも今後1年間は低迷が続く。今、机上にある「2020年グローバル販売台数予測=年率12~14%減」は「2020年第4四半期における回復」を前提としているが、今後更にコロナ対応が長引けば、更なる下振れを避けられない。
  2. 今回の新型コロナをはじめ、SARS、エボラ熱等、既に20種を超える新たな感染症が世に出るようになった根底には地球温暖化が強く影響しているといわれる。このことに正面から向き合えば、今後、ESGやSDGsを始め「サステナビリティ」に対する社会要求は更に高まるだろう。
  3. 当面マクロ経済が縮小する中、環境基準は自体の若干の見直しや導入時期の遅延はありうるが、規制の方向性は従来と変わらない。自動車業界はマクロ効率化に向けた競争領域と協調領域の整理が進むだろう。つまり、各社のCASE対応をとっても、これまでの様に総花的な対応ではなく、より投資対象を取捨選択したものとなるだろう。
  4. より身近な観点で言えば、モビリティ利用者は、何れも、負担を抑え、一方で、クリーンでパーソナル、かつフレキシブルな最低限の移動を志向する。結果、シェアリングの進行には賛否両論があろう。新車市場についていえば、これまでのSUV志向から、より日常の移動を意識した短距離で経済的な小型のクルマに対する志向が強まるだろう。
  5. いずれにせよ、少なくとも、日常の「足」については、BEV化が進むだろう。TCOが追求される中、バッテリーのシェアリングを含むインフラシステムの見直しが進むのではなかろうか。
  6. ここ当面、「巣ごもり」需要は継続する。結果、ヒトよりもモノの移動が増える。結果、物流目的でのMaaSの進化、特に“Door to Door”でのラストワンマイルの効率化に向けた技術、サービスは進化するだろう。

 これらについては、私の本業として、今後よくスタディしていきたい。

 

 3月25日、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんは、自身のSNSで新型コロナ・ウィルスの感染を疑いしばらく外出を差し控えると表明した。それでも、地球温暖化回避に向けた訴えを緩めようとはしない。

 

 パリでは、新型コロナ対策の為のロックダウンの結果、地球温室効果ガスの排出量が急速に減ったと言われる。ここ数日、東京でも窓を開けると空気がきれいになった感じがする。どうやら、今まで遠くに思っていた将来は、実は余り遠くなかった様だ。サステナビリティはついに限界を迎え、「自浄」に向けて神の見えざる手がついに動き出したのかもしれない。

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【出典】

  1. https://www.marklines.com/en/statistics/flash_sales/salesfig_usa_2020
  2. https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-03-31/automakers-are-about-to-give-inkling-of-the-sales-collapse-ahead?srnd=hyperdrive&sref=egBSY9BS
  3. https://www.moodys.com/researchdocumentcontentpage.aspx?docid=PR_421420
  4. https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-03-25/european-auto-giants-warned-on-credit-ratings-as-risks-mount?srnd=hyperdrive&sref=egBSY9BS
  5. https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-03-22/china-talks-up-post-virus-rebound-as-world-economy-shuts-down?sref=egBSY9BS
  6. https://www.nytimes.com/2020/03/17/opinion/coronavirus-trends.html
  7. https://adage.com/article/digital/amazon-teaming-lyft-recruiting-its-drivers-ride-hailing-demand-drops/2246866
  8. https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-03-26/scooter-companies-pull-out-of-cities-worldwide-amid-pandemic?srnd=hyperdrive&sref=egBSY9BS
  9. https://electrek.co/2020/03/27/european-ev-registrations-up-by-92-in-february/
  10. https://electrek.co/2020/03/17/gm-starts-retooling-its-detroit-plant-for-electric-vehicles-despite-coronavirus/
  11. https://www.theverge.com/2020/3/31/21201036/trump-epa-obama-fuel-economy-rule-rollback-emissions-consumer-cost
  12. https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-03-18/china-may-help-struggling-carmakers-by-relaxing-emission-curbs?sref=egBSY9BS
  13. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200325/k10012348651000.html

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