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業界レポート『CASE最前線』第2回  ”コネクティッド”

自動車業界、そして未来のモビリティ社会に関連する業界の最新動向や、世界各国の自動車事情など、さまざまな分野の有識者のレポートをお届けします。

朝、私はハンドルを握り、首都高を走っていた。梅雨の合間の青空は爽やかで、思わずコーナーを攻めたくなる。すると、クルマの音声案内曰く、「ここから先、暫くは事故多発区間です」と。思わず、私はアクセルを緩めた。さらに暫くすると、また曰く、「この先、工事の為、車線が狭くなります。運転に十分注意して下さい」と。私は注意して走ったが、工事は無かった。すると、トンネルを抜けると再び、曰く、「xxトンネルの先、渋滞はありません」、私は「うん?」と思いつつも、その親切心に仄かな感謝を感じた。朝日が濡れた路面を照らしていた。

今日、クルマは色々なものと繋がっている。上述は、首都高のVICS(Vehicle Information and Communication System)についてのものだ。残念ながら、特にリアルタイムの渋滞情報の精度については、未だ疑問を持つ局面は多々あるものの、事故に対する注意喚起等、過去データに裏打ちされた類については、何となく納得感を受ける。確かに「事故多発地域」と言われれば、自ずと注意は高まる。このようにクルマは確かに以前よりも賢く、安全になっている。

コネクティッド”とは   

コネクテッド・カー(Connected Car)はコンピューターネットワークへの常時接続機能を具備した自動車である(Wikipediaより引用)。

クルマは、IT技術を取り入れることで、着実に進化を遂げている。クルマの電子化・IT化は、内燃機系の電子制御化にはじまり、カーナビ搭載による外部との通信接続化、搭載されるセンサー機能の充実を通じて、クルマ内部の通信系(CAN: Controller Area Network)の整備、更には、車載通信機(DCM: Data Communication Module)等を通じての外部との常時接続へと進化してきた。安全性は元より、効率性、利便性も格段の進歩が期待される一方、主にIT業界からの異業種の参入、そうした機能の「利活用」に関しての問題も生まれている。コネクティッドは、クルマ自体の構造を変え、更には、自動車OEMの組織構造、産業構造をも変えつつある。まさに、コネクティッドは今日の基盤技術であり、コネクティッドを起点として、今、様々な進化・変化が生まれている。

コネクティッドの源(みなもと)   

 1939年 ニューヨーク万国博覧会にて、General Motorsは未来都市のジオラマ「フューチャーラマ」を出展した。そこには、高層ビルが立ち並ぶ都市中心部と、郊外の居住地区、そしてそれらの間に、自動運転を可能にする高速道路網(Automated Highway System)が張り巡らされた様子が、”流線型の鬼才”、Norman Bel Geddesによる立体デザインによって表現されていた。アメリカは、1937年ごろ、モータリゼーションを迎えたといわれる。当時、年間4百万台の新車が販売され、クルマの普及が進む一方、交通事故や大気汚染公害等の新たな問題に直面するようになった。フューチャーラマは、斯様な社会問題を解決した「1960年代のアメリカ」の姿であった。

しかし、現実はGMが描いた通りには進まなかった。

1956年には、代わりに、自動運転のクルマに乗って、車内でゲームをしながらハイウェイを走る家族の姿が夕刊紙に掲載された。

紙面には「電子制御デバイスを地中に埋めたElectric Super Highwayが、渋滞、事故、そしてドライバーを運転による疲労から解放する」との解説が付されていた。ただし、単なるイメージの世界だけではなかった。実際に、1950年代後半、Radio Corporation of America(RCA)はGMと共同で、道路内に埋め込まれた電子回路からの信号を通じて、クルマを自動で走らせる「未来の高速道路」の実験を、実際の道路を使って行った。しかし、大きな重量のかかる道路の下に高度な装備を展開すること自体に当然無理があり、この構想も最終的には実用化にまで至らなかった。

では何故、そのような無理な構想に至ったのか? それは、当時、コンピューターはまだ実用化されたばかりで大型であり、クルマに搭載できるとは到底考えられていなかったためであった。しかし、その後、技術の著しい進化により、コンピューターは小型化し、十分クルマに搭載できるようになった為、運転の自動化に向けたアプローチは、「道路を賢くする」ではなく、「クルマを賢くする」方向に転換がなされた。一方で、クルマを外部の色々なものとつなげて、その利便性を高めよう、という試みは、ICT技術の進化の下、途絶えることなく進化を続けた。クルマもその他デバイスと同様、Internet of Things(IoT)の一環として、インターネットに常時接続され、今日のコネクティッド・カーが生まれた。

コネクティッド・カーの普及

IHS Markitが提供するデータによると、2030年にはグローバルで新車販売の93%にコネクティッド機能が装備されると予測される。2015年時点では、同割合が27%であることを考えれば、今後、コネクティッドはグローバルにかなりのスピードで普及する。このことから、「過去のパソコンの歴史さながらに、ネットワーク化と共に、それまでクルマ本体にあった付加価値がネットワークにシフトする」、「故に、自動車産業は大きな構造転換を迎え、新規参入者であるICT企業に征服される」、という理屈も実しやかに語られるが、筆者はそうした理屈には与しかねる。何故なら、クルマは人の命を預かるものとして、過去100年あまりの期間を通じて刻々と進化を重ねてきたものであり、その単体のみをとってみても、制御と動作、ソフトとハードが絶妙に噛み合って動く、複雑な機能の集合体だからだ。これら単体の価値がすんなりそのままネットワーク価値に取って代わられるとは到底考え難い。

クルマの電子化

クルマの電子制御が本格的に導入されたのは、1970年代に遡る。米国マスキー法をはじめとする排ガス規制対応の為、エンジンをデジタル制御する目的でMicro Controlling Unit(MCU)を使ったElectronic Control Unit(ECU)が搭載されるようになった。その後、1980年代に入り、クルマの安全性、快適性が問われる様になり、エンジン以外の部位、例えばトランスミッション、サスペンション、デジタルメーター、空調機器、ドアミラー等々、数多くの部位にECUが搭載される様になった。1990年代に入リ、多くのモデルにカーナビが搭載され、普及が本格化し、クルマには新たに情報通信機能が加わった。更には、クルマに色々なセンサーが搭載され、多機能化が進んだ。加えて、90年代終わりに、ハイブリッドが導入され、駆動の電動化が始まった。これら電子化の進行と共に、クルマ内部の電気電子系統の整流化が求められ、車載LANが採用される様になり、クルマ内部におけるコネクティッドが進化した。2000年以降は、クルマの情報通信機能は更に強化されてインフォテイメント機能の導入が進み、Intelligent Transportation System(ITS)、先出のVICSにより、道路等インフラとのコネクティッドが進化した。今日は、クルマは、スマホやタブレットと同様に常時接続機能を持ち、外部とのコネクティッドも本格化した。

以上、述べた様に、クルマの機能が高度化し、ハードウェアの電子化が進行すると、そこに組み込まれたソフトウェアも急激に存在感を増す様になった。クルマに搭載されているソフトウェアのプログラム行数は、2000年時点の100万行から、2016年には100倍の1億行へと飛躍的に増えた。今や、その行数は、F35戦闘機に搭載されたプログラム行数の4倍に相当する。更に、今後、CASEの進展の中、プログラム行数は100億行まで増えるとも言われる。

これら一連の電子化の進展により、クルマの価値全体におけるソフトウェアを含む電気電子部分の価値は、全体の過半を占めるに至っている。つまり、クルマは、かつての「メカ、ハードウェア、単体」が主たる存在から、「エレキ、ソフトウェア、システム」を主とする存在へと大きく変化した。

車載ネットワーク

クルマの電子化が進む中、クルマ内部では、ECUの数が急速に増え、今日では、クルマ1台あたり100個を超えると言われる。また、個々のECUも情報処理能力の向上のため、大型化が進んだ。電子化が進む中、各動作系を構成するセンサー、ECU、アクチュエーター、更には、動作系同士をつなぎこむ導線の量が膨大になり、複雑化したため、車内をネットワークとして整理して、導線をワイヤーからハーネスに置き換えて、整流化する必要が生じた。そこで、Boschは、Controlled Area Network(CAN)を1985年に発表した。CANは、1990年ごろからクルマに採用され、1994年には、ISOにより国際標準化された。今日では、殆ど全てのクルマがCANを搭載している。

CANは、クルマに搭載されることを目的に開発された車内LANの通信プロトコルであり、一番の特徴は、車載のコントローラーやデバイスがホストコンピューターを介さずに接続されていることである。クルマは、利用者による好み、アプリケーションが実に多様であり、購入時に色々なオプションを選択して組み合わせられる他、購入後も、標準オプションを追加装備できることが求められる。斯様な柔軟性に対応すべく、クルマについては、ホストコンピューターを介した「中央集権型」ではなく、各ECU毎に制御機能を纏めた「権限分散型」であるCANが採用された。

今日、CANは、パワートレイン系、車両制御系、ボディ制御系、情報系(但し、高速通信が求められるカーナビは除く)の様なさまざまな車載アプリケーションで使用されている。

しかし、現在のCANが導入された1990年代のクルマに対する要求と、今日のそれとは、大きく異なる。クルマの電子制御化が進む中、個々のECUの情報処理能力に頼る権限分散型では、高度化の限界がある。なおかつ、機能そのものが多様化しつつあり、特にADAS(高度運転支援システム)が採用され、クルマ単体の中でも機能間のつながりが重視され、更には、クルマと外部との接続(コネクティッド)という要求に対応する中、車載ネットワークの形態も新たな展開が求められている。分散したユニットの単なる集合体ではなく、予め、アーキテクチャとして構造化されたシステムを敷き、上述の様な車載アプリケーション毎に中央集権化し、アプリケーション毎にCentral Processing Unitを配するという形に再度、整流化することが検討されている。

コンピューターにおけるソフトウェアの進化

コンピューターのハードウェアとは、コンピューターの装置として目に見えるもの一切を指す。一方、ハードウェアは、ソフトウェアを組み込んで使い、ハードウェアとソフトウェアとは相互補完関係にあり、一体となってシステムを構成する。ちなみに、ソフトウェアについては、「データ処理システムを機能させるための、プログラム、手順、規制、関連文書などを含む知的創作」と定義されている(JIS情報処理用語集)。

コンピューターの歴史を紐解くと、当初、ソフトウェアはハードウェアの付属品として無償で扱われていた。しかし、コンピューターシステムそのものが高度化し、ハードウェアは勿論、それを稼働させるソフトウェアも高度化が進む中、ついに、IBMは、unbundling=価格分離方式を提唱した。1968年のことだ。

その後、ソフトウェアについては、基本的な制御機能を司るシステム・ソフトウェア(Operating System=OS)と応用ソフトウェアへと分化が進んだ。結果、同じOSさえ搭載されていれば、ハードウェアの差は問われなくなった。パソコン時代を迎え、WindowsがOSとして絶対的な支配力を持った結果、ハードウェア自体はコモディティ化し、付加価値の源泉はソフトウェアにシフトした。また、Windowsの好敵手となるべく、フリーかつオープンソースなOSとして、Linuxが進化し、普及が進んだ。斯様に、OS上に共通化されたインターフェースを通じて、色々なアプリケーション要求を満たす応用ソフトウェアを搭載し、プラットフォーム化が進んだ。

加え、20世紀末、サンマイクロシステムズ社がJava言語を開発導入したことで、特定のOSプラットフォームに依存しないプログラム作成が可能となった。Java言語API(Application Programming Interface)を使った本格的なオープンプラットフォーム時代が到来した。あるソフトウェアの機能をAPIとして公開することで、外部からもその機能を利用することが可能になる為、外部の開発者が、自らプログラムを開発せずとも、自分のソフトウェアにその機能を埋め込むことができ、アプリケーション同士が連携することも可能となった。オープンAPIの活用により、AmazonもTwitterもビジネスを大幅に拡大した。

APIはすでにモビリティの世界でも活躍している。例として、UBERの場合、必要とされる地図、通話・SMS、決済といった多様な機能について、APIを通じて、地図はGoogle のGoogle Map、通話・SMSはTwilio、決済はPaypalのBraintreeの機能を利用している。斯くして、オープンAPIの提供側は自社サービスをUBER以外の企業にも多く提供し、そのサービス・機能におけるプラットフォーマーとしての自社の地位を拡大している。

以上、コンピューター、ICT技術の進化過程をレビューしたが、それらは次の様なステップにまとめられる。

  1. ソフトウェア価格の別表示(unbundling)
  2. システム自体のアプリケーション毎の分化
  3. OSと応用ソフトウェアの分化、OSを基軸としたプラットフォーム化
  4. APIによるオープンプラットフォームの本格化

クルマにおける電気/電子の付加価値割合が増加する中、コネクティッドカーにおいても、これと同様の進化が起こるものと考えられる。

クルマのシステム化 

話題をクルマに再度戻す。先述の通り、クルマの主体的価値は「メカ、ハードウェア、単体」から「エレキ、ソフトウェア、システム」へと進化してきた。ただし、あくまでもこれら2つの括りが相互補完的に一緒になってシステムを構成することには変わりはない。

クルマは、数えようにもよるが、合計4万点程度の部品から構成されていると言われる。嘗てはそれらがいずれも特製のまま、モデル毎に擦り合わされることでインテグラルなシステムを構成していた。しかし、その他工業製品と同様に、クルマにおいても、機能と構成部品とが入り乱れた複雑な構造であったものが見直され、いくつかのサブシステムに切り分けられる様になった。このことは、先にCANの説明の中で軽く触れた通りだが、サブシステムはそれぞれが認知・判断・操作という一連の機能を持つ。今日のクルマの構造は、アーキテクチャという全体構造の下、サブシステムを司るモジュールが存在するという二重構造の建付になっている。アーキテクチャ・モジュール構造の先駆的存在であるVolkswagenのMQBアーキテクチャについて言えば、総部品点数4万点のうち、7割は約500のモジュールに統合され、それぞれのモジュールは標準化されることで、車種、車台を跨いだ共通化が進められている。更に、それぞれのモジュールは、制御を司るソフトウェアと、アクチュエーターとファウンデーションからなるハードウェアから構成されている。因みに、ここでいう「アーキテクチャ・モジュール」の考え方は、ICTにおける構造論と同様のものだ。つまり、クルマは、コンピューターが如く、コネクティッド化される中で、その実際の構造も、また、裏で支える理屈においても、ICT的な方向に変貌してきている。

コネクティッド時代におけるクルマの構造

今後、コネクティッド化が進む中、クルマにおいても、ハードウェアとソフトウェアの切り分けが進むことになる。ICTの歴史より遅れること、IBMによる最初のunbundling以来50年、Windows OSの出現による本格的なハードウェアとソフトウェアとの切り分けから数えても25年余りの歳月を経ることになる。このことからも、如何にクルマが複雑かが窺える。ICT技術が指数関数的に急激に進化する中、ソフトウェアとハードウェアの切り分けは最早、待った無しであり、ハードウェアは変えずに、ソフトウェアを無線を通じてクルマに配信することでシステムを刷新するOver The Air(OTA)のオペレーションが、2020年に向けて法令を通じて正式に認められる見込みである。

また、コネクティッドの進展に伴い、クルマが処理するデータ、情報量は飛躍的に増加する。このことに対応すべく、現状のCANはその構造を改め、最終的には、現状の権限分散型ではなく、ある程度、車載アプリケーション毎に統合化され、更には、それを中央で束ねる中央集権型の構造へと変化が進む。そして、この変化は、クルマの構造のアーキテクチャ&モジュール型への変化と同期して進む。つまり、コネクティッド化の進行がモジュール化を進め、更には標準化、共通化を進める様になる。

コネクティッドによるデータのビジネスへの活用

先にUBERのビジネスモデルとAPIの事例を述べたが、斯様に、コネクティッド技術を通じて、保険、駐車場、医療、各種サービスや商品に関するe-commerce、物流サービス、その他各種公共サービスなどがモビリティ・サービスのプラットフォームにビルトインされている。これらサービスはいずれも、ドライバーやモビリティに関する情報やデータをコネクティッドを通じて取り込むことで効率化を進め、他サービスとの複合化を通じて、高度化・高付加価値化することを目指している。まさに、データは今後のビジネスの発展を担う重要な資源であることは、クルマやモビリティの世界においても然りである。

CAN内部の車載ECUを通じてクルマで生成されるデータは、個人情報保護の観点から、自動車メーカーやサプライヤー等が勝手に活用することはできない。但し、例えば、車載ナビゲーション等の利用契約の中には、一定の利用目的におけるデータ利活用を許諾する旨の条項が含まれており、クルマの所有者やドライバーがその条項を許諾しているのであれば、データを活用することは可能になる。

また、2017年の個人情報保護法改正により、特定の個人を識別できない様に加工した「匿名加工情報」であれば、一定の条件の下、必ずしも本人の同意を得ることなく、データを第三者に提供する道が開かれた。

こうして、CAN内部の車載ECUを通じてクルマで生成されるデータは、自動車OEMにとっては彼らしか手にすることのできない、今後のサービスの差別化、新たなビジネスモデルの創造を齎す重要な経営資源であり、GAFA等の第三者にそれを奪取されることの無いように、自動車OEMはCANを極めてクローズドに扱ってきた。しかし、自動車分野においてもAPIは普及しており、オープン・プラットフォーム化が進む中、GAFAと日本の自動車OEMは、全く対立する関係になるのではなく、ある程度距離をつめて歩調を合わせる方向に進みつつある。

 

(続く)

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