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REPORT

業界レポート『トヨタi-Road公道試乗記@東京モーターフェス2018』

自動車業界、そして未来のモビリティ社会に関連する業界の最新動向や、世界各国の自動車事情など、さまざまな分野の有識者のレポートをお届けします。

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トヨタi-Road公道試乗記@東京モーターフェス2018

2013年のジュネーブモーターショーで発表、その後各地での実証実験に供され、Times Car Plus x Ha:moによる東京都内での商用実証も行われていますので、既に良く御存知の方もいらっしゃるかと思われますが、10月6日~8日に開催された東京モーターフェス2018(主催:日本自動車工業会)にてトヨタ自動車のパーソナルモビリティ、i-Roadを公道試乗する機会に恵まれましたのでレポートします。

i-Roadとは?

2013年3月のジュネーブ国際モーターショーにおいて、トヨタ自動車がコンセプトカーとしてワールドプレミアした超小型電動パーソナルモビリティです。

前2輪、後1輪の「三輪車」で、後輪操舵と車体の傾きを自動的に制御する「アクティブリーン機構」の採用により、「取り回しの良さ(最小回転半径:3m)」「安定した走行」「クルマやバイクとは異なる一体感のある走り」を実現しています。

 

今回試乗したi-Roadの仕様

全長:2,350mm
全幅:870mm
全高: 1,445mm
最高時速: 60km/h
乗車定員:1名
充電所要時間:3時間(100Vの家庭用電源)

1充電当たりの走行距離: 50km(30km/hの定速走行時。実用的には30km程度と試乗の際、説明員の方からはお話しがありました。)

東京モーターフェス2018での試乗申込み

少々脱線しますが、今回の東京モーターフェスではクルマ・バイク、会場内・公道を含め、10を超える試乗体験イベントが企画されており、事前申し込みが必要だった「夢の大橋自動運転試乗会」(東京都主催)を除くと、試乗体験の申し込みは「会場内で」「スマートフォン上のアプリから」「開催時刻の2時間前以降に」行うというシステムを採用していました。例えば14:00開始の試乗体験には、12:00(以降)にモーターフェスの会場内からスマートフォンで申し込むことになります。

賛否両論あると思いますが、個人的には「予約だけして実際には試乗に来ない」というケースを減らす効果が期待でき、また、会期前の予約ではしばしば発生する「せっかく試乗しようと思って来たのに、全て予約で埋まっていた」「予約しようとしたけれど、全て埋まっていたのでイベント自体に行かない」という不満を持つ方も減らせるという意味で、良いシステムだと感じました。

i-Roadの公道試乗(会場内の特設コースでの試乗も開催されていました)は、最終日の10月8日は1日に3回、定員は初回・2回目が各5名、最終回は4名と「狭き門」で、初回は11時の入場直後に満員に、2回目は申込み開始時刻に別の試乗体験を入れていたためエントリーできず、最終回はスマートフォンとにらめっこで「ジャスト2時間前」に申し込みを行い、間一髪で予約が取れました。

公道に乗り出すまで

i-Roadは「クルマやバイクとは異なる一体感のある走りを実現している」とうたうだけあって、運転感覚がクルマやバイクを大きく異なります。従って、免許証(普通免許が必要です)を持っていても、いきなり公道に乗り出すというわけにはいかず、会場内のコースで「i-Roadの運転感覚に慣れる」ことから試乗が始まりました。

インストラクターの指示に従って、まっすぐ走る、普通に曲がる(実はこれがクルマとは感覚が大きく異なり最初は難しい)ことから始まり、停止状態からほぼ直角に曲がる、パイロンスラローム、8の字走行、果てはカーブ中のフルブレーキング!(車体が大きく倒れているのでクルマの運転感覚だと「横転するんじゃないか?」とかなり怖いですが、i-Roadはしっかり止まり、自分で起き上がってくれます)等の練習を行います。カーブ時に車体が大きくロール(リーン)するので、最初は違和感・恐怖感がありますが、20分程度練習するとi-Road自体がリーンを適切にコントロールしていることが解り、安心してステアリング・ブレーキを操作することができるようになりました。ひとつだけ注意することがあるとすれば、後輪で操舵しているため曲がる時に内輪差は発生しないのですが、車体後部が曲がる側と反対に膨らむ(お尻を振り出す、といえばわかりやすいでしょうか)ので、例えば左折時には右後方に障害物がないか注意する必要があります。

いざ公道試乗へ!

会場内でのコースでの練習が終わるといよいよ公道に出ます。今回は休日のお台場エリアの比較的空いた道路での試乗が中心でしたが、「EV」ということもあり停止状態からの加速はとても爽快で、一般道では交通の流れにも簡単に乗ることができます。また、バスやタクシーが停車していて道幅が狭くなっている駅前のロータリーなどにも気軽に入っていくことができるのもパーソナルモビリティの良いところで、道幅の狭い住宅密集地での物流にも活躍の場があるのではないかと感じました。但し、現行の道路交通法では今回試乗したi-Road(※)は「ミニカー」に区分されるため、乗車定員1名のみ/貨物積載量は30kgまでに規制されます。
※ 「軽自動車」に区分される2人乗りのi-Roadも開発されています。横浜市などで実証実験が行われている日産自動車の「ニューモビリティコンセプト」も軽自動車として登録されています。

少々気になったところ

屋根があり、ドアもサイドウィンドウもフロントウィンドウも装備されていますので、雨(ワイパーもあります)・風は凌ぐことができますが、エアコンはもとよりヒーターも装備されません。短距離移動を主眼に置いて開発された製品ですから当然ですね。

ですから、悪天候時には自転車・バイクよりは快適ですが、クルマ並みの快適性を期待することはできません。

また、「通常の車の1/2~1/4の省スペース性を実現(トヨタ自動車のプレスリリースより)」しているとはいえ、このサイズのモビリティが「駐輪」できる駅前やスーパーマーケットなどの駐輪場は現状ではなかなかありません(クルマとして「駐車」するしかない)。従来の枠にはまらない新しいモビリティが普及するためには、それらを受け入れるインフラの整備も重要だと改めて感じた次第です。

活躍の場は?

個人的には「クルマやバイクとは異なる一体感のある走り」が大いに気に入り、「気候が良い時にこれで長距離ドライブ(ツーリング)したい!」と感じましたが、そういうコンセプトで開発された製品ではありませんので、どんなシチュエーションでこの新しいモビリティが活躍できるのかいくつか事例を考えてみました。

MaaSの構成要素として

公共交通機関が発達している大都市でも、A地点からB地点に移動するには、直線距離ではそれほど遠くないのに何度も乗り換えなければならないというケースがあります。また鉄道路線は大都市から放射線状に延びていることが多く、直線距離ならば10km程度の「隣の市」に移動するのに、鉄道を使おうとすると相当の「大回り」を強いられることがよくあります。こういうケースで異なる路線の駅間の移動にi-Roadのようなモビリティをシェアリング&乗り捨てで利用できると、移動の利便性が大いに高まるのではないでしょうか。

スマートフォンの路線検索アプリで選択肢の一つとして表示され、事前登録しておけばワンプッシュで予約ができる、という使い方ができるようになれば便利ですね。

アクティブな高齢者の移動手段として

運転免許証を返納する高齢者の方が増え、免許返納後の移動手段の提供/確保が特に地方で課題になっています。

今回i-Roadを試乗して、多少の慣れは必要ですが、一度慣れてしまえば、運転自体はとても簡単であることがわかりました。自転車やバイクのように転倒する可能性も低いので、最高速度を抑え、衝突被害軽減ブレーキ(と、できれば車線逸脱防止システム)を装備することで安全性を確保し、ハードルは決して低くはありませんが運転免許証がなくても運転できるよう制度を改定すれば、「高性能なシニアカー(電動車いす)」として運転免許を返納した方々の行動範囲を拡げる、快適な移動手段として活用できるのではないかという思いを強く持ちました。

住宅密集地での物流手段として

前述の通り積載量の規制緩和が必要になりますし、車体の形状も物流に適したものに変える必要がありますが、全幅870mmの「狭さ」と後輪操舵による取り回しの良さを活かし、道幅の狭い住宅密集地での物流で活用することは、i-Road(のプラットフォーム)に新しい可能性をもたらすのではないでしょうか。

まとめ

「次世代モビリティの研究」を生業としているにも関わらず、「パーソナルモビリティ」「超小型モビリティ」を運転するのは今回が初体験でした。

正直に申せば、試乗する前は「所詮はパワートレーンを積んだ小さな移動手段、小型バイクと何が違うの?」という思いを抱いていましたが、百聞は一「乗」に如かず、実際に乗ってみると、この小さなモビリティが持つ様々な可能性がおぼろげながら見えてきました。

新しいモビリティを普及させるためには、製品そのものの魅力/有用性の向上のみならず、既存のモビリティを基準に作られている規制/インフラも変えていく必要があり、一朝一夕にというわけにはいきませんし、魅力/有用性を社会に訴求する機会も限定されています。

新しいモビリティを開発されているメーカーにおかれましては、潜在ユーザーが実際に新モビリティに触れる機会を少しでも多く作って頂くこと、そしてこのレポートをお読みになられた一人でも多くの方が新しいモビリティに実際に触れる機会を持たれ、そのうち何人かの方が「欲しい!」という声を上げて頂くことを切望する次第です。

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