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業界レポート『利用者目線で考える自動運転の“サービス” –小豆島で見えた課題と期待–』

自動車業界、そして未来のモビリティ社会に関連する業界の最新動向や、世界各国の自動車事情など、さまざまな分野の有識者のレポートをお届けします。

はじめに

 

10月初旬、トヨタ自動車とソフトバンクが新しいモビリティサービスの構築に向けて、新会社「MONET Technologies」の設立を発表しました。日本経済をリードする両社の戦略的提携のインパクトは非常に大きく、現在も多くのメディアで報じられています。

このニュースのなかで筆者が特に注目したのは、新会社の事業の展開先に地方自治体があがっていたことです。それは、ちょうど両社による発表と前後するタイミングで、香川県の小豆島を複数回訪問する機会に恵まれ、地方のモビリティの現状について地域の皆様とお話しをしたばかりだったためです。

日本では人口減少や高齢化社会の到来を迎えるなか、地方の公共交通をめぐる環境はますます厳しいものになると言われています。今回のレポートでは、小豆島の方々とお話しする中で見えた、地方のモビリティに関する課題と、そこで求められている自動運転のサービスを取り上げます。

「小さな日本」 小豆島

 

小豆島は、瀬戸内海・播磨灘にある、人口2万8千人程の島です。小説『二十四の瞳』の作者壺井栄の故郷としても知られており、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。醤油、佃煮、胡麻油、素麺、オリーブ等の生産が昔から盛んであり、いずれも日本有数の生産地となっていることでも有名です。

また、観光産業も発達しており、これから見ごろとなる寒霞渓の紅葉に加えて、エンジェルロードやオリーブ公園の風車等のインスタ映えするスポットもあり、若い人にも人気の観光地となっています。3年に1度開催される現代アートの祭典、瀬戸内芸術祭に合わせて小豆島を訪ねる観光客も近年増えています。

地場産業が発展している小豆島ですが、他の中山間地域や島嶼部と同様に高齢化や人口減少といった社会的な課題も抱えています。2013年には国土交通省より「離島振興法」の指定を受け、島への移住促進や交流人口の拡大、特産品の産業振興等による島の活性化を図っています。

筆者は初めて小豆島を訪れたのですが、ある地場産業の方が小豆島を「小さな日本」と表現されていたことが印象に残っています。海と山に囲まれた地理的な環境、産業を発達させ島外との取引によって発展してきた歴史、高齢化や人口減少等の社会課題に直面する将来像、このような小豆島の特徴を現在の日本と重ね合わせられていました。

小豆島が抱えるモビリティの課題

 

今回の訪問では、行政関係者、交通事業者、自動車関連サービス事業者、物流関連業者、産業団体、教育機関、医療・介護事業者、市民団体等、様々な世代・コミュニティの方々お会いすることができました。

小豆島は、小さい豆と書くため、小さな島というイメージがあるのですが、面積は約150 km²もあり、他の地方の同様に、概ねマイカーでの移動に依存する生活環境となっています。住民の方も「一家に一台ではなく、ひとりに一台、自動車を保有している」と仰っていました。ここでは、地方が直面しているモビリティの課題をお伝えするために、お会いした方々から伺った内容の一部をご紹介します。

モビリティに関する現状の課題

  • 路線バスの便数が十分でない。
  • ドライバーが不足しており、業者間で取り合いになっている。
  • 高齢化が進み、マイカーに依存できない交通難民がいる。
  • 観光客が多い時期は、学生が路線バスに乗れないことがある。
  • 観光地が点在しており、小回りの効く移動が必要。
  • 免許を返納する人もいるが、地域によって返納するタイミングが違う。
  • フェリーと路線バスの連携タイミングが合っていない。

 

実際に島内を車で一周したのですが、集落や観光地が点在していることも分かり、路線バスで島内全て対応することは難しい印象を受けました。また、島特有の課題として、島内外の交通をスムーズに連携する必要性も感じることができました。

自動運転への期待と不安

 

それでは、自動運転にはどのような期待が寄せられているのでしょうか。お会いした方々のコメントの一例を紹介させて頂きますと、「自動運転によってドライバー不足を解消したい」、「社会課題の解決という観点から自動運転を活用したい」、「自動運転が導入されれば、通院や買い物のやり方も変わり、島は一変する」、「ホテルの送迎における自動運転の活用を期待している」等、自動運転に大きな期待が寄せられていることがわかります。

一方で、自動運転に対する不安も抱かれており、「自動運転で何ができるのか、どれくらい安全なのかが分からない」や「自動運転に関する情報が不足している」といった声もありました。

また、「自動運転のデモ走行をやって市民にも見て欲しい」、「自動運転を導入するとなると、インフラ整備が必要になる」、「高低差が激しいため、それに対応する車両のスペックが求められる」、「高齢者には、自動運転のシニアカーが向いているかもしれない」、等、実際に小豆島に自動運転を走らせるうえで必要になる取組みや車両の性能についても言及される方もおり、導入に向けて気運が高まっていることも感じとることができました。

”サービス”として考えなければならないこと

 

様々な世代・コミュニティの皆様と自動運転について話しながら特に感じたことは、「自動で走る機能」だけが求められているわけではないということです。

例えば、高齢者の方から「無人の自動運転バスが走るようになったら、乗り降りをサポートしてくる乗員はいるのか」、「車いすの場合、無人車両にどのように乗ったら良いのか」という声を頂きました。

自動運転の話題となると、車がいかに自動で走れるか、無人で走れるかという側面が注目されることが多いなか、このご意見は走る前後の乗り降りや走行中の乗客へのサポート、自動運転を利用した先での付き添いサポートまでを含めた自動運転のサービスが必要とされていることを示唆しています。

乗り降りをサポートする乗員を自動運転の車両に配置することでこのようなニーズを満たせば、高齢者や車いすの方々が自由な移動を享受できるサービスを提供できると考えられます。

当然のことの様ですが、こういったサービスを地方で実現できることにはもうひとつの意味があります。それは、このサービスが島外への人口流出を食い止める手段にもなるということです。小豆島では、高齢者が自分で車の運転ができなくなり、老後の生活が不便になることを理由に、親族がいる島外へ引っ越すケースがあります。

高齢になっても自由に移動することが可能になることで、生まれ育った故郷から離れる人が減ったり、一度島外に出ていった人が安心して戻ってこられたりするようになるのです。移動が自由になることで、社会参加の機会も広がり、人やまちが活気を持つことにも繋がります。地方において自由な移動を実現し、モビリティの課題を解決できるサービスは、地域社会を持続可能なものにするソリューションにもなり得るのです。

さいごに

 

本稿では、小豆島の紹介に始まり、お会いした方々とお話しするなかで見えたモビリティの課題や自動運転への期待と不安に触れ、そこで求められているサービス像の一例をご紹介しました。

様々な世代・コミュニティの皆様とお話しできたことで、MaaS(Mobility as a Service/サービスとしてのモビリティ)という言葉の通り、自動運転についても出発地から目的地までの移動だけでなく、各地点で必要となる乗降車のサポート、交通手段へのアクセス、料金の決済、交通・観光案内等も含めた包括的なサービスとして捉えていく必要があるとあらためて実感しました。

地方においては、交通事業者のドライバー不足や不採算路線からの撤退等により、公共交通のサービスレベルの低下が進んでいます。いずれも一朝一夕で解決できる課題ではありませんが、前出のMONET Technologiesがどのように地方における新たなモビリティサービスを展開していくのか、今後の動向も注視していきたいと思います。

「小さな日本」小豆島で見えたものは、他の地域においても重なる部分があるのではと思います。この度たくさんの方々から頂いた自動運転への期待やご意見を糧にしながら、地域社会から歓迎される自動運転の実現のために、これからも利用者となる方々の声に真摯に耳を傾け、必要とされるサービスの実現向けて取り組んでいきたいと思います。

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