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REPORT

業界レポート『モビリティ分野に影響を与えるスマートシティ計画の一例(バルセロナ市)』

自動車業界、そして未来のモビリティ社会に関連する業界の最新動向や、世界各国の自動車事情など、さまざまな分野の有識者のレポートをお届けします。

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はじめに

自動車産業は100年に一度の変革期に入っていると言われ、現時点でもその変革期の中にあり、今後の方向性についてはいろいろな想定がある。その中で、モビリティの変革を将来の都市変革の一部として考える見方もある。スマートシティ計画は、都市に住む人々の立場に立ち、IT等の将来の高度な技術を活用し、都市の問題解決、物事の効率化等を目的として取り進めてられているものであり、世界で広く取り組まれている。このスマートシティ計画の中で、バルセロナでの取り組みは、モビリティ分野に影響を与える実績をあげており、本稿にてそのプロジェクトについて紹介したい。

バルセロナ市のスマートシティについて

スペインのバルセロナ市は、最も早く都市改革に着手を始めた都市の一つであり、毎年2月に世界最大級の携帯電話関連展示会であるモバイルワールドコングレスが行われる等、先進的な背景がある。2000年からクリエイティブ産業やイノベーション創出を目指して大規模なスマートシティプロジェクトを推進し、2006年から2008年に掛けてはセンサーを用いた都市マネジメントの取り組みであるICING(Innovative Cities for the Next Generation)プロジェクトを実施。これはセンサーを用いた都市マネジメントの事例としては世界でも最初期のものの一つといわれている。2012年のスペイン金融経済危機をきっかけに、行政と市民が一緒に渋滞緩和やエネルギー効率化等の社会課題の解決に取り組むスマートシティを目指すという現在の方針に見直されている。バルセロナでのスマートシティ計画の取り組みの中で、モビリティに関する大きなプロジェクトの2つ「スーパーブロック」「リングロード」と、快適なモビリティと環境の両立を目指し運用されている統合システム「Sentilo」システムについて紹介する。

スーパーブロック

「スーパーブロック」は都市生態学庁がバルセロナ市に対して提案した交通施策である。バルセロナの都市部は133.4mを一区画とする碁盤の目のように整然と整備されており、この区画9つ分を1ブロック(400m×400mの広さ)として交通計画を再編している。ブロックの中では車両は時速10㎞以下に速度制限され、また、ブロック内の居住者または運送用の車両は例外的に侵入できるが、その他の車両は入れないように制限されている。このルールを都心部全域に適用すれば、都市全体で歩行者空間の率や緑化率が増し、排気ガスの発生は抑制されるというのがスーパーブロックの基本構想となっている。スーパーブロックは中心地の道路を歩行者優先で自動車の流入を減らし、公共スペースを作ることで快適性を高めたと言われている。

 

「スーパーブロック」の概念図

出典:Ajustment de Barcelona

※「スーパーブロック」は、格子状に張り巡らされた都心部の道路を見直し、自動車の乗り入れや流れをコントロールして歩行者専用道路と新しい公共スペースを作る計画。碁盤の目状に区分けされた区画内の道路はすべて一方通行で、速度も低速で制限される。これにより、以前は自動車に奪われていた道路が地元住民の手に戻り、コミュニティも復活しつつある。

リングロード

もう一つの「リングロード」も、最初はオリンピックの時に建設された環状道路の中へ自動車の乗り入れを制限するというのが目的で設けられたものだが、山と海に囲まれた地形を活かすために地域を大きく4つに分けて再定義するという見直しが行われた。単なる快適さだけでなく世界で議論されている気候変動の課題の解決も視野に入れ、自然と共生する緑の回廊都市を作ろうと議論が重ねられている。各エリアで市民が環境を活かした様々な体験ができるよう、市民の憩いの場になるウォーターフロント開発なども進められ、結果的に80%の道路が市民に開放され、ヒートアイランドと騒音を減らし、生物多様性の維持も進んでいると言われている。

Sentiloシステム

Sentiloシステムは2012年11月よりバルセロナ市が主導し開発しているIoT基盤である。SentiloシステムはIoT等のセンサーデータのための基盤であるが、都市に関するデータを集約して活用するための基盤「City OS」を構成する要素の1つとしても位置付けられている。一番良く知られたSentiloシステムの適用事例はゴミ箱へのセンサー適用で、ゴミの量やゴミ箱内部の温度等センシングされたデータをリアルタイムで把握し、ゴミ収集にかかるコストを削減することに成功している。このゴミ箱の例は一例で、スマートパーキングや騒音など、バルセロナ市では今後さまざまな分野にSentiloシステムを適用することで、都市マネジメント業務の効率化を狙っている。また、Sentiloシステムはオープンソースとして公開されており、バルセロナ市以外の都市へ向けた普及活動も展開されている。

「Sentilo」システムとCity OSの概念図

まとめ

現在でもそうであるように新技術がモビリティ分野に導入されれば、それに合わせた道の整備や燃料補給の手段等の新たなインフラも必要となる。また、環境保全等、その都市に住む人々にとってより優先される利益のためにモビリティの在り方が大きく変化する可能性もあり得る。スマートシティ計画が成功に結びつくためには相当な根気と時間が必要と思うが、新技術の導入が新たな都市機能を生み出し、モビリティを含めた広い範囲の産業の活性化につながることを期待したい。

 

【参考資料】

 

 

 

 

 

 

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