AYAの徒然草(50)  『ブラック・ティー』

仕事で成果を出すことにも自分を輝かせることにもアクティブなワーキングウーマンのオンとオフの切り替え方や日ごろ感じていることなど素直に綴って行きます。また、コンサルティング会社や総合商社での秘書業務やアシスタント業務を経て身に付けたマナー、職場での円滑なコミュニケーション方法等もお話していくコーナーです。

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第50回 『ブラック・ティー』

たまに、眠れない夜があります。ベッドに入ってもなかなか寝付けないんです。そんな時は、本を読んでみたり、うつ伏せになったり横になったりして寝る向きを変えてみたり、また、羊を数えてみるものの、一向に眠れないのです。平日の夜は、昼間仕事をしているので体は疲れているはずで、「早く寝ないと翌日辛いんだよなぁ・・・」と焦れば焦るほど、目がらんらんとしてきてしまうんです。そんな時にふと時計を見ると既に 3時を回っていて、「もうじき新聞屋さんが朝刊を配達する時間じゃない!」なんて思えば思うほど、どんどん眠れなくなってしまうんです。ベッドに入ってから既に 2時間半が経過。「もういい。今晩は寝るのを諦めていっそのこと、起きて他のことをしようっと!」と開き直って、ベッドから出て部屋の電気をつけ、軽く体を動かしてみたり DVDを見たりしているうちに、不思議とだんだんまぶたが重くなってくるんです。

中学生の時、風紀指導の先生が校門のところに立ち、登校する生徒を一人ひとり、スカートの丈、靴下の長さ、髪の長さ・色、学生カバンの厚さなどを抜き打ちでチェックする日がありました。先生の目に留まってしまうと、「ちょっとこっちへ来なさい」と入り口の横の方に連れて行かれ、直すようにきつく注意を受けます。最悪の場合は、親に連絡されてしまうんです。ある朝、学校に着くと、風紀指導の先生の姿が見えて、「えー!まずい!!今日は学校に持ってきてはいけないものを持っているんだよなぁ・・・。見つかったらどうしよう!!」と不安になりながら校門の前に来ると、その不安は的中し、先生から「佐藤さん、ちょっとこっちへ来なさい。」と呼び止められてしまったのです。

私の学校では、学生カバンに入りきらないお弁当や体操着は、「補助カバン」という青色のナイロンでできたカバンに入れて学生カバンと一緒に持つことになっていました。その日は、その補助カバンがパンパンに膨らんでいたんです。普通に、お弁当や体操着だけを入れていたらそんなにパンパンになるような大きさではないので、その膨らみは、明らかにそれ以外のものが入っている証拠だったのです。私は、学校には持ってきてはいけないあるものを入れていたんです。友達に借りていた「マンガ本」を 5~ 6冊入れていたんです。友達に返そうと思って学校に持ってきていたのです。

先生に呼び止められて「補助カバンを開けなさい。」と言われた瞬間、「あーあ。友達のマンガ本なのに没収されちゃうよぉ・・・。」と思いながらも、勢い良く「はい、開けました。私はマンガ本を持っています。」と先生に注意される前に、開き直って自らマンガ本を持っていることを告白したんです。そして続けて、「でも、学校では読みません!友達に借りたものを返すために学校に持ってきただけです!!何がいけないんですか?」と開き直りついでに先生に盾を突いてしまったんです。そうしたら、先生は、「佐藤さん、マンガ本を持っていることを打ち明けたとは正直で良いことです。しかし、学校のルール違反には違いないので、このマンガ本は没収します。これは、先生から○○さんへちゃんと返しておきますね。今後は学校に持ってきてはいけませんよ。」と言われただけで済んだのです。

マンガ本を持っていたら、没収の上に親にも連絡が行くのが普通でした。なので、先生のその言葉を聞いた瞬間、さっきまで鬼に見えた先生がまるで別人の優しい先生に見えてきたのをよく覚えています。私は、心の中でガッツポーズをしながら、先生に向って「今日も一日がんばりま~す!」なんて調子の良いことを言いながら教室に向かったあの日の朝の出来事を思い出したんです。

最近たまにある眠れない夜の開き直りも、また、遠い昔の先生に言い訳がましいことを言わずに正直に話した時の開き直りも、私の「開き直り精神」がそう仕向けてくれたんです。人間、開き直ると、ささいなことでも不思議なパワーが出るものです。

そこで、改めて、「開き直る」の意味を辞書で調べてみたら、「それまでとは打って変わって、正面きった厳しい態度になる。覚悟を決めて、ふてぶてしい態度になる。」と書いてありました。なんとなく、これだけを読むとあまり良い意味には取れないかもしれません。でも、開き直ると、必ずしも辞書に書いてあるようなふてぶてしい態度になるとは限りませんよね。

私は、「開き直ること」は、ピンチを乗り切るのに最高のマインドコントロールだと思うんです。心のままに行動していたら、どっちつかずで中途半端になってしまったり、または、もじもじドキドキして落ち着きのない行動になるところを、割り切って腹を括ってしまったことで、結局、良い結果になっているんですから、「開き直り」は素晴らしい気持ちの切り替えだと思うんです。

ところで、今日のコラムのタイトル「ブラック・ティー」と、この「開き直り」とどう関係があるの???と疑問に思っている方、いらっしゃいませんか?コーヒーにお砂糖やミルクなどを入れずに飲むことを「ブラック・コーヒー」と言います。だから「ブラック・ティー」は紅茶に何も入れずにストレートで飲むことを言うのかな???でも、そうだとしても、それと「開き直り」との関連性は???

「ブラック・ティー」とは、私の大好きな小説家、山本文緒さんの作品のタイトルなんです。先日、家で本棚の整理をしていたら、本棚の奥の方から数年前に読んだ「ブラック・ティー」が出てきて、思わず整理を中断してその場で読み始めてしまったんです。人間が開き直る瞬間の心理描写がとても鮮明に、そしてリズミカルに表現されている小説に私は吸い込まれ、それに併せて私の「開き直り経験」がよみがえってきたのです。

本当の「ブラック・ティー」の意味にご興味のある方は、ぜひこの小説を読んでみてください。短編小説なのですぐに読めてしまう上に、「へぇ~、世の中こんな人って本当にいるのかなぁ???いるわけないよな。でも本当はいたりして。」と、世間をちょっと違った目線で見ることもできる小説なんです。電車に乗ったら、「もしかして、あの人がそうかも?」なんて思うんです。

さぁ、本屋さんへ行きたくなってきていませんか?仕事中だから行けないなぁ・・・なんて思わずに、気になってしまったら会社帰りにでも本屋さんに立ち寄ってみてください。「ブラック・ティー」を読んでみたら、あなたの中に眠っていた「開き直り精神」が活動し始めるかもしれませんよ。

<佐藤 彩子>