ハイブリッド自動車の新たな付加価値

◆日野、三洋電機と技術提携。ハイブリッドトラックを活用した物流で

ハイブリッドトラックの大容量電源を利用し、複数の冷蔵庫をトラックの荷室に積み込める車載用冷蔵物流システム「E-CRBシステム」を共同で開発

配送先ごとの冷蔵庫に魚介類などを入れて輸送できるため、外気に触れることなく、鮮度を保つことが可能。また、異なる温度帯で管理する商品を一度に輸送でき、空きスペースには常温流通する商品を積み込める。ハイブリッドトラックの低燃費性などに影響しないかを実証後に市場投入へ。

<2005年10月13日号掲載記事>

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先週 10月 12日から 15日まで 2005 東京トラックショーが開催された。今年のテーマは「笑顔を運ぶ 街に暮らしにユーザーに。」で、軽トラックから大型特殊車両まで約 150台の車両が展示された。

国内大型車メーカー 4 社もエルフ、ファイターなどの新型車を中心に数台のトラックを出展していたが、技術面では 4 社とも「環境」と「安全」を前面に押し出した内容となっていた。まさに今月から新長期規制の適用が開始となり、以降投入する新型車両には厳しい排出ガス規制が義務付けられることもあり、各社とも環境性能には特に力を入れていた。

日産ディーゼルの尿素 SCR や日野の DPR を始めとする排出ガス規制対応技術だけでなく、ハイブリッド技術の出展も乗用車並みに増えて来た。今回も、日野、いすゞ、三菱ふそうがハイブリッドシステム搭載車を展示していた。

消費者が直接購買する乗用車と違い、商用車ではいくら環境面でのメリットを訴えても、乗用車以上に費用格差が大きいため、普及拡大は簡単ではない。既に大型 4 社がハイブリッド車を市場投入しているが、既存のベースモデルと比べ、小型トラックでも百万円程度(補助金等を考慮しても数十万円程度)、大型トラックでは数百万円の価格差があり、燃費改善だけでは費用面でのメリットを打ち出しにくい。また、天然ガス自動車等の対抗手段もある。大手運送会社や地方公共団体が運営するバス会社等では、環境に優しいというだけで導入することもあるだろう。しかし、コスト競争も厳しく、過積載の取り締まりも強化されている昨今、多数の中小企業が占める運送業界に広く普及させることは簡単ではないはずである。

実際、現時点で乗用車よりも普及は遅れている。2003年度の販売台数を見ると以下の通りであり、乗用車の普及率に大きく遅れを取っている。

<ハイブリッド自動車の普及状況(2003年度)>(単位:台)

.               販売台数  うちハイブリッド車  普及率
乗用車(普通・小型)  3,424,101   42,150      1.23%
軽自動車        1,291,819     13      0.00%
商用車(普通・小型)   582,011     240      0.04%
軽自動車         509,044      0       -

(出典:日本自動車工業会 「日本の自動車工業 2005」より算出)

今回は、日野自動車が出展していた「E-CRB システム」について考えたい。同社が提案するシステムは、ハイブリッド自動車の大容量電源を庫内冷蔵装置に活用するものである。同社の資料によると、このシステムの特徴は以下の通りである。

(1)ハイブリッドシステム用の電源を活用することで、冷蔵庫用の専用電源 が不要となる。
(2)庫内が分割されており、冷蔵品(複数の温度設定が可能)とドライ品と の混載が可能である。
(3)日野自動車が実証実験を進める給電スタンドとも連動しており、駐車中 に冷蔵品の温度管理が可能である。
(4)配送センターの冷蔵・冷凍庫から店舗のショーケースまで、外気に触れ させない完全なコールドチェーンを実現する。

このシステムは以下二つの点で注目したい。

一つは、既存のリソースを活用した新たな付加価値の提案である。二次電池はハイブリッドシステムの最大のコスト要因となっている。同社は、これまで導入してきたハイブリッドシステムでも、二次電池をトヨタと共通化するなどの取り組みによってコスト低減に努めてきた。それでも、依然として前述のような価格差があった。

今回のシステムでは、この二次電池をハイブリッドシステム以外に活用することで、ユーザーに新たな付加価値を提案している。魚介類などの生鮮食品の輸送といった個別の顧客ニーズに対応することで、導入促進を狙っている。これまでハイブリッドシステムのために搭載する部品を活用した新機能の提案としては、電動パワステ、駆動モータ、バックモニター等を活用し、自動で縦列駐車を行うトヨタプリウスのインテリジェントパーキングアシストなどの事例もあるが、商用車ではまだ目新しい。今後こうした事例が増えれば、更なる普及につながることは間違いない。

二つ目は、異業種との提携による新たな付加価値の創出である。今回のシステムは三洋電機との共同開発である。業務用冷蔵庫・冷凍庫を製造・販売する三洋電機はトラックの荷台に積載できる配送用冷蔵庫も開発しており、今回のシステムでは、これとハイブリッドシステムを結びつけることで実現した。

日野自動車による異業種との提携はこれだけではない。前述の給電スタンドは東京電力と共同で推進している。エンジン停止時にトラックに電源供給することで、エアコン等を稼動させることができるため、アイドリングストップの推進につながるものである。

自動車メーカーの環境技術の開発は、最新技術の投入が求められ、多額の開発費用がかかる一方で、各社の企業イメージにも大きくつながることから、広告塔のような商品となってしまうことも少なくない。しかし、環境問題への対応が喫緊の課題となっている今、本格的な普及に向けて、各種低公害車の実用性向上が求められている。そのためのリソースが社内だけでは限界があれば、異業種との提携を積極的に進めることも有効である。今回の日野自動車の取り組みに学ぶところは少なくないはずである。

<本條 聡>