水素自動車の存在意義

◆マツダ、水素ロータリーエンジン仕様「RX-8」の限定リース販売を開始

<2006年02月15日号掲載記事>

◆独BWM、2年以内に「7シリーズ」の水素自動車をドイツ市場に投入へ

<2006年02月16日号掲載記事>

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先月、ほとんど同じタイミングで、水素自動車の開発で先行するマツダ、BMWのニュースが流れた。他の自動車メーカーが将来の水素社会に向けて燃料電池電気自動車を開発する中、水素と内燃機関との組み合せを選択した両社の狙いについて取り上げてみる。

【水素エンジンの特徴】

同じ水素を燃料とする燃料電池と水素エンジンだが、その構造は大きく異なる。燃料電池は、水素と酸素の化学反応により電気エネルギーを生成し、これを動力源とするのに対し、水素エンジンはガソリンエンジン同様の内燃機関であり、水素が燃焼する際の熱エネルギーによってピストンを動かしている。

燃料電池と比較した時の水素エンジンのメリットは、以下の 2 つである。

(1)既存の内燃機関技術が利用可能
エンジンの燃料がガソリン等から水素に変わるものの、エンジン以降の基本的な自動車の構造に大きな変化はない。従って、これまで培ってきた内燃機関の技術を利用できるだけでなく、製造設備・部品の変更も最小限に留められる。その結果、コスト的にも有利である。

(2)自然な運転感覚を再現可能
水素自動車の原動力はモーターではなく、エンジンである。従って、トルク特性も既存のガソリンエンジンに近く、自然な運転感覚を再現できる。従って、環境性能と運転する楽しさを両立できる。
(水素を空気と混合して燃焼させるため、若干のNOxは発生するものの、ガソリンエンジンよりははるかに環境性能に優れる。)
ガソリンエンジンよりも環境性能に優れ、燃料電池と比べても上記のようなメリットを持つ水素エンジンだが、普及させるためにはいくつかの課題が残っている。

(1)水素の供給インフラが普及していない
燃料電池とも共通の課題であるが、現時点では水素スタンドが普及しておらず、誰もが利用できるようなものではない。

(2)航続距離が短く、出力も低い
水素はガソリンよりも熱カロリーが低いため、出力も小さくなる。また燃料電池と共通の課題であるが、水素の搭載方法に限界があり、現時点で有力とされる圧縮気体水素ではガソリンエンジンほどの航続距離を稼げない。

【水素とガソリンの両用】

上記のような水素エンジンの課題を解決する手法として開発されたのが、水素とガソリンの両方を燃料として使用できるシステムである。基本構造としては共用できる水素自動車の特徴を活かし、燃料供給システムだけ二つ備えることで、出力が必要なときにはガソリンを燃料として走行できるだけでなく、水素ステーションなどのインフラが未整備の地域でも水素燃料切れの不安がなく走行できる。

今回マツダが開発した水素ロータリーエンジン車「マツダ RX-8 ハイドロジェン RE」も、運転席のスイッチ一つで水素での走行とガソリンでの走行を切り替えられる「デュアルフューエルシステム」を搭載している。先月国交省の型式認定を取得し、販売されることになった。出光興産と岩谷産業に対し、月額42 万円(消費税込)で各 1台ずつリース販売する契約を締結した。納車は 今月下旬に予定されている。同社によると、今年地方自治体やエネルギー関連企業などに合計 10台程度のリース販売を行うという。

前述の通り、水素での走行とガソリンでの走行には性能に違いがある。マツダが公表しているデータは以下の通りとなっており、性能面では水素はまだまだガソリンには及ばない。しかし、環境性能に優れる水素を併用することで、確実に環境負荷は軽減できる。

.               ガソリン     水素
最高出力    154kW(210PS)  80kW(109PS)
最大トルク   222Nm(22.6kgm) 140Nm(14.3kgm)
航続距離    549km       100km
(10・15モード)
<出典:マツダ プレスリリース>

【マツダの水素自動車開発】

マツダの水素自動車開発の歴史は以下の通りである。

1991年 水素ロータリーエンジン第1号車「HR-X」を開発
1992年 燃料電池搭載のゴルフカートの実験走行
1993年 水素ロータリーエンジン第2号車「HR-X2」を開発
水素ロータリーエンジン搭載のロードスター実験車を開発
1995年 水素ロータリーエンジン搭載のカペラカーゴで、
日本初の公道試験走行を実施
1997年 デミオFC-EV(燃料電池)を開発
2001年 プレマシー FC-EV (メタノール改質方式の燃料電池)を開発、
日本初の公道試験走行を実施
2003年 RX-8水素ロータリーエンジン開発車を発表
2004年 水素とガソリンの二つの燃料が使用できる RX-8 水素ロータリー
エンジン開発車による世界初の公道試験走行を実施

<出典:マツダ プレスリリース>

マツダの水素自動車開発の歴史は 15年前から始まっている。注目すべき点は、同社も燃料電池電気自動車を開発していたことである。1997年に開発し、2001年には公道試験も実施している。

しかし、2002年 12月にトヨタ、ホンダが世界に先駆けて燃料電池電気自動車の販売を開始した翌 2003年には、再び水素ロータリーエンジン車の開発を発表する。トヨタ、ホンダ両社に先を越されたこともあるのかもしれない。もしくは、1台数億円とも言われるコストを前に赤字覚悟で販売しなければならない燃料電池電気自動車の市販化において、両社と競争することが得策でないと考えたのかもしれない。いずれにしても、これ以降、将来の水素社会のモビリティとしてマツダは、水素自動車の開発にシフトしたのがこのタイミングであることは間違いなかろう。

【BMWの水素自動車】

水素とガソリンを両用という点では、マツダよりも BMW の方が先行していた。2001年に BMW は水素・ガソリン両用の水素自動車 750hL を日本に持ち込み、国内初の走行実験を行っている。液化水素を燃料にした場合の出力は 204PS、最高速度は 225km/h となっており、ガソリン走行時には劣るものの、実用に十分なレベルの性能を達成している。

そして今回、マツダの発表の直後に、7シリーズをベースに開発する液体水素で駆動する水素自動車を2年以内にドイツで市場投入することを発売した。マツダ同様、水素・ガソリン両用のシステムである。同社によると、販売台数は限られるが、欧州市場だけに限定せず、他の地域へも市場投入することで販売拡大を考えている。

【水素自動車の存在意義】

マツダ、BMW だけではない。Ford も 2003年に水素エンジンとモーターのハイブリッドモデルのコンセプトカーを発表している。月額 80~ 120 万円でリース販売を開始したものの、抜本的なコスト低減にはまだまだ課題が山積みの燃料電池電気自動車に比べ、現時点で月額 40 万円程度という価格レベルを実現し、ガソリンと併用するシステムにより弱点も補った水素自動車は、次世代の環境技術として、より現実的な選択肢と言える。ガソリンと水素を両用できる水素自動車は、将来の水素社会の実現に向けて、前提となる水素スタンドを普及させるためにも、将来への「掛け橋」として重要な存在になると考えられる。

<本條 聡>