ドライブレコーダの普及に向けて

◆KYB、ドライブレコーダー発売。タクシー・トラック・バス等の事業者向け

<2006年05月29日号掲載記事>

◆富士火災、「ドライブレコーダーによる危険運転チェックサービス」を開始

<2006年06月01日号掲載記事>

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近年、ABS やエアバッグなどに代表される自動車の安全技術の向上と普及に伴い、国内の交通事故による死亡者数は着実に減少傾向にある。しかし、依然として 7 千人もの命が亡くなっていることは事実であり、政府としても交通事故死者数の更なる低減に取り組む方針を明確に打ち出している。

これまで、安全技術の中心として普及が進められてきたのは、交通事故時の被害を最小限に留めるための技術であり、「パッシブセーフティ」と呼ばれるものである。前述の ABS、エアバッグや安全ボディなどがこれに相当する。交通事故による死亡者数の減少にも大きく貢献してきたと考えられる。

しかし、交通事故そのものの件数や、交通事故による負傷者数は、依然として増加傾向にある。そのため、現在自動車メーカーがもっとも注力している領域が、歩行者の安全確保や衝突回避のための技術である。特に、危険な状況に陥った時に、衝突等を回避・軽減するための「プリクラッシュセーフティ」や、そもそも危険な状況を未然に防止するための「アクティブセーフティ」などの技術開発が進められており、高級車を中心に順次導入が進められてきている。レーザー・ミリ波レーダー・赤外線カメラ等による先行車両や障害物、歩行者の検知技術や、危険状況において、ブレーキやステアリング操作を制御し、危険回避を支援する技術などがこれに相当する。

そして近い将来、車車間通信(車両間の相互通信)が実用化されれば、クルマ社会の安全性は飛躍的に高まると期待されており、自動車メーカー各社は、ETC にも利用されている 5.8GHz 帯の周波数帯を使用する通信技術とカメラ等の車両側検知技術の組み合せで安全性を向上させる ASV (先進安全自動車)の研究を進めている。

言うまでもなく、交通事故を低減するために最大の効果を発揮する取り組みはドライバー自身の安全運転であり、こうしたクルマ側の先進技術は、人間の認知・操作能力を補う形でドライバーを支援する技術である。交通事故の更なる低減を図るためには、安全技術革新だけに任せるのではなく、ドライバー自身の教育・啓蒙活動が求められる。

こうしたドライバー自身の教育・意識改革に寄与する装置として、昨今注目を集めているのが、ドライブレコーダである。事故時や事故になりそうな危険な状況を検知して、その前後の映像や走行状況のデータを記録する、飛行機のフライトレコーダの自動車版とも言える装置である。

近年、タクシー、トラックなどの商用車を中心にこのドライブレコーダの採用が進んでおり、今後、乗用車への市場拡大も期待されることから、市場参入する企業も増加傾向にある。価格帯は、GPS が内蔵されていない簡易型のものが 1台 3~ 5 万円程度、GPS 等が内蔵された上位機種だと 8~ 10 万円程度が主流である。今回のニュースでは、富士火災が採用しているホリバアイテック製のものが前者、KYB 製のものが後者に該当する。

ドライブレコーダを装着することで享受できるメリットとしては、次のようなものが挙げられる。

(1)事故処理の効率化
事故前後の状況をデータとして記録できるため、客観的且つ正確な判断が可能となる。タクシー事業者や大手の運送業者などでは、事故に関するトラブル処理に大きな労力を割いているケースも少なくないため、このデータを活用し、相手との交渉・事後処理を効率的かつ優位に進めることができる。また、保険会社にとっても、適正な処理が可能となり、過度の保険金を支払うことや示談交渉の労力を軽減することが期待できる。

(2)安全運転の浸透
事故の状況が正確に判断できるだけでなく、機種によっては急加速・急ブレーキ等の運転についても記録できるため、ドライバーの運転を定量的に評価することが可能となる。この結果を用いて、ドライバーの業績評価に反映させたり、危険な運転のドライバーに対し安全運転教育を効率的に行うことも可能となるため、安全運転を浸透させることに有効である。また、安全運転が浸透すると、燃費向上も期待できる。

(3)車両データの収集
事故前後の走行状況等のデータは、安全技術の開発する自動車メーカーにとっても貴重な情報となる。危険な状態に陥る車両・ドライバーの走行データを解析することで、事故の原因となる要素を特定し、その対策を考えることが今後の安全技術開発につながるからである。

こうして見ると、(1)、(2)など、わかりやすいメリットを享受できる商用車には普及しやすいものの、一般ドライバー自身のメリットはわかりにくく、普及しにくいことが予想できる。勿論、(1)などは一般ドライバーにも有益なのだが、頻繁に事故を起こす人でもない限り、そのメリットは実感しにくいため、現在の価格帯ではすぐに取り付けようと考えるドライバーが少ないのが実態であろう。簡易型の商品は大手用品店チェーンでも取り扱うようになっているが、月に数台売れれば、というような状況であり、まだまだ定番商品としての地位を確保するには時間がかかりそうである。

では、国内自動車保有台数の 3/4 を占める乗用車に普及させるためには、どういう戦略が求められるのであろうか。現在、主に以下 3 つ施策が進められている。

(A)一般ドライバーの負担を軽減する仕組みを作ること。
(1)のメリットを享受できる保険会社や、(3)のメリットを享受できる自動車メーカーが費用の一部を負担する形で一般ドライバーの負担を軽減する。特に保険会社は、自由化が進み競合との差別化が問われる市場環境において、安全運転評価次第で保険料を細分化するなど、新商品の開発にも有効であると考えられ、期待は大きい。
今回の富士火災の導入事例においても、保険会社の付加価値向上に利用しているものであり、東京海上日動の子会社も同様の安全運転診断をドライブレコーダを貸し出す形で行っている。

(B)製品自体の販売価格を下げること。
普及が進めば当然製造原価が下がることが期待される。鶏と卵の議論に陥りがちであるが、一般ドライバーの期待する水準まで販売価格が下がれば、一気に広がる可能性はある。実際、ドライブレコーダ自身の主要構成部品は、カメラ、加速度センサ、メモリ、GPS など、専用に開発する高度な部品というよりも、多くは他の車載機器と共有の部品である。カーナビや車線認識装置などの安全装備の付加機能として取り込まれる可能性もある。
こうした手法で一般ドライバーに与える価値観を変えられれば、乗用車への普及も見えてきそうである。

(C)法規制等により、標準化を進めること。
最も迅速に普及を進めるためには、法規制等で標準化を進める、搭載車両に税制優遇制度を義務付けるなど、政府主導の施策が期待される。わずか数年で一気に普及した ETC の成功も記憶に新しい。
そのためには、ドライブレコーダの導入効果を定量化し、事故数の低減や燃料消費の改善に貢献することを示すことで、政府に働きかけることが必要であり、現在市場に参画している電装品メーカーやベンチャー企業、保険会社だけでなく、自動車メーカーの本格的な参画も求められる。

将来的には緊急通報システム、車車間通信、プローブカーシステムなどテレマティクス分野との連携も期待される。自動車業界の大きな課題となっている安全性の向上に他の商品とは違った形で貢献することが可能となるこの商品の普及に向けて、業界全体で注力すべきではなかろうか。

<本條 聡>