新興国の時代と日本車戦略のあり方について

今回は、「新興国の時代と日本車戦略のあり方」をテーマとした以下のアンケー
ト結果を踏まえてレポートを配信致します。

https://www.sc-abeam.com/sc/?p=6980

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【新興国の時代と日本車戦略のあり方】

 2013年世界自動車産業販売台数は未だ正式な発表はされていないが、大凡 83
百万台といわれる。しかし、そのうち、日米欧の合計で 33.3 百万台と最早先
進国は 4 割を占めるに過ぎない。一方で、BRICs 合計は 31.7 百万台で日米欧
とほぼ肩を並べるレベルにまで追い付いた(以上数字は各国自動車工業会発表
数より)。

 世界自動車販売の趨勢は、リーマンショック直後、先進国が大きなダメージ
を受けたのに対し、新興国はダメージが比較的少なく、加え、中国はじめ各国
の自動車販売刺激策によって、最早、中心は先進国から新興国にシフトした。

 因みに、先日、この話題で話をしていた際に、幾つかのご指摘も頂いた。筆
者からは、「日米欧地域での日本車シェアは 4 割弱、対して、BRICs 地域では
2 割に過ぎない。このことから考えて、日本車は必ずしも新興国で成功してい
るとは言い難いのでは」と発言したのに対して、次の様なご指摘も頂戴した。

 BRICs という括りでは、その中での中国の存在が余りに大きすぎる。中国に
おいて日本車は 1 割強のシェアであるが、一方、インドでは 5 割近い。この
ことから、「BRICs で日本車が弱い」と纏めて言うには難があるのではなかろ
うか。―そもそも、BRICs と括る必要があるのだろうか? ASEAN も成長著しい
市場であり、日本車が極めて強い。タイ、インドネシアでは 9 割のシェアを掌
握している。TPP 等を通じて日本との通商関係が将来より一層強化されること
を考えれば、この事実の方がより重要なのではなかろうか。

 確かに、新興国と括るのは難がある。各国とも夫々異なる事情があり、展開
される戦略も夫々異なってしかるべしともいえる。然し、マクロ的に考えれば、
これらの国々に対する戦略課題はある程度の共通点をもっているのではないだ
ろうか?。もし、「世界のフラット化」が今後とも進行するのであれば、寧ろ、
マクロ的に捉えるべきではなかろうか?。そもそも、全てを個別に対応するに
は、商品的にも限界がある。

 そこで、ワンクリックアンケートの中で、「どれが、日本車にとってより一
層重要な課題として今後取り組まなければならないか」、読者のご意見を頂戴
したところ、以下の様な結果となった。

1. 電動化・安全化をはじめ新興国ならではの消費者ニーズを満たす充実した商
品の開発       48 %

2. 新興国市場における主力と言われるミドル・ローセグメント層(所得水準)
をフォーカスした(プロダクトを除く)マーケティングの取組 35 %

3. 全社組織的に新興国市場に主体を置き、リーダーシップを率先出来る体制を
構築                                                             5 %

4. 全社戦略の主眼を新興国市場に置き、積極的な投資を行う財務的
コミットメント                          7 %

5. その他                      5 %

 上述 1~ 5 の点は、何れも新興国攻略の為には、欠かせない点ではあるが、
これらの中で、特に 1、2 に回答が集中した。また、アンケートに併せて、各
位より頂いたご意見より、特に、「ミドル層(中間層)の消費者」と「ニーズ
を適える商品」とが課題を表すキーワードとなるものと考える。

 うち、「ミドル層の消費者」については、今後の新興国の新中間層人口は 2010
年の 16.6 億人から 20年に 21.5 億人、30年には 23.6 億人へと大幅に増加す
ることが予想されている。これら中間層は所得により下位中間層(家計所得 5-15
千ドル)と上位中間層(15-35 千ドル)とに分類できる。ちなみに、夫々、前
者は白物家電、後者は乗用車の普及をリードする層と言われるが、これらのう
ち、特に大幅な人口増が期待されるのは後者の上位中間層であり、2010年の 2.
5 億人から 2030年には 8.9 億人に爆発的に増大する見込みである。更には、
これら上位中間層の増大は、特に中国、インド、インドネシアで顕著と予想さ
れている(出典: 経済産業省 「新中間層獲得戦略」 平成 24年 7月)。

 つまり、自動車購入層拡大の大きなチャンスに直面している訳だが、そこで、
日本車メーカーにとっての課題は、これらミドル層の「ニーズを適える商品」
を如何に投入するか、である。これまでのケースを考えると、この観点から、
日本車メーカーのアプローチは以下に二分されてきたと言える。

1) トップエンドから参入し、ブランドイメージを確立した上で、より下の所得
層に降りて行くというアプローチ

2) ローワーエンドから参入し、シェアを確保した上で、その顧客層の所得の成
長と共に上昇していくアプローチ

 特に 1) については、中国、ブラジルで、2) については、インド及び最近の
タイ、インドネシアで取られてきた戦略と考える。

 勿論、市場の状況は、夫々の国情を反映して異なるが故にそうしたアプロー
チが取られたことと考えるが、果たして、今後とも、この延長・展開で対応す
べきか、上述の様な傾向を考えるに、「2) ローワーエンドからの参入」を強化
すべきではないか、と敢えて断言したい。なぜなら、これら層は新規需要層で
あり、まずは、この層を押えるべく、低価格戦略が必要なのではないだろうか
?。但し、一方で、電動化・安全化という装備についてもゆくゆくは、これら
購買層も購入を希望するのではなかろうか?。これらミドル層の成長と並行し
て加えて「都市化」「多様化」という要素が進展することも予想される中、従
来の「低価格」に加えて、「プラスαの機能」が差別化に向けて重要である。

 一方、日本市場を見渡すと、軽自動車を各社共に積極的に取り上げており、
いまや、新車販売の 4 割を軽が占める様になってきている。この流れを新興国
にどんどん展開すべきでは無かろうか?。御存知の通り、日本の軽自動車は、
各社の自助努力の結果、その安全性を含め登録車並みの装備を備えている。日
本国内で激化する販売競争を生きぬいた軽自動車はそれなりの高い商品力を海
外にあっても新ミドル層に訴求できるのではないだろうか?。

 2020年東京オリンピック招致決定以来、「おもてなし」という言葉が日本人
の心情を表す言葉として多用されている。筆者は、消費者のニーズを丁寧に捉
えた日本の軽自動車の木目細やかなつくりを見るに、この「おもてなし」と同
じ精神を感じる。

 改めて、軽(乃至は、軽ベースの)自動車を新興国で展開し、新たな顧客層
を捉えることこそが、日本車メーカーの新興国戦略として重要なのではないか、
と考える。

<大森 真也>