国内市場における輸入車販売の好調要因について

今回は、「国内市場における輸入車販売の好調要因について」をテーマとした
以下のアンケート結果を踏まえてレポートを配信致します。

https://www.sc-abeam.com/sc/?p=6911

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【日本市場における輸入車のイメージ】

 日本市場において、輸入車は、国産車に比べて、高級で嗜好的な商品であり、
モノそのものだけでなく所有することによるステータスに価値がある、という
風潮がある。また、故障が少なく便利な機能が充実している国産車に対し、輸
入車は故障が多く細やかな機能はあまり充実していない、という古いイメージ
もある。

 実際には、国産メーカーによるプレミアムモデルや輸入車でも廉価で質素な
モデルもあるし、輸入車は故障しやすいというイメージも現在ではだいぶ払拭
されたように思うが、それでも国産車―輸入車という切り分けで自動車が語ら
れる感覚は、未だ残っているように感じる。

 なお、現在では海外生産して国内販売されている日本メーカー車も多数あり、
それも輸入車の定義に含まれるが、昨今言われている「輸入車が売れている」
は外国メーカー車のことであると解釈し、以下は外国メーカー車について記し
たい。
  
【外国メーカー車の販売状況】

 2013年 1月― 11月累計で、登録車市場全体が約 301 万台と前年を割り込ん
でいる(前年同期比▲5.3 %)のに対し、外国メーカー車は 24.9 万台と前年
を大きく上回っている(前年同期比+16.1 %)。このままのペースで行くと、
登録車全体は 336 万台、うち外国メーカー車の販売台数は約 28.1 万台、シェ
ア 8.4 %となりそうである。

 外国メーカー車の年間販売台数としては 1990年代半ばに記録した 40 万台前
後の水準には及ばないものの、シェアとしては過去最高となりそうだ。

 また、ここ数年の外国メーカー車の販売台数はリーマンショックで大きく落
ち込んだ後の 2010年以降は毎年前年比+10 %以上の伸びを見せており、外国
メーカー車の好調は 2013年の一時的な傾向ではなく継続的なものと言えそうで
ある。
(販売台数やシェアは日本自動車輸入組合(以下、JAIA)のデータより引用)

 このような外国メーカー車の販売好調の要因について、弊社メルマガ読者の
皆様にワンクリックアンケートにてご意見を伺ったところ、以下のような結果
となった。

[外国メーカー車の販売好調の要因]

1.環境技術やデザイン等、魅力ある商品の投入 :36 %
2.単価の低いセグメントへのラインナップ拡大 :39 %
3.販売ネットワークの整備・拡充   :6 %
4.アベノミクス等による経済の復調  :15 %
5.その他     :4 %

 「環境技術やデザイン等、魅力ある商品の投入」と、「単価の低いセグメン
トへのラインナップ拡大」の 2 つに多くの回答が集まり、さらにその 2 つの
回答数が拮抗する結果となった。その背景について、以下のように考察する。

1.「環境技術やデザイン等、魅力ある商品の投入」が選択された背景

 外国メーカー車は、燃費に優れたパワートレイン(小排気量ターボ、ディー
ゼル、HV)や、高い効率のトランスミッション(シングルクラッチやツインク
ラッチの 2 ペダル MT)などの先進技術の投入と、それらを核として環境性能
をアピールする方針について、堅固な姿勢を持って先行している。一方で国産
車は、HV こそ先行したものの、その他の技術投入とそのアピール方針に関して
は、外国メーカー車(特に欧州車)の後を追っているイメージがあるとのコメ
ントが寄せられている。

 また、同一ブランド内で統一されたデザインアイコンの導入や、過去の伝統
的なモデルのオマージュなどのデザイン手法についても、環境技術と同様に、
先行する外国メーカー車を国産車が追う構図となっている。

 このような外国メーカー車の先進性や堅固なアピール方針から、消費者が魅
力を感じ、販売の伸びにつながっているのではないだろうか。

2.「単価の低いセグメントへのラインナップ拡大」が選択された背景

 もともとは Mini が切り開いたといわれるプレミアムコンパクト市場に、よ
り大きなモデルを主力としていた各外国メーカー車ブランドが、新規小型モデ
ルを投入したり、既存の廉価な小型モデルを少し高級に仕立て直したりしてい
る。VW 「Up!」 やアウディ「A1」、メルセデスベンツ「A クラス」、ボルボ「V40」
などがこれに当てはまる。

 JAIA の価格帯別の販売台数データによれば、上記のような小型モデルが投入
されている 400 万円以下の価格帯において、2010年-2012年の間に毎年+20
%前後もの販売台数増加が実現されている(400 万円以上の価格帯においては
毎年+5 %前後)。外国メーカー車の販売台数増に最も寄与しているのがこの
価格帯のモデルであるといえる。
  
【先進技術や高品質と価格のバランス】

 一見、「環境技術やデザイン等、魅力ある商品の投入」と「単価の低いセグ
メントへのラインナップ拡大」という二つの動きは、互いに排反であるように
も思える。先進的な技術の搭載など商品の魅力を高めれば価格は上がる一方で、
単価の低いセグメントでは高価格な商品と比べると性能・品質を落とさざるを
得ない。

 しかし、このところ各外国メーカー車ブランドが投入している小型モデルを
見ると、その二つの要素を上手く両立しているように見える。

 例えばアウディの「A1」は、それまで同社が販売していたよりも低価格なセ
グメントに投入された新規モデルであるが、小排気量ターボエンジンやツイン
クラッチの 2 ペダル MT といった技術が搭載されている。

 また、先日外国メーカー車として史上初の日本 COTY ( Car of the year)
を受賞した VW ゴルフの選考理由として、(外国車メーカーの)小型モデルの
価格帯のまま、走行性能・環境技術・デザインなどブランドの核となる部分で
高級モデルと比しても全く妥協していない、といったコメントが多く見られた。

 つまり、先進技術・高品質と価格のバランスを上手く取った商品戦略が、現
在の外国メーカー車の販売台数増を実現したと言えるだろう。
  
【小型車セグメントの商品役割見直し】

 上述してきたように、外国メーカー車は単価の低い小型車セグメントでの販
売台数を増やしてきた。しかし、外国メーカー車の従来の価格帯に比すると単
価が低いとはいえ、国産メーカー車も含めた市場で考えると充分単価は高い。
これは、小型車セグメントの中で、先進技術やデザイン、ブランドによって商
品力を高めることにより、単価を高められる可能性を示しているのではないか。

 過去には国産メーカー車にも、内装の質感に力を入れたり高出力エンジンを
搭載したり力の入ったデザインを施すなど、小型車であっても普及モデルから
の派生として特色を持ったモデルがあったように思う。しかしそれらの多くは、
国内市場縮小に伴うモデル整理の中で姿を消してしまい、現在では国産小型車
に特色を付ける試みは環境性能が中心である。

 軽自動車市場の著しい成長もあるなか、小型登録車の役割を見直し、小型だ
が先進的で価格にプレミアムをつけられる方向性を検討する余地もあるのでは
ないだろうか。多彩な個性を持つモデルが投入され、外国メーカー車ばかりで
なく小型車市場全体がより一層盛り上がることに期待したい。

<宋 太賢>