製品マトリクスについて

 今回は、「製品マトリクスについて」をテーマとした以下のアンケート結果を
踏まえてレポートを配信致します。

https://www.sc-abeam.com/sc/?p=6495

 ・日系自動車メーカーの車種×市場のマトリクスについて

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【車種×市場マトリクス】

 大括りで見て、世界の自動車販売台数は現状 7 千万台であり、先進国と新興
国の内訳は半々となっている。

 今後、販売台数は増加し、2020年頃には 1 億台を超えると予測されている。
新興各国の販売台数は、足元では成長が鈍化する傾向も見られるが、2020年頃
には全体の 6 割を占め、先進国は 4 割になると言われる。

 販売される車種は、電気自動車やハイブリッド車等の環境対応車や、新興各
国の現地ニーズをくみ上げた小型・低価格車等、多様なものになると想定され
る。

 そうした全体感の中で、各自動車メーカーは、どのような車種をどこの市場
に投入するか、という車種×市場のマトリクスを構築している。
  
【ホンダの事例】

 車種×市場マトリクスは、自社内・外の環境に応じて変わっていく。例えば、
いわゆる高級セダンという車種で見ると、ホンダは、国内縮小、海外(特に米
国)維持・強化という方針を打ち出している。

 本年 6月に、ホンダが埼玉製作所狭山工場で生産する「レジェンド」と「イ
ンスパイア」の生産を中止するという報道があった。

 系列販売店には両車種の新規受注を中止することを伝え、今後、国内では、
高級セダンは 13年に全面改良を予定している「アコード」の 1 車種へ絞込み、
軽自動車、小型車、ハイブリッド車に集中するとのことである。

 ホンダの 11年国内販売台数を見てみると、総台数 50 万台の内、「フィット」
が 40 %強を占め、「フリード」、「ライフ」、「ステップワゴン」、「アク
ティ」が 10 %前後で続き、それら 5 車種で全体の 80 %を占めている。「レ
ジェンド」は 4 百台、「インスパイア」は 1 千台と 1 %に満たない状況であ
る。

 一方で、海外向けのアキュラ「RL (レジェンド)」は、北米で 13年初めに
全面改良を予定し、それを機に日本からの輸出を止め現地生産に移行する見通
しとのことだ。

 「RL」は 11年に世界で 1 千台以上を販売したが、ほぼ北米で販売されてい
る。日本を含め「レジェンド」として販売されている台数も合算すると世界で
1.5 千台以上となるが、それでも北米市場が中心の車種であるし、為替や全社
として北米市場に強いこと等を勘案して生産移管を予定しているものと考えら
れる。
  
【高級車を例にしたホンダと日産の違い】

 そして、それと同時に気付くのが、日本の「レジェンド」の販売台数は 4 百
台であるが、「RL」・「レジェンド」という車種では、日本は北米に次ぐ世界
2 位の市場であり、その販売を中止する判断もしていることである。中長期的
な国内市場の動向を踏まえた判断であろう。

 一方で、日産では国内で高級セダン「シーマ」をハイブリッド車として復活
させるという動きもある。同車は「フーガ ハイブリッド」をベースとして開発
された国内専用車種である。

 ホンダと日産は台数規模や経営リソース等も異なるが、車種×市場マトリク
スの構築方針の違いもあるように思われる。

 ここでは「アキュラ」と「インフィニティ」という高級車ブランドで比較し
てみたい。

 11年の販売台数合計は「アキュラ」も「インフィニティ」も約 14 万台と見
られる。国別の内訳を見ても、どちらのブランドも米国で概ね 10 万台以上販
売し、それ以外の上位国にカナダや中国が入ることは同じである。

 しかし、販売国数では「アキュラ」の 10 ヶ国程に対して「インフィニティ」
は 40 ヶ国以上となっており、「インフィニティ」の方が販売市場の裾野が広
い。

 ブランドと車種管理の違いはあるが、上記の部分では、集中型のホンダと分
散型の日産と捉えることができる。ブランドの役割や市場展開の仕方等に対す
る考え方の違いが背景にあるのではないだろうか。

 車種×市場マトリクスは、全体の台数や利益目標を達成するために、上記の
ような販売・マーケティング面に加え、生産拠点や調達網等を含めたバリュー
チェーン全体の観点から決められる。
  
【多様化・多極化の中で重要なこと】

 投入車種や参入市場を検討する前段として、現在、車種×市場マトリクス全
体では、拡大を目指す時期か、維持すべき時期か、または縮小すべき時期かを
皆様にお聞きした。結果は以下のとおりである。

・車種×市場のマトリクス全体は拡大させるべき         :56 %
 (例)・投入車種も参入市場も増やす 
    ・既存市場に対して投入車種を増やす 等

・車種×市場のマトリクス全体は現状程度を維持すべき      :25 %
 (例)・ある市場では投入車種を増やし、
     ある市場では投入車種を減らす
    ・投入車種を減らす一方で参入市場を増やす 等

・車種×市場のマトリクス全体は縮小すべき           :19 %
 (例)・車種をグローバル共通化し(減らし)既存市場に投入する 
    ・得意な車種と得意な市場をつくり注力する(絞り込む) 等

 実際には各自動車メーカーにより状況は異なるが、拡大すべき時期との回答
が過半数を占めた。

 以下のご意見にも表れているように、拡大することは安易ではない。

「現実的に拡大は開発キャパ的に難しいので、巧く整理統合しつつ、市場優先
順位に応じて一部は拡大する以外にないのでは」

「新興各国へ投入市場は拡大するが、小型車シフトで利益が減少するため車種
数は削減か維持することになる」

 以前、弊社メルマガで川本が取り上げた「大規模モジュール化」等により開
発や生産領域での更なる共通化・低コスト化が必要だろう。

(詳細は以下を参照頂ければ幸いである)
https://www.sc-abeam.com/sc/?p=6432

 また、拡大することを目指すのであれば特に、スピード感を持った展開や、
共通化の範囲拡大、自社リソースの補完といった観点から、柔軟な提携戦略も
必要になるだろう。

 今後、冒頭で述べたように車種の多様化や市場の多極化が進む中では、車種
×市場マトリクスを構築する上で、様々な選択肢があることが想定される。全
社的な視点から、優先順位やリスクを勘案し、どのようなシナリオに基づいて
構築していくかが、より重要になると考える。

                                   

<宝来(加藤) 啓>