市場変化への対応を進める年

『市場変化への対応を進める年』

◆ホンダ、世界6極で新車開発-現地ニーズ対応

                         <2012年01月16日号掲載記事>

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【市場変化と対応スピード】

 昨年は一昨年に比べれば緩やかな成長となったが新興国市場は拡大を続けて
いる。そこでは、先進国向けの製品ではなく、新興国の現地ニーズを汲み上げ
た製品が求められている。

 中国市場など日系自動車メーカーに先んじて現地ニーズに対応した製品を投
入する欧州自動車メーカーの例もある。

 また、先進国市場でも、例えば米国市場では韓国自動車メーカーが日本車と
品質は同じ価格は割安というポジションで日系自動車メーカーのシェアを奪い
つつある。

 リーマンショックに始まり震災やタイ洪水の影響もあるが、新興国市場の規
模拡大や現地ニーズに対応した製品の必要性、海外自動車メーカーの動きなど
市場変化のスピードは、日系自動車メーカーが考えていた時間軸より速く、そ
の対応スピードを上回る部分もあったかと思う。

 結果として、昨年は販売台数・シェアを落とした日系自動車メーカーが多か
ったが、市場変化への対応は着実に進んでいる。
  
【現地ニーズへの対応】

 製品開発面では、例えば冒頭のニュースにあるようにホンダが新車開発を世
界 6 極で行う体制を整えると発表した。

 新車開発に必要な開発、購買、マーケティングといった機能の海外移転を進
めて、現地ニーズにあった新車を短期間で開発できるようにすることが目的で
ある。

 一方で、11年 4月に伊東社長自ら四輪事業本部長に就き、高級車、中型車、
軽・小型車の事業統括として 3 人の執行役員を置いた。本社に権限を集中し、
現地に重心が偏らないようグローバルでの効率性も勘案した体制としている。

 また、トヨタでは自動車の設計を販売する地域ごとに変え、見栄えや使い勝
手などは、地域ごとの必要性に応じて決めるとしている。実際、「エティオス」
で地域性を反映した仕様は 101 項目にのぼると言われる。

 一方で、エンジンや変速機、計測器など約 170 の主要部品を対象に共通設計
の検討と調達先選定を始めている。現在は車種ごとの取り組みだが、将来的に
は同一プラットフォームを使う複数車種、更には異なるプラットフォームの車
種にまで取り組みを広げていく予定だ。

 個別の現地ニーズに対応することによる商品力向上と共通化によるコスト低
減を並行して進めている。
  
【世界最適生産体制の構築】

 生産面では、新興国需要の増加や価格競争力の向上、日本に次ぐ輸出拠点の
育成、災害リスク対応の分散と複数の観点から対応が求められている。

 その中で、中国やインド、タイ、インドネシア、ブラジル、メキシコなど新
興国で工場の新設や生産能力の拡張が進んでいる。一方で、先進国の既存工場
では生産車種の見直しや工場再編、更なる生産性向上への取り組みが進んでい
る。

 特に生産体制拡充のスピードをより速めるため、あるいはリスクを減らすた
めに、他社との提携や最小最適規模を縮小する取り組みが見られる。

 例えば、日産が設立予定のメキシコ工場はダイムラーとの合弁生産も計画中
と報道されている。また、トヨタでは、従来は 20 万台規模の工場が多かった
が最近では 5 万台程度を基準とし、小さく生んで販売状況を見ながら大きく育
てる考え方としている。

 小さな工場は初期投資を抑制するであろうし、一定の台数(もっと言えば限
界利益)に応じて固定費を増加させていくことが出来れば、リーマンショック
のような急激な需要減への抵抗力も強まるであろう。
  
【顧客に訴求する価値の検討】

 これまで述べてきたように日系自動車メーカーはグローバル化によって生じ
る非効率性や経済性の課題に取り組みながら対応を進めている。

 日系自動車メーカー各社各様のスタイルや強みはあるが、共通するものとし
て、向かっていく方向性や目標が定まり共有されると各現場で摺り合わせ型の
仕事が機能し競争力を発揮することが挙げられるだろう。上記のような取り組
みを見ると既に各社内で大まかな目標は定まっていると感じる。

 昨年は想定外の出来事が起き今年も欧州市場など不透明な状況はあるが、市
場変化への対応に腰を据えて取り組む年としたい。

 社内での製品開発や生産体制を整えるとともに必要なのは実際にどんな製品・
マーケティングで差別化していくかであろう。

 例えば、世界をリードする環境性能と耐久品質でトータルコストを追求して
いくことが挙げられる。ただ、市場により受け止められる価値の度合いは変わ
るだろう。新興国の中には環境性能が先進国ほど購入検討時の惹きにならない
国もあるだろうし、保有コストよりもイニシャルコストを重視する国もあるだ
ろう。

 現地ニーズに対応した機能は購入検討時の惹きにもなるかもしれない。各市
場ごとに購入検討から始まり買い替えに至るまでのステップで、どのような価
値を顧客へ訴求していくか改めて検討することが重要と考える。

<宝来(加藤) 啓>