韓国自動車メーカーの躍進について

今回は、「韓国自動車メーカーの躍進について」をテーマとした以下 4 問のア
ンケート結果を踏まえてレポートを配信致します。

https://www.sc-abeam.com/sc/?p=5791

 ・「拡大する現代自動車グループの自動車販売シェア(グローバル)について」
 ・「現代自動車グループのセグメントミックスについて」
 ・「現代自動車グループの強みについて」
 ・「現代自動車グループの成長戦略について」

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【現代自動車グループの自動車販売シェア拡大】

 韓国・現代自動車グループ(起亜自動車含む)が、ここ数年で自動車販売シ
ェア(グローバル)を拡大させてきている。

[自動車販売シェア(グローバル)推移]

    現代自グループ トヨタグループ(参考)
 ・ 2006年  :5.2 %  12.9 %
 ・ 2007年  :5.1 %  12.7 %
 ・ 2008年  :5.5 %  12.4 %
 ・ 2009年  :6.9 %  11.2 %
 ・ 2010年  :7.2 %  11.0 %
 ・ 2011年(1~6月) :7.9 %   9.2 %
  
 今後、現代自動車グループはどこまで躍進を続けるのであろうか。弊社メー
ルマガジン読者の皆様(自動車業界関係者が中心)を対象に実施させて頂いて
いるアンケートにて、先月は「韓国自動車メーカーの躍進について」というテー
マで回答を集計させて頂いた。

 まず、「2020年時点での現代自動車グループの自動車販売シェアはどのよう
になっているか」という質問をお伺いした。結果は以下の通りであり、「現状
の 7 %より増加する」と回答された方が 86 %、中でも「首位競争レベルであ
る 10 %以上」を回答された方が半数以上を占める形となった。

 
[2020年時点での現代自動車グループの自動車販売シェア見込み]

 ・「15%以上(現状より大幅増加※1)」   :23 %
   ※1 中長期ビジョンの社内目標達成レベル

 ・「10%以上15%未満(現状より増加※2)」:33 %
   ※2 首位競争レベル
          
 ・「7%超10%未満(現状より微増)」   :30 %

 ・「7%(現状維持)」     :13 %
         
 ・「7%未満(現状より減少)」   : 1 %

 
 このように現代自動車グループの自動車販売シェア拡大が見込まれる背景に
はどのようなものがあるのであろうか。

 
【現代自動車グループの強み】

  昨今の報道では、現代自動車グループの自動車販売を後押ししている理由と
 して、以下のような外的要因がよく挙げられている。

・円高ウォン安といった為替動向
・経済連携協定締結推進による関税の撤廃・減免
・東日本大震災の影響による日本勢のシェア縮小

 確かにこのような外的環境が後押ししている要因も多分にあるだろうが、内
部に独自の強みを持っていることが昨今の販売シェア拡大に繋がっており、今
後も持続的な成長を牽引していくものと思われる。

 読者の皆様に「現代自動車グループの特にどこに脅威を感じるか」について
伺ったところ、以下のような集計結果となった。
 
 
[現代自動車グループに特に脅威を感じるところ]

 ・「開発・製造品質」     :29 %
   - 現地ニーズを積極的に取り入れた商品企画力
   - 初期・耐久品質(IQS・VDS)の向上

 ・「低コスト」     :27 %
   - モジュール化の推進
   (現代本体の半分と言われる低賃金のサプライヤによるモジュール対応)
   - グループに現代製鉄などの原材料・素材メーカーを保持

 ・「販売・マーケティング」    :16 %
   - 失業者保証販売制度などの販売企画力
   - 新興国での大量広告施策

 ・「企業文化や組織・オペレーション」   :24 %
   - トップダウンによる早い意思決定スピード
   - 工場におけるリモートコントロール方式の導入や工程の細分化などに
    よる作業車の業務単純化・システム化

 ・「その他」      : 4 %

 
 開発・製造品質がトップとなったが、昨今報道されている通り、ここ数年で
現代自動車グループの品質改善は目覚ましいものがあり、日系勢と比べても遜
色がないと言える。

[初期品質(米国):IQS(J.D. Power)]
              2004年  2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
現代        102         110        102        125        114        95          102        108
起亜        153         140         136       125        119      112          126          113
トヨタ        104        105         106        112        104       101       117           101
日産         154         120         121        132       124        110        111         117
   
[耐久品質(米国):VDS (J.D. Power)]
              2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
現代        375       260         253      228         200        161         –         132
起亜        432        397        310       288        278         218         –        160
トヨタ        216       194         179        178       159          129         –        122
日産        280        275        242        274       224         199         –        183
※IQS・VDSは点数が低いほど良い

 
 また、優秀なデザイナーを世界中から集めており、デザイン面の向上もよく
指摘があがるポイントである。
 
 最近では、フランクフルトモーターショーで現代自動車の i30 の展示ブース
に VW 会長が長時間滞在し、現代自動車グループのデザインが優れている点を
挙げ、自社のデザイン部門総括役員を叱咤したという報道もある。

 更に、商品企画力という観点では、インドにおいてターバンを巻いているユー
ザー向けに車体の天井を高くしたり、頻繁にクラクションを鳴らす運転手が多
いことからハンドルに装着しているクラクションスイッチの数を増やすなど、
徹底した顧客視点での開発・ものづくりを進めている。
  
【今後の注力セグメント】

 上記で述べた開発・製造品質面での強みを活かし、今後どのような商品(セ
グメント)を強めていくと思われるかについて読者の皆様にお伺いした。
[現代自動車グループが今後注力すると見込まれるセグメント]

・「A セグメント」  :23 %
・「B セグメント」  :32 %
・「C セグメント」  :21 %
・「D セグメント」  :17 %
・「E セグメント」  : 7 %
・「その他(商用車、他)」 : 0 %
  
 やはり、先進国市場における小型化への対応、新興国市場におけるファース
トカーとしてニーズが拡大すると思われる小型車(A ・ B セグメント)を選択
された方が多いという結果となった。
 
 一方で、欧米との自由貿易協定締結による完成車輸入関税の撤廃が為されれ
ば、上位車種を韓国から積極的に展開し、他社よりも戦略的な価格で提供す
ることも可能となる。既に i30 に比べ一回り大きい中型ワゴン i40 の欧州へ
の輸出や、北米へ大型セダン/エクウスの韓国からの輸出が始まっており、ブ
ランドイメージの向上や、中大型セグメントの拡充にも余念がない。

 地域的な面では、元々インド、ブラジル、中国などの新興国で強いという定
評がある。更に、ここ最近では、欧州・北米などの先進国市場でも着実にシェ
アを伸ばしている。

[米国ライトビークル販売シェア推移(Ward’s Auto)]
   2010年上半期 2011年上半期 差異
・現代自(起亜含む):  7.6 %   9.0 %  +1.4 pt
・トヨタ   : 15.1 %  12.9 %  ▲2.2 pt
・ホンダ   : 10.6 %   9.6 %  ▲1.0 pt
  
【現代自動車グループの成長戦略】

 前述したように、商品セグメントや地域の全方位的な拡充を図る中で、他自
動車メーカーとの提携の可能性についてお聞きした。
  
[現代自動車グループの成長戦略の選択肢]

 ・「先進国メーカーとの、環境技術など高付加価値領域
                における技術面での提携」:22 %

 ・「先進国メーカーとの、プラットフォーム共通化や、
   車両・エンジンの OEM相互供給などの生産面での提携」:16 %

 ・「新興国メーカーとの、現地ニーズの吸収・
      マーケティングでの連携などの販売面での提携」:20 %

 ・「新興国メーカーとの、技術供与、地場サプライヤー
               育成などの生産面での提携」:14 %

 ・「特に提携はせず、独立独歩で成長戦略を描く」 :27 %

 ・「その他」      : 1 %
  
 他自動車メーカーとの提携はなく、独立独歩で進むという回答も多く寄せら
れた。確かにこれまで三菱自動車や旧ダイムラー・クライスラーと提携した時
期があったが、何れも提携を解消している。読者の方からも、「追いつくまで
の技術の知りたい所は吸収しており、既に現状では自前主義の所がある」とい
った意見も寄せられている。

 他自動車メーカーと提携することにより、トップダウンでの意思決定スピー
ドを失うなど現代自動車グループの強みを損なう可能性も考えられる。読者の
方からも「現代自動車グループの強みである企業文化や風土から見て提携は難
しい」という声が聞かれた。

 現在は、韓国内で圧倒的なシェアを確保し、同社利益の過半を中・大型を中
心とした韓国内需で賄っているという報道がある。また、韓国内において現代
自動車本体の半分と言われる低賃金のサプライヤによるモジュール対応や、安
い電気代などのコスト構造上の強みもある。

 今後、こうした収益構造の前提条件に変化が生じた場合でも、現代自動車グ
ループが全方位戦略を独立独歩路線で進めていくとすれば、経営資源に限りが
あるのも事実であり、困難な局面に立たされる可能性も考えられる。そうした
時に、柔軟性のある対応を実現できるかが、同社が持続的に成長する上での一
つのポイントになるかもしれない。

                                                   

<横山 満久>