コンチネンタル社に見る、アライアンス型事業拡大戦略

◆独シーメンス、自動車部品部門VDOを独コンチネンタルに売却することで合意

<2007年07月25日号掲載記事>
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【はじめに】

コンチネンタル社というと、タイヤメーカーというイメージが強いかもしれないが、海外部品メーカーに詳しい方はご存知の通り、今やゴム部品から電子制御部品まで手がける、一大システムサプライヤである。今回の独シーメンスから VDO 部門を買収することで、総売上高約 250 億ユーロ(約 4.1 兆円)、総従業員数 14 万人を誇る、世界で 5本の指に入るサプライヤになる見込みである。

今回は、コンチネンタル社の事業拡大の歴史から、自動車部品メーカーが目指すべき戦略について考えてみたい。

【コンチネンタル社の特徴】

コンチネンタル社は、1871年に四輪馬車や自転車用のソリッドタイヤ等を生産する会社として創業し、1898年には自動車用の空気タイヤの生産を開始している。その後、世界初のトレッドパターン付タイヤを開発するなど、タイヤの技術革新とともに事業を拡大させ、創業 130年以上たった今でも、世界 4 位のシェアを持つ総合タイヤメーカーとして、その地位を確固たるものとしている。業界全体でグローバルに再編が進むタイヤ業界において、同社も、米 Uniroyal社の欧州事業や米 General Tire 社などを買収し、グローバル供給体制を確立してきている。

しかし、同社が他のグローバルタイヤメーカーと大きく異なるのは、同社がタイヤを始めとするゴム製品だけでなく、総合システムサプライヤとして事業展開していることである。代表的なところでは、タイヤ以外の事業を 1991年に独立会社として再編し、現在では世界最大級のゴム・プラスティック部品メーカーとなった ContiTech 社、1906年に創業したブレーキ部品メーカーである Continental Teves 社(1998年にコンチネンタル傘下に加わる)や、同じく 100年以上の歴史を持つ自動車電子部品メーカーである Conti Temic 社(2001年に資本参加)などを傘下に抱える。

【幅広い事業領域】

現在、コンチネンタル社は、現在、以下 4 部門に分かれている。

(1)Automotive Sysytems Division:
ブレーキ、ABS を始めとする安全関連技術や ESC などのボディ電子制御技術、テレマティクス技術まで幅広い分野をカバーする。世界 17 カ国に 36 の生産拠点を展開する。現在は、以下 7 つの部門に分かれている。
– 電子制御ブレーキ及び安全システム: ABS、TCS、ESP 等
– 油圧ブレーキシステム: ブレーキブースター、ホース、キャリパー等
– シャシー及びパワートレイン: エアサスペンションシステム、シャシー
コントロールシステム等
– テレマティクス: ワイヤレス技術に基づく情報システム等
– エレクトリックドライブ: ハイブリッド、電動モーター等
– ボディ及び安全: 車内ネットワーキング
– アフターマーケット: 消耗品、油圧関連部品、ABSセンサー等

(2)Passenger and Light Truck Tires Division:
乗用車・小型商用車用のタイヤを担当する部門。買収等により事業拡大した結果、「Continental」のほか、9 つのブランドを展開している。欧州で生産している車両 4台に 1台が「Continental」タイヤを装着しており、OEM 装着タイヤとしては欧州トップのブランド。世界 10 カ国に 14 の生産拠点を展開する。

(3)Commercial Vehicle Tires Division:
商用車とオフロード車用のタイヤを扱う部門。世界 7 カ国で 9 つの生産拠点を展開する。

(4)ContiTech Division:
タイヤ産業を除く、ゴム、プラスティック技術分野において、世界最大のメーカー。自動車産業以外にも、建設機械、鉱業、鉄道技術、印刷機械他向けに、部品、システムを開発・生産している。世界 21 カ国に生産拠点を展開する。現在は、以下 7 つの部門に分かれている。
– ContiTech Power Transmission Group: パワートランスミッションシ
ステム
– ContiTech Air Spring Systems: エアスプリング部品
– Benecke Kaliko AG: スラッシュスキン、表皮材、クッション製品
– ContiTech Elastomer Coatings: 技術系機能素材、ダイアフラム、ブ
ランケット等
– ContiTech Fluid Technology: ホース、ホースラインシステム
– ContiTech Conveyor Belt Group: コンベアーベルト等
– ContiTech Vibration Control: 振動及びシーリング技術

(マークラインズより)

【事業領域の推移】

コンチネンタル社の事業拡大の歴史を整理してみると、以下のようにまとめられる。

(1)タイヤ事業の新技術追求(創業から1960年代ぐらいまで)
自動車用タイヤの先進技術開発により、現在の大手タイヤメーカーとしての地位を確立。
(2)タイヤ事業のグローバル供給体制の拡大(1960年代から1980年代まで)
海外タイヤメーカーの買収により、グローバル供給体制を確立。

(3)タイヤメーカーから大手部品メーカーへ(1980年代から2000年代まで)
タイヤの開発で培ったノウハウを活かすべく、M&A を通じて、ブレーキ、シャシー制御といった走行性能、安全性能に関わる分野に進出。

(4)大手部品メーカーから総合システムサプライヤへ(2000年代から)
電子制御系の分野への拡大に注力し、システムサプライヤとして自動車技術を総合的に開発するメーカーに移行しつつある。

つまり、既存領域の機能追及から市場の拡大へという流れから、事業領域を拡げてその機能を高めるという流れに移行していると考えられる。

【システムサプライヤへのシフト】

今回の、SiemensVDO 買収についても、上記の流れに沿ったものであると考えられる。この買収により、同社が得られる事業領域としては、以下のような効果を期待できる。

(1)新たな事業領域への拡大
エンジン制御系の技術(特に今後市場拡大が期待されるディーゼルエンジン制御技術や、HEV 制御技術など)、各種センサ技術、HMI 関連技術などを傘下に加えることで、より統合的なシステム提案が可能になると考えられる。

(2)既存の事業領域の強化
ボディ制御技術、安全関連技術、HEV 関連技術など、既存の事業領域と重なる分野も少なくない。開発リソースが逼迫する電子制御系部品の技術開発において、統合による効率化を期待できる。

既存のタイヤや、ゴム・プラスティック等の素形材部品を単体で供給するよりも、電子制御を絡めたシステムとして供給する方が付加価値も高く、利益率も高いと考えられる。

同社は、自動車の走行性能に関する技術を幅広くカバーしているという強みを活かし、自動車メーカーやサプライヤ向けにエンジニアリングサービスを提供する事業も展開している。これにより、開発リソースが不足する顧客の支援をしながら顧客との関係を強化するだけでなく、新たな事業領域・機会の発掘も狙っていると考えられる。

こうして、既存領域の強化と新事業領域の開拓を両輪で進めているのが、同社の戦略から垣間見える。

【M&A以外のアライアンス】

こうした事業拡大にあたっては、派手な M&A に注目が集まりがちであるが、コンチネンタル社が進めているのは、それだけではない。目的に合わせて、他の大企業との提携を活用している。

(1)米マイクロソフト
昨年、米モトローラの自動車電子事業の買収により獲得したテレマティクス技術を強化するために、米マイクロソフトと戦略的アライアンスを提携している。両社が提案するテレマティクスシステムは、既に Ford から受注を得ているという。自社ではカバーできない領域を提携先とのアライアンスによりカバーし、統合したシステムを実現したものと考えられる。

(2)独ZF
また、HEV 関連技術については、大手変速機メーカーである独 ZF と提携し、HEV 駆動ユニットの共同開発を行っている。変速機の内部にモーターやインバータを内蔵することで、搭載性を高めた商品開発に取り組んでいるという。両社は、2年前から HEV 関連技術の共同開発を行うコンソーシアムを組成していおり、その結果、昨年独 VW から HEV 駆動モジュールを受注するに至っている。
(1)同様、お互いの強みを活かし、自動車メーカーが受け入れやすいシステムを実現したものであると考えられる。

(3)ブリヂストン
ブリヂストンと共同で、商用車向けの先進的なタイヤ空気圧モニタリングシステムの開発に取り組む。両社は、横浜ゴムと 3 社で、ランフラットタイヤの共同開発も行っており、開発リソースの効率化とデファクトスタンダードの構築を狙う。
同業種であっても、戦略的アライアンスを活用することで、商品開発を効率的に進めたり、商品自体の戦略性を高めたりしていると考えられる。

つまり、同社は、アライアンスの一つの手段として M&A を活用しているものであり、何でもかんでも手を広げているわけではないことは間違いないだろう。実際、不採算工場を閉鎖したり、他の事業とシナジーが低い事業を売却したりもしながら、資産の入れ替えを行っている。

【アライアンス型事業拡大戦略】

コンチネンタル社は、「革新的製品」「品質」「コスト競争力」の 3 つを、高い利益率を上げるために必要な要素としている。戦略的に拡大したい技術分野の企業と提携し、革新的な製品技術を取り入れ、自社の品質管理ノウハウを導入し、生産規模の拡大と低コスト国での生産シフトによりコスト競争力を高めている。その手段としてアライアンスを最大限活用しており、自社に取り込んだ方が有益と判断したものを順次買収していると考えられる。

同社の最大の強みは、自社の事業領域を考える上での柔軟性なのかもしれない。うちの会社はタイヤ屋さんだから、そんなことはできない、と考えていたら、こういう事業展開はできないかもしれない。

時代の変化に応じて、常に革新的な技術を追いかけながら、事業基盤を拡大させていく同社の戦略に、学ぶべきところは大きいと思われる。

<本條 聡>