think drive (7)  『燃費について』

新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。

【筆者紹介】

環境負荷低減と走りの両立するクルマを理想とする根っからのクルマ好き。国内カーメーカーで排ガス低減技術の研究開発に従事した後、低公害自動車開発を行う会社の立ち上げに参画した後、独立。現在は水素自動車開発プロジェクトやバイオマス発電プロジェクトに技術コンサルタントとして関与する、モータージャーナリスト兼研究者。

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第7回 『燃費について』

2008年 10月から順次、燃費測定モードが変わる。現在使われている 10.15 モードから JC08 というモードへ変わるのだが、関連した話題として今月はクルマの燃費を題材にする。

燃費はクルマの性能としてよく知られているもののひとつだろう。気にしている人は給油の度に燃費を測定して、その良し悪しについて振り返ったり、記録したりしている。また最近何かと話題になるクルマからの CO2 排出量は、燃費と燃料の CO2 排出原単位から計算される。従って、特に欧州では、最近燃費という性能よりも CO2 排出量について論じられる事のほうが多いくらいだ。詳しくは下記バックナンバーをご参照方。

think drive (4)  『ライフスタイルと持続可能なモビリティ』

さて、クルマの燃費性能はどのように決められているのだろうか。ご自分で測定されている方にとっては、いわゆる「満タン法」がポピュラーだ。一度燃料を満タンにしてから、ある距離を走行し、再度満タンにする。その間の走行距離と使った燃料量から計算する方法だ。距離計(スピードメーター)の誤差や、満タン時の満タン度合いのズレが誤差の原因となるが、概算には十分だ。
そして、その走行距離を補正し、燃料使用量を多くすればするほど誤差は減少し、正確な総平均燃費が測定可能となる。もっとも新型車には、必ずといってよいほど車載燃費計がついているので、今では瞬間燃費から区間平均燃費まで簡単に知る事ができる。

このようにとても身近な性能なのだが、燃費ほどわかりにくい性能はない。なぜなら、燃費ほど使用環境に依存する性能はないからだ。その環境を列挙してみると下記のようになる。

・温度、湿度などの気象条件
・空気圧、メンテナンス度合いなどの個体差
・エアコン使用や、荷物、乗車人数の違い
・道路の流れによる走行パターン
・加減速度合いなどドライバーの運転スタイル

前述の満タン法の場合は、上記の使用環境すべてを包括して、その個人の使い方での平均燃費が結果として得られる。しかしながら、クルマの使用パターンは、最寄り駅への送迎と近所への買い物に使うのがほとんど、という人も居れば、高速道路での使用がほとんど、という人など、とても多岐にわたる。従って、同じクルマについて燃費の話をしても、その使用方法が異なる場合が多いので、話が食い違う。

それでは、規制、基準作成が成り立たないだけでなく、性能比較ができないので燃費測定モードというものが存在する。それが、10.15 モードであったり、これから採用される JC08 モードだったりする。ちなみにこれらは乗用車用のモードであって、その他トラックバス用のモードなども存在する。また、欧米には欧米独自の測定モードが存在する。

しかしながら、多くの人の使用パターンが 10.15 モードとかけ離れているため、カタログデータなどに使われる 10.15 モードの燃費データがリアルワールドと違いすぎるという指摘が多い。JC08 モードがそれらの指摘に対してもどのように改善して対応しているかは興味深い。

ちなみに 10.15 モードと JC08 モードの違いに関するポイントは以下のとおり。

・いままでは、冷間時始動では 11 モード、暖機後始動では 10.15 モードを使用していたものが、冷間時始動と暖機後始動共に、JC08 という同一モードとした点。
・加減速パターンが直線的だったものが、より複雑で現実的な加減速パターンになった。
・平均速度が、22.4km/hから24.7km/hに少し高まった。

興味のある方は下記URLを参照方。

http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/09/091101_2_.html

さて、燃費を良くする、つまりは Co2 排出量を低減するには、どうしたらよいか?

まずは燃費そのものを意識して、メンテナンスをきっちり行い、空気圧を適正にして、無意味なアイドリングと加減速を行わない。これだけで、人によっては 2 割程度燃費が向上する場合だってあるだろう。

そして、クルマを買い換えるタイミングには、乗車人数、走行モードに適したクルマを選びたい。プリウスはとても素晴らしいクルマだが、決してハイブリッドに買い換えるだけが選択枝ではないと思う。それというのも、まだまだ世の中のクルマはダウンサイジングが可能で、環境負荷低減には一番効果的だと思う。しかし、今ひとつニーズとのミスマッチを感じている。つまり売れていない。その最大の理由は安全性だと感じている。コンパクトカーだからといって、JCAP などの衝突実験などで安全性が低いということは、最近はない。しかしながら、大型トラックなどの車両サイズ・重量が大きく異なるクルマ同士の衝突では、それぞれが持つ運動量の違いを無視できないのも現実だ。もっともコンパティビリティという発想で、サイズ・重量が異なる相互に安全なクルマつくりが進められているが、限界もある。

通勤など一人乗車がほとんどという使用パターンで、ダウンサイジングが環境負荷低減には有効だという考え方に賛同してくれている知人に、何故コンパクトカーに替えないのか?という理由を問うと、万一の際の安全性を理由にする人が多い。ちなみに私個人は、そのリスクとコンパクトカーであるメリットを考え、迷わず普段の使用にはコンパクトカーを使っている。リスクの考え方は千差万別なので、コンパクトカーを選ばない意見も尊重すべきだと思う。

このように安全、環境という近年着目されてきているクルマの両性能が、トレードオフの関係になるのはとても悩ましい。しかし、既に実用段階にある衝突防止装置の早急な普及や、ITS を使ったさらなる高度な安全インフラの実現によって、これらのトレードオフは解消できる。ESC (横滑り防止装置)の普及が圧倒的に遅れている日本だが、例えば衝突防止装置で世界を牽引するくらいの勢いで推し進めてほしいと思う。

さて、話をクルマ単体に戻して、ディーゼルに対して燃費性能で劣っているガソリンエンジンの燃費向上を目的とする最新技術を 3 つほどご紹介する。

・スロットルレスシステム:
BMW の「バルブトロニック」、「トヨタのバルブマチック」、日産の「VVEL」が既に製品レベルになっている。
ガソリンエンジンの特性として、低負荷域での効率低下がある。
それはコンベンショナルなストイキ制御のガソリンエンジンの場合、空気量で出力制御を行うために発生するポンピングロスといわれる効率悪化の要因を排除するもの。
スロットルという文字とおり空気を絞ることで出力を抑える手法に替え、吸気バルブのリフトとタイミングで空気量を制御するものである。
一般的に使用頻度の高い低負荷域の燃費向上を目的としている。

・筒内燃料直接噴射方式:
燃焼室に燃料を直接噴射する方式で、緻密な燃料制御が可能な点と、燃焼室内で燃料が気化することにより、充填効率の向上や、高圧縮比化が可能となり、比出力、効率向上が得られる。
ノッキング制御に対してもアドバンテージがあるので、過給(ターボ)と併用される例が多い。

・過給(ターボ):
自然吸気エンジンに対して、比較的低回転からの高出力が得られるため、相対的に機械損失が減少することも手伝って、効率向上が得られる。
ターボは排気エネルギーを回収することで更なる出力・効率を向上させる技術。
ターボは燃費が悪いという俗説は、今まではパワー指向のターボ利用設計がされていたためであり、本来ターボの持つ排気エネルギー回収機能と低回転での出力向上を狙う設計思想によって、ターボにより燃費が向上する。

特にターボに関しては「燃費が悪い」というイメージが定着してしまっている事もあり、ぜひ、新世代ターボ車に乗ってみて頂き、走りと燃費の両立を感じて頂きたい。先月レポートした VW Golf GT TSI、そして BMW 335i、インプレッサ S-GT などは、どれもその走りに対して十分で NA (自然吸気)に負けない燃費性能であったことも付け加えておく。
ところで、私の経験上最高の燃費を記録したクルマは、Smart for two だ。友人が所有するこのクルマで、決して抑えた走りではなく、高速、ワインディング、一般道を気持ちよくドライブした結果が、約 24km/L。すばらしい燃費だと思う。しかしさらに、どうにかして Smart for two cdi を手にし、気持ちよい走りかつ 33km/L 以上という、リアルワールドでの 3L カー体験に挑戦してみたい今日この頃である。

<長沼 要>