東日本大震災による国内自動車販売への影響について

今回は、「東日本大震災による国内自動車販売への影響について」をテーマと
した以下 4 問のアンケート結果を踏まえてレポートを配信致します。

https://www.sc-abeam.com/sc/?p=5230

 ・「東日本大震災による国内新車販売台数への影響について」
 ・「国内新車販売市場の回復時期について」
 ・「自動車メーカーの国内自動車販売・流通領域における短期的な取り組み
   について」
 ・「国内市場における消費者心理の変化について」

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【11年度の国内新車販売台数見込み】

 トヨタ、ホンダ、三菱自工は、今月に入り、2011年度の国内新車販売台数見
通し・計画(連結ベース)を以下の通り発表した。(括弧内は昨対比増減率)
     
          上半期                        下半期                          通期
トヨタ           –                               -                        1,930 千台(+1 %)
ホンダ         –                                  -                              565 千台(▲3 %)
マツダ           –                                      –                            207 千台(±0 %)
三菱自   68 千台(▲24 %)         96 千台(+28 %)       164 千台(±0 %)
 
 各社の数字は、売上台数や小売台数等、基準の違いはあるが、傾向としては
上半期の震災による影響を下半期に取り戻すというような格好である。

 自動車業界に携わる方で構成される弊社のメールマガジンの読者に「2011年
度国内新車販売台数の見込み」、「450 万台レベルまで回復する時期はいつか 」
についてお聞きした結果は、以下の通りとなった。

 ・「450 万台以上」    :19 %
 ・「400 以上 450 万台未満」   :28 %
 ・「350 以上 400 万台未満」   :30 %
 ・「350 万台未満」    :23 %
 

 ・「2011年度」    :17 %
 ・「2012年度」    :34 %
 ・「2013年度」    :15 %
 ・「2014年度以降」    :12 %
 ・「当面 450 万台レベルまでは回復しない」 :21 %
 ・「その他」     : 1 %
 
 2011年度の国内新車販売台数見込みは 「350 以上 400 万台未満 」 と回答さ
れた方が多かった。この新車販売台数見込みに関するアンケートは 5月 10日
に実施したものであり、以降に生産正常化前倒しの報道が続いた為、現在では、
「400 以上 450 万台未満 」 が現実的なレンジかもしれない。

 また、回復時期についてのアンケートは 5月 17日 に実施したものではある
が、「市場の回復には 1年以上要し、生産面より販売面の方が震災の影響の尾
を引く」と考えられた方が多かった。

 この 1 ヵ月の間に何が起こったのか、足元の販売状況ついて個別に見ていき
たい。

 
【国内新車販売を取り巻く足元の状況】

 国内新車販売台数について足元の状況を見てみると、昨対比で、3月(▲35
%)、4月(▲47 %)、5月(▲33 %)と推移しており、5月に入って減少幅が
縮小したものの、昨年に比べて販売台数が落ち込んでいる。

 大前提として、震災以前から、元々消費者がクルマ離れの傾向にあったこと
や、エコカー補助金制度による需要先食いの反動があったことは考慮しておく
必要がある。

 これらに加えて、減産による車両の供給不足や、納期が見えないことによる
販売機会の損失、また、景気の先行きが不透明である為、消費マインドが低下
していることが挙げられている。

 消費マインドの動向については、内閣府が 6月に発表した一般世帯の消費者
態度指数(※)を見てみたい。

  消費者態度指数  前月差
 2月調査 41.2   ▲0.4 pt
 3月調査 38.6   ▲2.6 pt
 4月調査 33.1   ▲5.5 pt
 5月調査 34.2   +1.1 pt

 ※今後半年間における消費者の意識を表す指標。「暮らし向き」、「収入の
  増え方」、「雇用環境」、「耐久消費財の買い時判断」等について今後半
  年間にどう変化するのか、消費者の意識を調査したもの。50 が指数の善し
  悪しの判断目安となっている。

 内閣府は、消費マインドの基調評価を「悪化している」のまま据え置いたが、
減少傾向にあった指数が、4 ヵ月ぶりに前月を上回ることになったのは、一つ
の明るい兆しであると捉えられる。

 実際に、トヨタのプリウスαの受注台数が、月販目標 3 千台に対して、5月
13日の発売以降たったの 1 ヵ月( 6月 12日時点)で約 52 千台になったとの
発表がある等、受注台数は底堅いとの報道がある。

 また、全車種ではないという点に注意を払う必要があるが、各社は生産正常
化前倒しを報じており、車両の供給不足や納期の見通しが立たないという事態
は近いうちには改善されそうである。

 
【自動車メーカーが国内新車販売において取り組むべき短期的な課題】

 国内新車販売市場の回復を更に活性化させる為に、震災によって経営難に落
ち込んでいる販社の支援を行い、販売網を改めて建て直す必要があると考える。

 実際に被災していたり、または震災以降の販売落ち込みや、減産の影響緩和
の為に、納車遅れの対応として車検代を肩代わりする等で資金繰りが悪化して
いる販社も少なくないと推測される。

 「自動車メーカーが国内自動車販売・流通領域において短期的に何に取り組
む必要があるか」について、5月 24日 にアンケートを実施してみた。

 アンケートの結果においても、以下の通り、販社支援等の販売ネットワーク
の維持を回答された方の割合が多かった。
 
 ・「体力の低下した販売会社への融資や資金繰りの支援等、
                 販売ネットワーク維持への対応」:28 %
 ・「輸出生産分を国内向けに出荷する等、新車流通量不足への対応」:20 %
 ・「受注済み顧客への車検費用負担、
             代車貸し出し等、新車流通遅れへの対応」:19 %
 ・「販売会社間で中古車在庫や試乗車を
         共有・集約化する等、中古車流通量不足への対応」:19 %
 ・「その他」       :14 %

 
 自動車メーカー各社も生産に一定の目途が経ち、今後は、販社支援に軸足を
移し、以下のような対応を取るとの報道がある。

 [トヨタ]:震災直後から実施していた新車代金の決済猶予に加えて、今後、
       被災した販社に低金利融資を実施

 [日産] :被災地のユーザー向けに低金利ローンを設定

 [ホンダ]:系列販社の新車在庫の相互融通を実施
 
 復興需要への体制を整備・確立するためには、経営難の販社への金融支援に
加えて、更に一歩踏み込んだ対応が求められるのではないであろうか。

 サプライチェーンの早期復旧を実現したように、被災地に点在している避難
所・仮設住宅街に商談ブースの設置を図る等の営業活動、人的な支援といった
ところも今後必要になってくるかもしれない。

 
【震災後の消費者心理の変化を捉える】

 短期的な対応に終止せず、今回の東日本大震災がもたらした消費者心理の変
化を的確に捉え、開発された車両を投入することが、今後中長期的に求められ
ると考える。

 3月 11日の大地震発生直後に各種公共交通機関が麻痺し、往生したことは読
者の中でも多くの方が経験されたのではないかと思う。

 それ以降も東京電力管内で電力不足による大型停電を懸念し、各種公共交通
機関に混乱が生じるといった事態が生じたのも記憶に新しい。

 こういった体験を通じて、個人がクルマという自分の意志で動ける移動手段
を持つ必要性について改めて見つめ直す機会になったのではないかと思う。

 実際に、「クルマの購入意思決定において、東日本大震災を経てより一層重
要となった要素」について 5月 31日 に弊社で実施したアンケートでは、以下
のような結果となった。
 
 ・「低燃費化」 :37 %
 ・「多用途化」 :19 %
 ・「情報化」  :14 %
 ・「低価格化」 :13 %
 ・「安全性」  :12 %
 ・「居住性」  : 2 %
 ・「その他」  : 3 %
 
 震災直後に関東・東北域内の広い地域において、ガソリンが供給不足となっ
たことや、価格が高騰したことも踏まえると、「低燃費化」のニーズが更に加
速するのは当然の結果であると捉えられる。

 また、「多用途化」を選択された方の回答も比較的多かった。実際に、トヨ
タのエスティマ ハイブリッドが被災地で非常時のバックアップ電源として活躍
する(車載電池を利用し、携帯電話の充電や、炊飯、湯沸かしを行う)といっ
た事態も報じられ、改めて注目を集めた。

 被災者からの声もあり、トヨタがプリウスやその PHV にも同様のモジュール
の搭載を検討したり、三菱自工が i-MiEV を電力使用量が多い電気ポットや炊
飯器等の使用に対応させることを決めたとの報道がある。

 また、「情報化」も一定の票を集めた。地震発生直後は携帯電話が通じず、
外出していた方は情報不足で、混乱や不安を覚えた方も多いのではないだろう
か。

 情報化の分野では、トヨタがマイクロソフト、セールスフォースと組み、ソー
シャルネットワーク「トヨタフレンド」の構築を考えている。

 基本的な機能としては、EV 及び PHV の電池残量が少ない場合、充電を促す
情報提供がされたり、Twitter や Facebook 等の外部のソーシャルネットワー
クサービス(SNS)とも連携するというものである。

 人とクルマ、販売店、メーカーを繋ぐ SNS というコンセプトを掲げており、
何れは災害時のコミュニケーションツールとしても発展していけば良いのでは
ないかと考える。

 実際に、災害情報や、ユーザーの現在地近くの避難場所の情報提供を求める
ニーズはあるであろうし、クルマ社会を通じて補完できるものもあるかもしれ
ない。

 今回の震災を通じて、今後は、「走る、曲がる、止まる」といった基本性能
の向上に加えて、クルマを持つことによって走行性能以外にどれだけの付加価
値を与えることができるのかがより一層問われることになるのではないだろう
か。

                                                                                                    

<横山 満久>