ハイブリッド開発に見るサプライヤへの期待

◆日産、ハイブリッドシステムの開発・調達で独ボッシュと提携交渉入り

日産は2010年度に独自システムによるハイブリッド車を投入する計画。日産の条件は「日本での開発・生産」としており、ボッシュの判断が注目される。

<2007年11月13日号掲載記事>

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【ハイブリッドの開発状況】

日産は、2006年からトヨタからハイブリッドシステムを調達(北米向け中型セダンのアルティマハイブリッド)しているが、独自のハイブリッドシステムによるハイブリッド車の開発を継続することを以前から公表してきた。昨年発表した「ニッサン・グリーンプログラム 2010」でも、2010年度の北米、日本市場への投入を目標に、独自のハイブリッドシステムを搭載したハイブリッド車を開発すること、電気自動車と同様のモーター走行が可能となるプラグイン・ハイブリッド車の研究開発を推進することを目標として掲げている。今回報道されている内容も、こうした日産の独自開発の流れにあるものと考えられる。

ハイブリッド車を一早く商品化したトヨタ、ホンダは、新型ハイブリッド車の開発、投入に注力し続けているが、その他の日系乗用車メーカーは、ハイブリッド技術の開発をそこまで大々的には掲げておらず、今回の東京モーターショーでも、ハイブリッド技術を強調してアピールしていなかった。ハイブリッドブームも一段落ついてきたということだろうか。

国内では、一定レベルまで普及すると見られているハイブリッド車であるが、海外では必ずしもそうではない。CSM の予測によると、ハイブリッド車が占める生産台数の割合は、2013年時点で、日本は 6.5 %まで伸びるが、北米は 1.9 %、欧州は 1.3 %に留まるとみている。ボッシュの予測でも、2015年時点で、日本は 9 %に達するが、北米(NAFTA 諸国)で 4 %、欧州では 1 %程度とみている。日本よりも交通事情が良く、渋滞や信号によるストップ&ゴーが少ない欧米では、アイドリングストップや制動エネルギーの回生を行うハイブリッド車のメリットを日本ほど活かせないため、燃費改善効果が低い、というのが定説である。

しかし、世界各地の市場で進む燃費規制や排出ガス規制の強化を踏まえ、欧米メーカーもハイブリッド技術の開発を本格化させていると見られ、近年、ハイブリッド技術やコンセプトカーの発表が相次いでいる。今年のフランクフルトモーターショーでも、Mercedes Benz、BMW、OPEL、PSA、Volvo など多数のメーカーがハイブリッドシステムを搭載したコンセプトカーを出品していた。Mercedes Benz は、今後、燃料や排気量を問わず全てのエンジンでハイブリッド技術を投入していくと発表しているという。

ここで、若干違和感を感じる方も少なくないと思う。欧米ではハイブリッド車は日本ほど市場が伸びると見られていないにも関わらず、なぜ欧米メーカーはハイブリッド技術の開発に熱意を見せるようになったのだろうか。

【多様化するハイブリッド】

欧米各社の発表しているハイブリッドシステムの技術を注意深く見ると、その答えが見えてくる。ハイブリッド車の定義そのものが変わってきているのではないだろうか。

Mercedes Benz は、3 つのハイブリッドシステムを開発していると発表している。

一つ目は「マイクロハイブリッド」と呼ばれるもので、アイドリングストップ機構とオルタネータによる制動時のエネルギー回生機構を組合せたもので、「Smart ForTwo」などの MT 車での実用化を目指しているという。

二つ目は、「ISG (Integrated Starter Generator)」と呼ばれるもので、エンジンをかけるスタータモータと、発電するオルタネータを一体化させたようなもので、AT 車でのアイドリングストップを可能にする機構である。

そして、三つ目が、「2 モードハイブリッド」と呼ばれるもので、トヨタプリウスの「THS-II」のような、発電用のモータと駆動用のモータをの二つを搭載する、いわゆるストロングハイブリッドである。

つまり、Mercedes Benz は、これらのモータ技術を搭載し、制動エネルギーを回生する機構を全て「ハイブリッドシステム」と呼んでいるのである。

これまでプリウスに代表されるストロングハイブリッドで先行してきたトヨタも、新たなハイブリッド技術の開発を進めている。プラグインハイブリッドである。外部からの充電機構を備え、モータでの走行距離を伸ばすもので、電気料金の安い深夜に充電することなどにより、さらに燃料代を削減することが可能になる、というものである。トヨタは今年プリウスにプラグインハイブリッド機構を搭載した車両の公道試験を開始している。

つまり、トヨタやホンダが先行して市場に投入し、環境技術の代名詞的に謳われてきた「ハイブリッドシステム」が、市場とプレイヤの拡大に伴い、その技術も多様化が始まったと言えるのではないだろうか。

これまで欧米ではそこまで市場が拡大しないだろうと言われてきたのは、上記のストロングハイブリッドの場合の話であり、アイドリングストップ機構のようなシンプル、軽量で即効性の高い技術も考慮すれば、「今後全てのエンジンにハイブリッド技術を投入していく」という Mercedes Benz の主張も、大げさには思えない。

【ハイブリッド開発における問題点】

こうして多様化したハイブリッド技術の普及が進めば、近い将来、「ハイブリッド」であるということは、特別なものでなくなってくる可能性もある。

これまで、ハイブリッド車であることで、税制面での優遇もあったが、ハイブリッドであることが当たり前の存在になってくると、こうしたメリットも享受できなくなるかもしれない。そうなると、ユーザーに対し、よりシビアなコストメリットを実現していくこと、つまり、ハイブリッドシステムの搭載に伴うコスト増加分を補う、より高い燃費性能等が求められる。

また、グローバルに展開する自動車メーカーとしては、一つのハイブリッドシステムを開発すれば済むというわけにはいかず、車種・用途や地域・市場に合わせて、多様なハイブリッドシステムを提案していくことが求められる。当然、その開発リソースは、さらに拡大することになる。

とはいえ、高い燃費性能や多様なシステムを求められても、自動車メーカー側で、これらのニーズに全て対応していくことは簡単ではない。環境、安全といった社会的な要請の高まりと、グローバルに拡大する自動車市場への対応で、各自動車メーカーの開発リソースは慢性的に不足しているからである。

従って、各自動車メーカーは、今後開発を注力していく技術を取捨選択しなければならないはずである。一部のメーカーで例外はあるかもしれないが、多くの場合、クリーンディーゼルエンジンや電気自動車、燃料電池自動車、バイオ燃料対応等、次世代パワートレイン技術の中でも、この技術には注力していくが、この技術は他のメーカーやサプライヤからの協力を得る、といった判断が求められるのであろう。

【次世代型サプライヤへの期待】

こうした状況を踏まえると、ボッシュのようなハイブリッドシステムを丸ごと提案できるサプライヤへの期待は大きい。同社は、250 名以上の陣容で多様なハイブリッドシステムの開発と販売に取り組んでおり、既にガソリンハイブリッド、ディーゼルハイブリッドの双方で受注しているという。また、現在注目を集めている自動 MT の一種である DCT (デュアルクラッチ・トランスミッション)と組み合せるハイブリッドシステムの開発を、大手トランスミッションメーカーであるゲトラグ社と提携して進めており、新たなシステム開発も進めている。

モータ、バッテリ、コンバータなどの電装部品(ハード面)と、エンジン、トランスミッション等の電子制御系(ソフト面)の開発に長い期間携わってきたノウハウの蓄積があるからこそ、ハードとソフトを組み合せたシステムとしての提案も、個別のハード・ソフトとしての対応も可能であり、他のサプライヤとのアライアンスも活用しながら、顧客に合わせた柔軟な対応能力につながっていると考えられる。

今後、ボッシュのようなシステムを丸ごと提案するサプライヤへのニーズは更に高まるはずである。これまで自動車メーカーが開発の主導権を握ってきたシステムを丸ごと提案するという戦略は、弊社が「自動車メーカーに聞く次世代型部品メーカー像と製品ごとのトレンド・投資戦略」というレポートでも提言してきた、「リスク負担力」を強化して、製品領域を拡大させていくという戦略の典型的な一例ではないかと考えるからである。

この傾向は、ハイブリッドシステムに限った話ではなく、革新的な技術が普及していく過程で、必ず通るステップではないだろうか。ハイブリッド関連技術に限らず、自動車メーカーの開発リソースは逼迫しているため、自動車メーカーとしては、ある程度技術が確立してきたものについては、サプライヤに任せることで、更に先進的な技術の開発を進めたいのではなかろうか。こうした状況において、これまでの守備範囲だけでなく、一歩進んだ形で提案できるサプライヤが現れれば、積極的に活用を検討するはずである。

サプライヤとしても、機会を活かし、積極的に攻めることで、顧客である自動車メーカーとの開発スコープの境界線を変えることができ、顧客にとってなくてはならない存在になり、交渉におけるポジションも変えられるはずである。今後、次世代技術の開発に向けて、サプライヤに課せられる期待は大きくなると予想される。そうした環境の中で、自社でできることを最大限に発揮し、他社とのアライアンスも活用しながら、柔軟な提案を行うことで、自動車メーカーの開発負担軽減に貢献していくサプライヤが望まれている。

<本條 聡>