脇道ナビ (64)  『台湾の屋台料理が食べたかった…』

自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第64回 『台湾の屋台料理が食べたかった…』

台湾に行ったときのことだ。テレビの旅行番組で紹介していた有名な夜店へ繰り出した。お菓子、Tシャツ、バッグ、CD、おもちゃ、日用雑貨、ラジカセ、動物(食べるのか、ペットにするのかは不明)など様々なモノが並ぶ。それらを怪しげな色とりどりの裸電球や蛍光灯がギラギラと照らしている。音もスゴイ。お店の人が客と大声でやりとりする声、CD屋から流れる音楽など音がキモチを盛り上げる。そして何より人の多さはすさまじい。深夜にもかかわらず、人であふれかえっており、熱気でクラクラしそうだった。

いくつかの店を冷やかして歩くうちに、お目当ての店が見えてきた。テレビ番組のレポーターがおいしそうに屋台料理を食べていたシーンを思い出し、何かつまんでみようと食べ物の屋台を探していたのだ。しかし、すぐに足が止まってしまった。あくまでも好みの問題だが、私にはとても食べ物とは思えない匂いがあふれていたのだ。もちろん、現地の若いカップルやオジサン、オバサンたちがおいしそうに頬張っているところをみると、珍味といったものではないらしい。ただ、私自身には食文化の違いにチャレンジする勇気はなかった。

よく考えると当たり前のハナシだが、夜店で後ずさりしてしまった匂いに限らず、テレビ番組が伝えていないものはたくさんある。ただ、怖いのはそうしたテレビ番組なり、こぎれいな写真満載のガイドブックが良くできているために「分かったつもり」になることだ。彼らは莫大な予算をかけ、マーケティングに精通した担当者が知恵を絞った企画を立て、現地の事情通などと連携した綿密な取材をしている。写真も専門家がベストショットを撮影している。しかも、そうしたものを自宅で寝そべっていても、見たり、読んだりすることができる。そんな内容の深さとお手軽さがあるからこそ、視聴者や読者の頭に入りやすくなっている。だからこそ、いかにも「分かったようなキモチ」になってしまうのだ。
しかし、テレビ番組の映像やガイドブックが伝えてくれるものは、ほんの一部だし、所詮は他人が見たもの、考えたもの、感じたものに過ぎない。もちろん、そうした情報はうまく利用するにこしたことはない。ただ、自分の五感のすべて、いや第六感までも駆使しないと分からないものがたくさんあることだけは肝に銘じておかないと、情報の海と言われる現代社会で、いつか迷子になってしまうのではないだろうか?

<岸田 能和>