脇道ナビ (22)  『にくまれっ子世にはばかる』

自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第22回 『にくまれっ子世にはばかる』

若い頃に一戸建ての家を借りていたことがある。その敷地には猫のひたいほどの空き地があった。花を植えたい、と言う妻を押し切り、菜園を作ることにした。つまり、「花より団子」である。そこで、まずは「たのしい野菜づくり」という本を買ってきた。著者の柳宗民氏は日本の工業デザイナーの先達、柳宋理氏のご兄弟だ。そのため、当時は工業デザイナーの端くれだった私としては著者名で、その本を選んだ。

本を開くと、まずは土作りの方法が書かれており、それらに忠実に、鶏糞、腐葉土、石灰などをすきこみ、一ヶ月あまりの間、ゆっくりと土を寝かせた。やがて、春がきたので、胡瓜やナスの苗を買ってきて植えた。なにしろ、植物を育てた経験がなかったので、植えた苗が日一日と大きくなっていくのは楽しかった。ただ、その頃は仕事が忙しく、早朝に出かけ、帰宅は深夜に近かった。そのため、深夜に帰宅すると、庭まで延長コードを引っ張り、裸電球を点けて成長を確かめ、草を抜いていた。

夏になると、わずかながら胡瓜やナスを収穫することができたが、スーパーで買ったものと比べ、格段においしいと思えるほどのものではなかった。また、小さな菜園のため、収穫量が少なく、今日は胡瓜が 1本、明日はナスが 1個ということで、食卓に載せるのが難しい。こうしたことから、菜園のたいへんさを思い知り、飽きっぽい私は菜園を放りだしてしまった。

さあ、それからがたいへんだった。ちょうど、真夏に近づいていたが、手を入れなくなると、雑草が生い茂ったのだ。それも半端ではない。あっと言う間に、土が見えなくなるくらい雑草が生い茂った。もともと、野菜を育てようと、土作りから始め、肥料もたっぷりと入れているだけに雑草の生育には好条件となったようだ。それでも、最初は、ヒマをみて抜いていたが、仕事が忙しかったこともあって追いつかず、「自然の営みに人の手を入れるべきではない…」と言い訳しながら、見てみないふりを決めこんだ。

使い勝手の良くない商品。たいして必要もない機能が満載の商品。醜いカタチをした商品。けばけばしいだけの色使いをした商品。そんな雑草のような商品でも、市場ではばをきかせている商品は少なくない。それらは、値段の安さや商品宣伝の巧みさもあるが、なにしろそんな雑草を育てる土があるからこそ、放っておくとすぐに生い茂ってしまう。美しい花のように愛でたい、大切にしたいと思わせる商品を増やすためには、面倒でも良い商品を育てるための手間を惜しんではいけない。

<岸田 能和>