パラメーター経営に立脚した、シナジー効果模索の重要性

◆ノンバンク(消費者金融・信販・クレジットカード)の業績が急速に悪化

◆プロミスが「カーコンビニ倶楽部」事業を30億円で買収

<2008年3月30日 日経金融新聞掲載記事他>

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ノンバンク、特に消費者金融の業績が厳しい。

1年前には消費者金融大手四社で 3,000 億円超の連結最終利益をあげていたものが、今期は合計で 1 兆円近い赤字となる見込み。

つい先日まで絶好調であった業界環境が激変した直接的な引き金は利息制限法・出資法の見直しだ。

貸し出し金利を抑えざるを得なくなると、消費者金融事業者から見ると

1.直接的には、利回りが低下する、即ちトップラインの収益性が低下する

2.これまでの金利に織り込んでいた、一定の貸し倒れ率分をカバーできなくなることから、顧客を選別することによるローン承諾率の低下(※)を招き、結果としてトップラインの絶対額が減少する。

3.上限金利を超える分を、過去に貸した顧客から過払い金として返還請求されるケースが急増していることに備えるため、引当金の積み増しを強いられ、結果としてコストが増加する

といった、売上・コストの両サイドへの大きな影響がある。

※06/4:60% → 07/2:44%

結果、本来多重債務者を助ける趣旨で行われた法改正であるにも関わらず、実際には正規の消費者金融事業者で借りることが出来なくなり、ヤミ金融へと流れるといった懸念も一部聞かれるようになっている。

本コラムでは、所謂消費者の立場から見た本来有るべき法改正の方向性といった点については、既に多くの論争が存在することから立ち入ることはせず、厳しい業界環境下での消費者金融事業者の今後の事業展開の可能性について考察してみたいと思う。

【経営パラメーターの数】

事業を行う際、その事業を成功に導くために必要な変数(パラメーター)は無数に存在する。

例えば自動車ディーラーにおける新車販売部門の「販売台数」だけでも、取り扱いブランドの状況、テリトリーの大きさ、テリトリー内自社ブランド保有者に対するアクセス率、ネットを通じた見積依頼数、来店数、来店時接客率、成約率、既納客の車検入庫率などなどが考えられる。

「新車」の「販売台数」を増加させるパラメーターだけでも、上の通り多数存在するが、そもそも新車以外にも自動車ディーラーには中古やサービスなどの部門が存在するのに加え、「台当り単価」、「台当り粗利」、「資金収支の状況」などの大項目に対しても同様のパラメーターが多数存在する。

経営とは、こうした変数(パラメーター)を優先順位をつけながら、行動を以ってプラスに動かしていく行為であると言っても過言ではない。

【成熟期の消費者金融はパラメーター数が相対的に少ない】

小職の過去の経験から言うと事業立ち上げの際にはパラメーターの数が少ないほうが、パラメーターがいくつも存在して全てが満たされることが成功の条件となるような事業よりも成功確率は圧倒的に高い。

こうした観点で考えると、相対的にパラメーターの数が少ないのが金融事業であり、特に成熟期の消費者金融であると考える。(それでも、融資総額、積み上がりのスピード、個別債権の額、ローン承諾率、債権数・地域・年収別分布、遅延率・日数、貸し倒れ率などなど把握すべき数は多いが。)

パラメーターは経営を行ううえで全ての企業において必ず存在するものの、その数や性質は業種や参入市場・業界特性などに大きく依存する。GE/HBS の共同事業でスタートし戦略計画研究所に引き継がれた PIMS の概念によれば、業績の 7~ 8 割までもが属している業界の影響により説明できるとのことだ。

特に消費者金融のように相手が事業者ではなく消費者で、融資資金使途が消費財であり、一定以上の資産規模を積み上げ、異なる消費者向けポートフォリオを構築出来た暁には
1.B2C 事業者向けサービスを提供する B2B 事業者が直面する、「実業を行う事業者(例えば B2C 事業者)が提供する顧客向け価値をフルに理解したうえで、これを上回る価値を提供出来ないと、価値を認めてもらえない」という状況に陥りにくいことに加え、

2.扱い商品が貨幣・信用であることから、最終消費財の特性を把握したうえで、個別消費財毎のブランド構築努力や当該商品のコスト削減努力といったことも不要となる。

これまでは(相対的に)少ないパラメーターをしっかり把握しながら消費者金融業界全体は利益を享受してきたが、今回取り上げている記事はこれらに対してマクロの環境が悪影響を与えているケースと言えよう。

【パラメーターの多くにマクロ環境が悪影響を与えるときは】

業界のルールそのものが変わるなどの原因により、パラメーターへの梃入れをしようにも難しい環境がある場合、企業の経営方法としては大きく 2 つが考えられる。

1.天気が良くなるのを待つ作戦

これは、武富士の社長がいみじくも「暴風雨が収まるまでビバークする」と述べたとおり、時間を置くことにより

1) 業界環境が好転するのを待つ

2) 業界内での競争脱落者を待ち、生存者利益を得る

という手法である。

最大手であるが故に取れる作戦であるとも言える。

2.能動的に動く作戦

筆著コラム『景気=天気ではない。経営とは能動的な行動である。』

「景気=天気ではない。経営とは能動的な行動である。」

にある通り、

『ビジネスは「景気」というものの回復に期待をして、待っていて「発生する」ものではない。積極的に新しい価値を感じてもらえる種(たね)を探しだし、そこに資源を配分していくという行動が必要だ。そうでなければ、経営者(ビジネスマン)ではなく気象予報士になってしまう。』

もちろん、上記の武富士のビバークは環境が良くなるのを待ってから動くほうが自社の相対的企業体力から見ると得策であるとの判断であり、決して積極的な価値創造を放棄しているものではなく、競争環境を見据えながら、行動のタイミングをずらしているに過ぎない。

しかし、一方で業界大手のプロミスは、先般子会社によるカーコンビニ倶楽部事業の買収を実施した模様だ。

【カーコンビニ倶楽部事業買収の意図】

カーコンビニ倶楽部は、小キズを中心に簡易な板金を行う 1,800 箇所の FC店を統括する企業であり、プロミスは子会社を通じてここから事業を 30 億円で買収した模様。

プロミスによるカーコンビニ倶楽部事業買収には 2 つの意図があると思われる。

一つは当然のことながら、事業そのものの価値を向上させることによる、貸金以外の収益源の模索である。当然、その延長線上には株式公開といったことも念頭においているだろう。

もう一つは、板金・整備を行うカーコンビニ利用者向けのローン提供などによるシナジー効果である。

業界他社は赤字を受けて店舗数の大幅な閉鎖を検討している。

プロミスを除く 3 社は合計で全店舗 2 割強に当る 1,300 点を閉鎖する予定である。

こうした顧客との接点の削減をプロミスとしても今後検討せざるを得ない環境である反面、カーコンビニのような一味違ったチャネルを獲得することにより、これを補うする効果も期待出来る。

しかし、根源的に金融はその先にあるなんらかの実業を支える為の手段として存在していることから(※)、 実業を行う事業者が提供する顧客向け価値を補完する価値を提供出来ないと成り立たないはずである。

※アービトレーションを目的とする機関投資家などの存在はマーケットの流動化を確保するうえでも必須であり、この場合は必ずしも実業・実需に立脚しない金融も存在するが、ここでの議論からは外して考えたい。

その意味では、板金 FC ビジネスを取り組むに際しては、成熟した消費者金融事業と比較すると、パラメーターの数は少なくとも同じかそれ以上の数が存在するであろうし、(企業規模を無視した比較を行っているところは、割り引いて考えて頂きたい)これに自らが取り組んでいく必要が生じるわけだ。

よって本件はパラメーターの把握・設定からスタートし、新規事業を再スタートさせるくらいの気持ちで取り組むことが PMI (Post Merger Integration)において肝要なビジネスであろうと想像される。

大切なのは、譲渡資産に付帯した現場の経営を十二分に理解する人材の活用と、ゼロからのパラメーター設定、そしてそれらへの地道な働きかけのうえにシナジー効果としての金融商品を乗っけていくことであろう。

<長谷川 博史>