最適なビジネス形態を求めた自由取引の重要性・ M&Aは社会の地殻変動をもたらす

◆サイト売買のサイトキャッチャー、高級車を対象としたSNSの譲渡先を募集
「誰もが知ってる高級車専門のSNS」で販売希望価格は50万円程度という。

<2007年01月10日号掲載記事>

◆サイト売買のサイトM&A.jp、車の売買仲介サイトの売却案件概要を公表
2002年12月の運営開始。月間PV トップページ3万件。売却希望価格300万円

<2006年12月25日号掲載記事>

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インターネットの発達により世の中は「サイト」、つまりホームページそのものが価値を持つ時代へと突入している。

サイトとは、具体的には HTML などの言語でプログラムされた無形資産であり、端的に言えば、言語の羅列・組み合わせ以外の何物でもない。

しかし、この単なる「言語の組み合わせ」がインターネット上で顧客を引き付けたり、企業の諸活動(受注・在庫管理などのバックエンドの活動など)を支えたり、といった重要な役割を担うようになりつつある昨今、ページビューやサイトで取り扱っている商品・会員の数、これらと一体化した受発注管理システムなどが独自の価値を持ち、これらを欲するプレーヤーとの間で交換(売買)が発生するのは自然な流れである。

【サイトキャッチャーとは】

サイトキャッチャー※ではこの売買をインターネット上で仲介するサービスを提供している。
http://www.sitecatcher.net/

※サイトキャッチャーは、メディアネット株式会社 (本社:東京都新宿区、代表取締役社長 近藤克紀) が運営する、サイト売買・ M&A の専門サービスを提供するインターネットサイトである。(サイトキャッチャー HP より)

具体的には、

1.サイトを売りたい人が会員登録のうえ、自分のサイトの特徴を明記のうえ、サイトキャッチャー上に書き込む。

2.売りに出ているサイトは、サイトキャッチャーの HP 上で以下カテゴリー毎に分類される。
ニュース・情報/エンタテイメント/暮らし・趣味/スポーツ・レジャー/コンピュータ・インターネット/ショッピング/アート・文芸/企業・ビジネス/学校・教育 /車・バイク/ファッション・美容/ウーマン /キッズ/出会い/アダルト/メールマガジン/ブログ/システム販売

3.買いたい人はそれぞれ会員登録をしたうえで、購入意思をサイトを通じて売り手にコンタクトを取る。

1月 13日現在、登録サイト数は 543 件、利用企業数は 1,672 社、成約案件数は 129 件となっている。

【サイト売買行為の持つ意味】

こうしたサイトそのものを売買する行為の持つ意味について考えてみたい。

サイトの売買は広義の M&A における、所謂営業譲渡に分類されるが、

1.サイトの果たす機能がそれ単独としてよりも、

2.それ以外のサイト、若しくはサイトという媒体を通さないリアルのビジネスと組み合わさることにより、

3.ユーザーから見て利便性が高まったり、組み合わさった合体物に新たな価値が生むと想定される際に、

初めてトランザクションが発生する。

よって、その売買価格については、対象サイトが元々有している収益性に加えて、組み合わせ効果による買い手ビジネスの収益性向上をも考慮したうえで算出される必要がある。M&A の世界では前者を正常収益力に基づく資産価値、後者をシナジープレミアムなどと呼んだりする。

売りに出ているサイトを見てみると、多くは前者の収益力がゼロとなっている。つまり、今の運営範囲内では売上そのものが計上されておらず、経費を考えると赤字であると想像される。

ということは、後者のシナジープレミアムを見込んだ結果としての売買が行われるケースが多々あるということになる。

【高級車対象 SNS の譲渡先候補】

こうしたシナジープレミアムは、買い手のビジネス形態次第で変化する。

例えば、このコラムで取り上げている高級車対象 SNS の場合どうだろうか。

特定のブランドの高級車に乗る、若しくは同ブランドを好む人たちが 100 名以上集まり、常に情報を交換しているサイトにはどういった価値があるだろうか?

以前『Web2.0 で変わるクルマ購入時のパワーバランス』という筆者のメルマガバックナンバーでも書いたが、これからの時代、事業者はユーザーの車の買い換えタイミングよりも川上である、自動車の保有時から如何にユーザーを捉えながら自らの商品買い替えへと誘導していくかが大切になってくる。

Web2.0で変わる クルマ購入時のパワーバランス

その意味では、当該高級車ブランドを取り扱うインポーターや比較的広域をカバーするディーラー(エリアが限定されていると、SNS ユーザーが全国に広がっている場合、自らのビジネスに繋がらない部分も多くなってしまうため)が譲渡先候補として充分考えられる。

もう一つは、高級車に乗るような「高額所得者」を対象とした別商品を取り扱う企業による、自らの商品販売を補足する形での当該 SNS サイトの取得であろう。

何れにしても、まとまった数の活発なユーザーへの接触(リーチ)が可能となる SNS は、ユーザーの数・質次第では非常に魅力的な資産となるだろう。

【最適なビジネス形態を求めた自由な市場の創設は】

サイトという資産を含め、各種資産を有してこれらを運用しながら世の中に価値を提供していく器、これが企業と考える。

仲間同士が集まり、目的を達成することが company の存在意義であり、そこでみんなで仲良く Society の保全に全力を注ぐというのは、本来の趣旨とは異なる。

日本では景気が回復したことにも助けられ、未だ大企業では会社が仲良し society のところも多い。

一方で、M&A が活発に行われつつあるのも事実である。

M&A の中には、依然仲良しクラブ維持のための合併などの動きも多いものの、最適なビジネス形態を求めた「社会」の地殻変動も多く発生している。

多様なビジネス資産を積極的に自らに取り込み(若しくは不要な資産を切り離し)、付加価値のより高い効率的な企業へと生まれ変わることは、今後の競争環境の中での生き残りに向けた重要なファクターとなろう。

そのためには、自社が有している競争優位性と弱み、そしてそれを補完するために必要なビジネス資産が何であるかを企業経営者は常に認識しておく必要がある。優良な資産が売りに出た際には自社にとってのシナジー効果を直ぐに想定して、これに幾らのプレミアムを払うことが出来るかを直ちに算出することは、スピードを求められるこれからの経営では必須である。

また、『サイトキャッチャー』の過去の売買・成約の実績を見ると、基本的には C2B の構造、即ち個人が生み出したサイトが売りに出て、これを企業が購入するというパターンが多い(出典:サイトキャッチャー HP より)。

ベンチャー企業が生み出す革新的なビジネスを大企業が取り込み、自らの有する資産と融合させながら新たな価値を生み出す結果として、自社収益を拡大させる、といった動きが米国などと比べて鈍い日本ではあるものの、こうした「サイト売買サイト」などの市場は、大企業中心の産業構造における、ビジネススタートアップ時の個人の役割を高める効果を齎す。

業界内再編といった派手な形での産業構造変革ではないものの、こうした C2Bの動きは大企業内での多様性の確保や、優秀な個人による挑戦マインドを醸成する効果をも齎す、大切な動きであると考える。

<長谷川 博史>