上場vs非上場、ディーラーの日米業績比較

◆検証:上場ディーラーのほうが業績が良いのは何故か

<2006年07月17日Automotive News掲載記事>

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【はじめに】

米『Automotive News』誌の 7月 17日号に米国における上場ディーラーと非上場ディーラーを、売上総利益率・経常利益率(税前利益率)と売上高成長率の 3 つの指標で比較した記事が掲載されている。

記事では指標比較に加えて、その差異要因分析も実施されているが、筆者は日本における同様の比較が行われたものを見たことがない。

そこで、本日のコラムでは、

(1)記事で指摘されている米国の上場/非上場ディーラーの業績比較と要因分析の紹介
(2)日本国内で上場を果たしている新車ディーラーど同様の業績比較と要因を筆者が独自に分析
(3)日米ディーラーの業績比較

の 3 つを行ったうえで、激変の最中にある日本における自動車ディーラーの今後の方向性について考えてみたい。

【米国での上場/非上場ディーラー比較分析】

『Automotive News』誌に掲載されている記事によると、米国での上場ディーラー vs 非上場ディーラーの各業績指標の比較は以下の通りとのこと。

売上総利益率
●上場ディーラー平均:15.1%
●非上場ディーラー平均:13.3%
●差異:1.8%

経常利益率
●上場ディーラー平均:2.9%
●非上場ディーラー平均:1.6%
●差異:1.3%

売上高伸び率
●上場ディーラー平均:7.3%
●非上場ディーラー平均:-2.1%
●差異:9.4%

出典:Bel Air Partners、及びNADA

上場ディーラーは全部で 6 社。Auto Nation Inc.、
United Auto Group Inc.、Sonic Automotive Inc.、Group 1 Automotive Inc.、
Asbury Automotive Group、Lithia Motors Inc.。これらの企業は所謂巨大ディーラー・マルチブランドディーラーであり、ディーラー売上高ランキングトップ8 社のうちの 6 社である。

すなわち、単純に考えれば、

(1)上場ディーラー:ディーラーの規模(台数・拠点数・扱いブランドなど)が大きくなったケース
(2)非上場ディーラー:規模が相対的に小さめのディーラーのケース

としてよい。

さて、それでは記事内での業績差異要因に関する指摘はどうなっているだろうか。

記事では上場ディーラーの業績が非上場ディーラーのそれを上回る要因として、以下の 4 つを挙げている。

(1)上場ディーラーは株価対策などの事情から、P/L 上の利益を良く見せようとする傾向がある反面、非上場ディーラーはそうした説明責任が希薄であることと、株主兼経営者であることが多いため、費用(損金)を増やし売上を過小計上しようとする傾向がある。
(2)上場ディーラーは高収益ビジネスである、サービス・パーツ、ファイナンス、保険、中古車に経営資源を集中している。特に、中古車在庫管理とサービスベイなどの設備投資への注力が顕著である。

(3)上場ディーラーは店舗当りの台数が多く、規模の経済を働かせている傾向にある。上場ディーラーは平均 1,172台の新車を年間で販売する一方、非上場ディーラーは 788台に留まる。

(4)上場ディーラーは輸入車(日本車など)取り扱い比率が高く(全体の 65 %が輸入車・ 35 %が国産車)、非上場ディーラーは、国産車(Big3)取扱比率が高い(全体の 44 %が輸入車・ 56 %が国産車)。

経常利益率で非上場平均 1.6 %に対して上場平均が 2.9 %であるという差は 1.3 %と表面上小さく見えるかもしれないが、絶対的な売上高の差が存在する状況では、同率であったとしても利益額では顕著な差と言えよう。

一方、売上総利益率、即ち新車、中古車、サービス、保険、ローンといった商品の仕入れと販売の差(厳密には在庫を経て売上原価に転じることを経るが、便宜上の表現として使用)での差異は 1.8 %と経常利益率よりは大きい。しかし元々非上場ディーラーでも 13.3 %というレベルに対する 1.8 %の差異そのものは、上記分析通り中古・サービスなど高収益ビジネスへの特化の結果として得られた超過収益力が多くのポーションを占める。したがって、新車の商品仕入における集中購買的な効果による仕入価格低減といった効果には、あまり結びついていないという仮説は成り立つ。

個別上場企業の財務諸表のセグメント別分析で粗利の構成を比べてみれば、この仮説が正しいかは分かるだろう。別の機会にこうした更なる分析を試みるのも面白い。

【日本での上場/非上場ディーラー比較分析】

それでは日本国内で上場を果たしているディーラーと非上場ディーラーの比較では、どのような数字になるか検証してみたい。

具体的には、

(1)日本国内で上場を果たしている新車ディーラーならびに輸入車ディーラー(一部、複数事業の中の中核として自動車小売を位置づけている企業を含む) 11 社を筆者が抽出のうえ、『Automotive News』で取り上げられたものと同様の指標を算出。

(2)これを自販連が出している「自動車ディーラー経営状況調査報告書」にある 1,400 社前後のディーラーの平均(厳密にはこの報告書には一部上場企業も含まれているが、圧倒的多数の非上場企業との平均が出ているため、ほぼ非上場企業の平均と等しいと仮定した)との比較を行った。

なお、単年度での業績のブレを補正するために、日本での比較には直近 3年間の平均値を用いた。売上高伸び率のみ直近 2年度間の単純比較。

売上総利益率
●上場ディーラー平均:20.5%
●非上場ディーラー平均:20.2%
●差異:0.3%

経常利益率
●上場ディーラー平均:3.0%
●非上場ディーラー平均:1.3%
●差異:1.7%

売上高伸び率
●上場ディーラー平均:7.2%
●非上場ディーラー平均:4.5%
●差異:2.7%

まず比較をする前提での上場企業の規模だが、当然のことながら上場ディーラーは非上場ディーラーのそれをはるかに上回る。具体的には、売上高で 7 倍、総資産額で 8 倍程度である。

一方で顕著なのが、売上総利益率で上場ディーラーと非上場ディーラーという規模のまったく異なる企業の間には殆ど差が無いことである。

実は、筆者が以前自販連の経営分析セミナーで紹介したデータでもまったく同じ傾向が表れていた。このセミナーでは、自販連加盟ディーラーの乗用車を主に販売するディーラー約 1000 社を従業員規模別に、それぞれ 500 人以上、300~499 人、100~299 人、99 人以下の 5 つのグループに分類し、それぞれの売上総利益を検証した(ちなみに、従業員規模は売上規模に比例していた)。

このデータでも従業員規模に関わらず売上総利益率はほぼ横ばいのレベルとなっていたが、実はその内訳としては、

(1)新車売上総利益率は微増
(2)中古車売上総利益率はほぼ横ばい
(3)サービス部品売上総利益は減少

といった状況にあった。

さらに新車売上総利益の内訳としては車両本体の売上総利益はほぼ一定であったが、いわゆるインセンティブが一番規模の小さい 99 人以下のディーラーと比して規模の大きな 500 人以上のディーラーは台当たり 4 万円ほど多かった。

台当たり 4 万円ということは、新車単価はまちまちだろうが仮に 200 万円と仮定すると、約 2 %程度は規模の経済が「メーカーからの後付補填」という形かもしれないが働いているとも言えよう。

一方、経常利益率の段階になると、1.7 %の差と、上場ディーラーの率が非上場ディーラーのそれを 2 倍以上も上回っている。想像するに難しくないのが、上場による最大のメリットである市場からの資金調達能力と、それに伴う有利子負債の間接的削減と信用獲得に伴う支払利息の利率低下を、上場ディーラーは享受しているということだ。

すなわち、日本のディーラービジネスでは規模の拡大が収益性の向上には売上総利益レベルでは繋がらないものの、新車の領域に限ればメーカーからの補填が現時点では得られていること、さらにはこれに上場が加わると当然ながら支払金利においてはコストが下がる、という傾向であろう(ここでは、資本コストが実際には上昇するといった EVA の話は控える)。

【日米比較】

それでは、両国の比較を行ってみると、先ず目に付くのが、そもそも売上総利益率が日本では 20 %台、一方米国では 13~15 %台ということだ。

◆売上総利益率

2 つの国での類似事業の粗利率の差 5~7 %を説明出来るのは、そもそものその国のコスト全般(物価指数などにより説明される)、金利率(インフレ指数などもここに考慮される)、といったところにあると考えられるが、おおよそ以下の 2 つの要因があるのではないだろうか ?

(1)土地・建物の値段

そもそもディーラーオペレーションを行うのに不可欠な土地・建物の取得コストが高いレベルにある日本の場合、これらコスト(具体的には土地取得に関わる支払利息や賃借の場合は賃料や建物の減価償却や賃料など)を賄う為の原資が相対的に高いレベルとならざるを得ない。目線をメーカーの立場に一瞬変えて考えると、国内ではディーラーチャネル維持コストが高いため、新車の卸売での利益が出難い体質と言えよう。

(2)歴史的背景

米国では、急激なモータリゼーションに伴い歴史的にメーカーがチャネルに対して圧倒的な交渉力を獲得していた時代があり、ディーラーに対する強制措置の数々が実施された。その結果、1950年代後半に弱者であったディーラーの側からの政治的行動の結果として「10-mile Law」や「Good Faith Law」といった法律が成立し、逆にディーラーの側が権利を獲得した。これにより、ディーラーはメーカーの販売チャネルの延長線上というより独立した事業体として存立している。

一方、日本では正確な数字は無いもののかなりのディーラーがメーカーとの資本・人的関係にあり、実質ディーラーはメーカーそのものの商品戦略・バリューチェーンの一環に取り込まれている。

こうした背景から、およそ日本での粗利は当初レベル設定は高いものの実質的にはメーカーの連結ベースでの収益範囲内に収まっていると言えるだろう。またそうでなかったとしても、何らかの要因に伴うディーラー側での利益計上が続くようであれば、メーカー=ディーラー間の仕切価格を見直すことも米国と比して容易であろうことから、必要コストを賄う形でメーカーがある程度現時点では負担している(=ディーラーへの粗利を保証している)とも言える。

◆新車売上総利益率

新車の仕入れ・販売の量の拡大に伴う仕入れ価格低減・売上総利益率上昇という効果は米国の場合は(さらなる詳細な検証が必要ではり、ここでそこまで立ち入ることはしない。調べて分析することは可能である)限定的、日本の場合でも上述の通りせいぜい 2 %程度といったところであろうか。

◆中古車・サービス部品売上総利益率

中古車・サービス領域ではむしろ米国の新車ディーラーのほうが積極的である。中古車在庫の管理といった「米国上場ディーラーが手がけている」と記事に記載されている施策の主な部分は、下取車の管理、具体的には下取り率維持・増加と小売比率を上げるということになるだろう。

当社の調べでは、日本では新車ディーラー系のディーラーでの中古車取り扱い率は年式が古くなれば下がり、新しいものは比較的高いが、10年落ちのクルマでは 11 %程度、2年落ちの車でも 5 割強といったところとなっている(それ以外の 10年落ちで 89 %、2年落ちで 5 割の中古車は、所謂中古車専業店に流出していると考えられる)。つまり、歴史的に新車ディーラーに中古車利益が留保されることなく、市場数多に流出しているのが現状であろう。

◆売上高成長率

ここでは、米国における優勝劣敗は明確であるのに対して(厳密には大勝小敗)、日本においてもその傾向はあるが、両者がある程度の Win ではあり、その中でも規模の大きいものが収益性が高い、といったところだろうか。

◆経常利益率

そもそも、コストを差し引いた経常利益率段階になると、両国の類似ビジネスは最終的に同レベルに落ち着いてくるといったところであろう。

【日本における今後の方向性に関する一考察】

さて、それでは日本における今後のディーラービジネスの方向性について考えてみたい。

各メーカーが自社系列の販売網の整理・統合といった動きを見せる中、ディーラービジネスを「ビジネス」として取り組み、収益性を確実に上げて行きたい経営者が今後取るべき施策は何であろうか。

ここまで行ってきた分析によれば、

(1)ディーラービジネスでは規模の拡大は収益性の改善には繋がらない(日米共に)

(2)ただし、その要因としては日本では新車で若干収益性向上・中古サービスは悪化、米国はその逆で新車収益性はそのままで中古・サービスの収益性が向上

(3)これらは、それぞれの国でのディーラー経営者が注力しているセグメントが異なることが要因とも考えられる。

(4)上場ディーラーの収益性は非上場ディーラーのそれを上回っている。経常利益率レベルで上なのに加え、そもそもの売上高規模が大きいことによる利益絶対額は圧倒的に大きい。

という4点が言えるのではないだろうか。

さらに、日本で相対的に高い売上総利益率は、上述の通りメーカーが負担しているという考え方がある。これは(メーカーの)チャネル政策の一環として過剰に、かつエリア内に重複する形でこれまではディーラー店舗への投資が行われてきており、それによるコストがあまりに高くなっていることにも起因する。つまり昨今の販売網の整理・統合とは、この過剰コストをソフトランディングさせながら計画的に下げていく施策であると考えられる。

極端なメーカーであれば、自社のコストをベースにして、あとは生き残れるところだけが生き残れば良いという前提で、ディーラーの粗利率を削る形の卸売価格設定により、弱肉強食の世界をディーラー間に持ち込むことも考えかねないだろう(実際には、他社との競合の中で考える必要があるため、躊躇する施策であろう。それゆえにまずは自社系列内の店舗数の削減や商品供給での統一化などから手をつけている)。

こうした環境下で考えられるのは、やはり米国の良いところは参考に、わが国が進んでいるところは維持していくという考え方である。

今後の日本での自動車メーカー=ディーラーの関係は、これまでの主従関係から、少しずつビジネスパートナーとしてのそれに近づいていくはずである。その意味では、米国での事例はある程度参考に出来る(法制面での整備も含めて)。

具体的には新車ビジネスにはしっかりと対応しながらも、中古、サービスの取り組みという点へのさらなる注力といったところであろう。

一方、ある程度の規模を確保しながら独自の資金調達能力を株式上場によって獲得する、というのもひとつの方向性であろう。

ただし、その場合単なる新車 Y台×粗利 Z 円=売上総利益額 W 円といった単純な新車における掛け算のビジネスでは、株主に魅力を感じてもらうことは出来ないだろう。それどころか、結局メーカーに依存している形で、実質的にはメーカー連結傘下の企業という見方を投資家にされてしまう可能性すらある。

株式市場での調達を考える企業であればなおさら、新車以外の領域への注力(メーカー支配地域からの離脱)を、商品ポートフォリオを混ぜたり、多様なビジネスモデルの展開といったトップラインの柔軟性と多様性を確保していく必要がある。

今後メーカー資本系列に無い全てのディーラーが、またメーカー系列であってもこうしたことを考えていく必要があるだろう。

<長谷川 博史>