米GMと伊フィアット、自動車部門の買収契約をめぐる交渉…

◆米GMと伊フィアット、自動車部門の買収契約をめぐる交渉が決裂

フィアットは当初、違約金として30億ユーロ(4050億円)を要求、その後12億~18億ユーロ程度で調整が続いていたが、金額などの条件で折り合わなかったとみられる。フィアットは「両社の係争を解決しようと試みたが、和解期間中には何の合意にも至らなかった」との声明を出した。

◆米GMと伊フィアット、プットオプション(株式売買契約)行使で交渉決裂かフィアットはGMから多額の和解金を得て新車投入の運転資金にしたい模様

<2005年02月02日号掲載記事>
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2000年に GM がフィアットアウト株式 20 %を 24 億ドルで取得した際の譲渡契約書に 、フィアットが残り 80 %の株式をフェアマーケットバリュー(公正な市場価格)で GM に売る権利が謳われていたことがそもそものきっかけで、自動車業界は大西洋を跨る形で大きく揺れている。

フィアットとしては傘下の赤字部門であるフィアット・アウトを一刻も早く売却するか、GM による債務不履行を事由にした違約金を求めている反面、GM はフィアットアウトの金融部門の大部分をフィアットが売却したことなどを事由にプットオプションの無効を主張している。

【売る権利のプットオプションと、買う権利のコールオプション】
プットオプションという言葉に馴染みの無い方もいるかと思うが、金融市場では一般的な言葉であり「何らかのモノを売る権利」のことを指す。逆に、コールオプションと言うと「何らかのモノを買う権利」のことを指すわけだが、これらオプションそのものがプレミアムという形で売買される市場が存在する。

例えば、筆者は以前外国為替取引に携わっていた経験があるが、その頃にはドルプットオプションを買っていた。即ち、ドルを一定期日後に売って円に換える権利を、1 ドル当り一定の円貨を支払って買っていた。

【両社の共通認識】
プットオプションやコールオプションそのものが売買される市場が成立する為には凡そ以下の 2 つが必要とされると考えられる。 1)将来の不確実性に対する異なる予測をする複数プレーヤー 2)交換の結果として手に入れたい対象物(含む貨幣など)

ドル円の世界で言えば、以下2つになるだろう
1)将来円高に行くと読むプレーヤーと円安になると考えるプレーヤーの両方が存在すること
2)ドルプットを買う人からすれば「円」を「ドル」との交換で手に入れたいし、ドルコールを売った人からすれば、「ドル」を「円」との交換で手に入れたい。

つまり今回の GM とフィアット間のプットオプション問題の根本的な原因は、以下 2 つの取引が成立するための条件が揃っていないことところにあり、金融部門の売却や GM 出資株式の希薄化などは表面的な理由であることがわかる。
1)GM ・フィアット両社ともフィアットアウト株式の将来価値は下がると認識していること
2)フィアットは現金を得たいであろうが、GM はフィアットアウトの株式を手に入れたいと(現時点では)考えていないこと

【価値を上げられるのは誰か】
関係当事者同士が揃って株式の将来価値の上昇を信じられず、手元に現金以外の資産(株式、若しくは株式が担保する資産)を置き、これを回転させて新たな現金を得る活動(即ち、経営)を行いたくない場合、第三者の登場が望まれる。

間接保有装置としての投資ファンドのような存在が期待されることもあるだろうが、自動車製造業のように傘下の部品サプライヤーや販売網、同業などが有する複数の機能を有機的に結合させて全体最適を図りながらも、最終消費者に受け入れられる価値を創造するような複雑な事業体を経営するには、相当の覚悟とノウハウが必要になる。

今の時代、確かに良いアイデアと実行力さえあれば直接金融市場からの調達は可能であるが、肝心の実行力の部分で、通常のファンドであれば固有ノウハウといったものは残念ながら存在しない。

よく、「バイオ特化ファンド」や「IT の中でも更に細かなセグメントに特化したファンド」といったものが存在するが、同様に「自動車業界のどこかの領域に特化して固有のノウハウを蓄積したファンド」があって、業界内他社などとのアライアンス構築などを積極的に主導出来れば別だが、そうしたものもあまり聞いたことも無い。

【起業家精神】
以前、日本の企業における事業再生に関して筆者は「社員」のやる気に期待する旨を書いたが、

https://www.sc-abeam.com/mailmagazine/hase/hase0012-1.html

今回の GM/ フィアットの狭間に落ちつつあるフィアットアウトでも同様のことが言える。
時代の流れの中で自然淘汰というものは必然であるが、古代国家を滅亡の瀬戸際から救った英雄の事例などを見ると、例えば危機感と志に燃えた行動力のある人物に、地位や年齢や出身といったものを超えて国家の全てを託すといったことが行われたことがある。

現代の企業社会にこれを置き換えれば、企業存亡の危機に志に燃えた人物(地位や年齢、出身ではない)に資金と資産を動かす権限を集中させ、これをサポートをするということになろうか。

事業再生・創造に正解が無い以上、簡単なように思えてもギリギリの選択を迫られない限り組織全体として決断しにくい方法ではある。

しかし誰がやるにしても最低限必要なのはゼロから創り出す「起業家精神」であるのは間違い無い。

<長谷川 博史>