スズキ、米国での自動車販売を2007年に現在の3倍の20万台…

◆スズキ、米国での自動車販売を2007年に現在の3倍の20万台へ
米NYショーで米国戦略を発表した。約240億円を投じ、店舗数を約100店増の600店にするなど販売店網を整備するとともに、GM大宇車の取り扱いなどにより、新型車9車種を5年内に投入へ。GM大宇が製造し、スズキブランドで年内にも販売する新型車「フォレンツァ・ワゴン」も公開した。

<2004年04月09日号掲載記事>
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‘04.3.2.のAuto Business InsightVol. 5で、北米における自動車販売店網への各社の重点的投資方針とその方向性について述べた。

同号では、北米での販売網整備投資を促進するマクロ要因として、本来「金利レベル」と「自動車販売」が比例の関係にあるはずのところ(即ち、自動車販売による売上が好調になれば金利は上がり、販売不調なときは金利が下がる)、911(ナインイレブン)以降、歴史的な超低金利に基づく投資・消費促進政策、及び税制面での各種償却資産投資に伴う損金計上時の優遇などが維持されたことにより、過去5年にもおよぶ自動車販売の好調にも関わらず金利レベルが低く抑えられていることを挙げて説明した。

また、再掲になるが、Automotive News誌のFebruary 2, 2004号では各メーカー傘下のディーラーによる投資予定額を以下のように紹介していた。

総投資額/年          1店当たり投資額/年
LX   424億円(4.0億ドル)      6.3億円(5.9百万ドル)
FR   318億円(3.0億ドル)*1     1.6億円(1.5百万ドル)
LM   127億円(1.2億ドル)*2     2.1億円(2.0百万ドル)
SZ    64億円(0.6億ドル)      0.2億円(0.2百万ドル)
CH  1,060億円(10億ドル)*3       N.A.

*1 過去5年間、特に異動なし。
*2 2004年の計画
*3 2008年まで毎年の計画。以前は毎年318億円(3億ドル)程度だった。

為替:106円換算

LX:レクサス
FR:フォード
LM:リンカーンマーキュリー
SZ:スズキ
CH:クライスラー

今回の報道によれば、スズキは販売店網整備に2億3000万ドル(約240億円)を投じ、約100店舗拡充し600店にする計画とのことだが、2007年に向けての4年計画ということを考えると、年間約0.6億ドルとなり、2月時点でAutomotive Newsの掴んでいた情報とほぼ一致する。

この積極的な投資計画は、GMグループとのアライアンスに基づくセグメント戦略と思われる。事実、現在スズキでは03年から5年間で新型車9車種を北米で投入する予定としているが、このうち最初の4車種は韓国・GM大宇製(スズキが14.9%を出資)となっている。
1.2.5Lミッドサイズセダン「ヴェローナ」
2.2.0Lプレミアムコンパクトセダン「フォレンツァ」
3.1.6Lコンパクトカー「スイフト プラス」
4.2.0Lワゴン「フォレンツァ・ワゴン」

ブランドとして韓国メーカーよりも浸透している「スズキ」の名前を活用しながら大宇が生産した車両を販売。また、一部モデルでは「GM・シボレー」の名前を活用しながらスズキ製の車両を販売するなどの、全体戦略の中の一環というわけだ。

一方、この投資計画を日本車各社にとっての昨年のドル箱であった北米市場の出遅れを挽回するという側面から見たらどうだろうか。

当然スズキとしてこれも意識はしているだろう。今後も安定的に人口増加(移民流入)を期待できる数少ない先進国である米国は、各自動車メーカーにとって最重要市場であり続けることは間違い無い。

しかし、自社の強みとの兼ね合いで、戦略的に経営資源をどのエリア(地域)に集中投下すべきかという判断は困難な課題である。ここでは、自動車メーカーの強みの代表的な項目を以下3つと仮定して検討してみる。

1)得意商品と市場ニーズとのマッチング
スズキの得意とする高品質で安価な小型車と北米市場との適合性は(現時点での商品ラインアップでは)必ずしもベストマッチか微妙である。
事実、日本車メーカー各社と比してスズキ車の米国での販売は出遅れている。また、この価格帯では、現代などの韓国車が競合として存在するのも注意点だ。
2)商品の製造手法
2月10日付のAuto Business InsightVol.2で、当社の代表である加藤が述べている通り、スズキの場合どちらかというと、自動化設備に過度に依存するのではなく人間系の処理を残す一方で、少ない設備をフル稼働させてバリューを最大化させるアプローチを取ってきていると思われる。
即ち、売上原価のうち原材料に関連する費用以外を、大きく設備の減価償却費と人件費の2つに分解した場合、後者を低い費用で活用しながら、前者が発生する原因である設備投資を低く抑えながらフル回転させるのがスズキの得意技というわけだ。
3)製造を支える設備、及び人的リソースの質とコストということは、優秀な人材を安い賃金で雇用しながら、設備投資を抑制可能なエリアを生産拠点として選択するのが、スズキとしての強みを発揮するための条件になるわけだ。

1)を考慮すると、北米市場では大宇など提携先のリソースをなるべく活用する手法は妥当と考える。また、2)、3)から見ると、生産拠点としての北米が、スズキの強みである優秀で安価な労働力をフル回転させて、少なく安い設備をこれまたフル回転させる為の「地の利」があるかは疑問が残る(が故に、北米ではGMとのJ/V工場などの自動化設備を活用していくであろう)。今後は日本でも自動化設備への投資を今まで以上に増やしていく方向であろうが、現在の自社の強みからすれば、寧ろemarging marketのほうが、生産拠点としての自社の強みとの適合性は高いと考える。

その意味で、同社のインドやハンガリーなどへの経営資源の投入は適切であり、現在の両国での高いシェアは中長期的な成長の大きな原動力になるのではないか。

北米など先進国ではGMグループとのアライアンスをフル活用、販売拠点は整備しながらも商品はグループ内で最適なものを活用しつつ、自社独自の経営リソース・強みはemerging marketに集中投下、という2面作戦は大胆且つ合理的である。

<長谷川 博史>