海外雑誌・業界記事紹介(1)・「カシオ」に関する記事

英語でしか発刊されていない海外の雑誌で取り上げられる最新の記事の内容を日本語で解説・海外での最新ビジネストレンドを分かり易くお届けするコーナーです。

第1回 Business 2.0誌 December, 2003
“G-SHOCK AND AWE, Andy Raskin”
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米国でビジネスとITのコラボレーションを模索・新しいビジネスモデルや技術を中心に紹介している、Business 2.0誌の2003年12月号から、「カシオ」に関する記事を紹介したい。

米国の雑誌における日本企業の紹介は、今でも生産技術関連や日本式経営(持ち合い、系列など)の成功例などが少なくないが、今回カシオは、これと異なる。

同記事のサブタイトルは、
“Kazuo Kashio’s wild ideas have cost Casio some battles.
But in today’s copycat world of consumer electronics,
he may be winning the war”.
「カシオにとって、過去ワイルドなアイデアに基づく商品開発を行ってきたことは必ずしも成功ばかりではなかったものの、今日の模倣が蔓延る消費者向けエレクトロニクス市場においては、個別の戦闘での敗北を上回る、戦争全体での勝利をもたらすかもしれない」というもの。

カシオは「米国でイノベーションを紹介する雑誌」において、「ワイルドなアイデアによるイノベーションを生み出す存在」として紹介されているのだ。

記事ではカシオの過去の商品開発を、1945年にRING PIPEと名づけられた「指輪にタバコの差込口をつけた」プリミティブな商品のヒットから始まりライター付き電卓やパチンコゲーム付き電卓、ポータブルテレビや 最近では「WINDOWS CE」ハンドヘルドのカシオペアA10など、一連の失敗商品を紹介しながら、カシオが挑戦と失敗そして更なる挑戦を経て新しい商品を顧客に提供してきたかを説明している。

読者の皆さんは『マーケットインとプロダクトアウト』という言葉をご存知だろうか。

マーケットインとは、いいものを作っただけでは売れない時代に消費者の立場に立ち、顧客ニーズにあった商品やサービスを開発・これを適切な価格と流通経路で顧客にデリバリーする手法のことを言う。

「顧客の欲するものを提供する」という手法は、顧客が自ら欲しているモノ・サービスを認識・把握し、これを企業に対して積極的に発信してくれれば可能であるが、実際には消費者自らが自分の隠れたニーズに気づいてないことが多い。

昨今の日本経済を悪くした原因として、企業が顧客を蔑ろにして、売れない商品の生産を続けていることとする意見があるが、実は顧客のニーズの先を行くイノベーティブな商品提供が出来ていないことにも大きな原因があると言える。

また、マーケットインのみに終始して消費者の意見に従えば従うほど、結果的に企業は横並びで商品を開発し、価格競争に陥ってしまうというジレンマにも陥る(例:コンビニに陳列されるお茶関連商品)。

よって、マーケットインに加えて、自社の強みを生かした独自の商品開発=プロダクトアウトが求められる時代になっている。

カシオの商品開発ではユーザーアンケートは通常行わないそうだ。

ユーザーアンケートを行わないこと=プロダクトアウトではないことは明白であるものの、企業が顧客に迎合することなく、幾多もの失敗を経てもこれを誇りとさえ感じながら顧客の期待レベルを上回る商品やサービスを開発・提供・新たな価値創造へと挑戦するカシオの商品開発の歴史は、マーケティング先進国のアメリカの雑誌でさえ「イノベーティブ」と評価したようだ。

<長谷川 博史>