米GM、事故時に GPS と携帯電話回線で自動通報するシス…

米GM、事故時に GPS と携帯電話回線で自動通報するシステム、対象車種拡大。2005年型からは「オンスター」を装備する「キャデラック STS」など12 車種

<2004年09月17日号掲載記事>

◆トヨタ、カーナビを活用し、自動的に一時停止や速度制御するシステム

カーナビと連動して一時停止位置やスクールゾーンで自動的に停止・減速する新技術「ナビ協調安全運転支援システム」を開発すると発表。2010年までの実用化を目指す。また、青緑色レーザー光を照射する機器とレーザー光を認識するカメラを各車両に搭載し、レーザーで出合い頭の事故等の死角事故の低減を図る「路面描写」なども 10月に開催される「ITS 世界会議」で公表へ

<2004年9月22日号掲載記事>
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一頃経済社会全体で「グローバライゼーション」という言葉がはびこり、自動車の世界でも「ワールドカー」という表現で、経済効率中心の世界の画一化と陳腐化が進むのではないかと心配された。

IT ブームを越えた後に本質的な価値や機能が見直され、静かに着実な進化を遂げているテレマティクスもしくは ITS (高度道路交通情報システム)の、日米欧での進化の方向性の違いを見るにつけ、少なくとも自動車に関する限り画一化による発展の停滞は杞憂だったのではないかと感じられるところがある。

GM のオンスターに関する記事は、これまでシボレー・ Malibu だけに設定されていた衝突事故時の緊急自動通報システムを、2005年モデルからはシボレー・TrailBlazer や GMC Envoy、ビュイック・ Rainier、ポンティアック・ G6、キャデラック・ STS、サーブ・ 9-7X 等、12 車種に拡大するというものである。

GM は、「安心、安全、ファン・トゥ・ドライブ」を同社のビジョン、顧客に提供するバリュー、製品ポジショニングにおける差別化要素に位置付けており、それを体現するテレマティクスの技術やサービスの価値に世界に先駆けて着目し、最も広く深く取り組んでいる自動車メーカーである。

そのために設立した 100% 子会社のオンスターが開発した装置は現在、年間販売台数で 100 万台相当の車種に装着され、サービス加入者(新車購入当初の無料トライアル加入者も含むが)は 250 万人に達すると言われている。先般のGM の発表では、2005年モデルでは 250 万台、2006年モデルでは 300 万台相当の新車に新たにオンスターが搭載される予定である。

オンスターは、GM 車以外にもホンダ、アキュラ、レクサス、VW、Audi 等が採用する世界最大のカーテレマティクス・サービス・プロバイダなのである。

そのサービスには、コンシエルジュ・サービスや遠隔車両診断等、顧客囲い込みを目的(言うまでもなく自動車メーカーがテレマティクスに取り組む究極の目的はそこにある)とした現時点で世界唯一のプレミアム・サービスも含むが、最も注力しているのは故障や事故の際にボタン一つで、もしくは今回のようにクラッシュ・センサーを活用して自動的にコールセンターに通報して、GPS情報と繋ぎ合わせて機動的な対処を行なうサービスである。

GM ほどには目立たないものの、北米ではフォードも同様のサービスを展開している。北米においてはトラブル発生直後の緊急通報と処理の代行がテレマティクス・サービスのコアなのだ。

これに対して、新車購入者の 6 割以上が装着するほど世界で最もカーナビが普及し、これを土台に G-Book やカーウィングスなどテレマティクス・サービスを普及させ、その分野でも世界をリードする日本では様相が異なる。

テレマティクス・サービスの主役は、依然として地図情報と交通情報を組み合わせた経路誘導サービスであり、今後は今回トヨタが発表したようなロケーション情報に基づく交通事故予知通報や、遠隔車両操作技術を活用した交通事故予防制御のサービスが台頭してくると思われる。

欧州では昨今急速にカーナビが普及しているが、その端末の機能やテレマティクスのコンテンツは非常に限定的だし、民間の Traffic Maseter 社が自前でインフラを設置して情報を収集している英国を除けば交通情報収集のインフラもその収集・加工プロセスも貧弱でである。しかし、TMC (Traffic Message Channel)と呼ばれる FM 無線を活用した無料の交通情報の普及と精度は極めて高く、経路誘導と到着時間予告の目的に限定すればおそらく日本よりも正確かつ迅速である。さらに、緊急通報サービスや盗難車追跡サービスも米国ほどではないにしても日本よりは遥かに進んでいる。

こうした違いは何に由来するのだろうか。社会の成り立ちや、クルマとヒトとの関わり方によるところが大きいと思われる。

都市の密集(人口密度と車密度)と雑然(街路表示が不明確で規則性もない)の中でヒトとクルマが空間を共有している日本では、クルマ側の課題は密集(渋滞損失)、雑然(経路不案内)やヒトとの共生(対人事故)への対処になる。

ニューヨークを除けば、計画的に整然とヒトとクルマが棲み分けられている米国では、ヒトのいない孤独な自然界(荒野や砂漠)や人工的空間(フリーウェイ)における万一に備えた心構えがクルマ側に常に要求される。

両者の中間で両者の特徴を併せ持つとともに、日米どちらにもない独自の要件として、言語も制度もインフラも異なる多国間のヒトとクルマの行き来が日常的に発生する欧州では、クルマ側でもそのストレスをどれだけ安く効果的に広範に緩和するかが主な課題になる。

企業としての経済効率からいえば画一化、標準化を志向しがちな自動車メーカーが、そうした社会の成り立ちやクルマとヒトとの関わり方の地域ごとの違いを認識し、それが一朝一夕に等質化しないと判断しているからこそ自動車メーカー主導のテレマティクスが地域ごとに別々の進化、多様化の方向での発展をしているということができるだろう。

このように自動車メーカーが地域ごとの多様性への対応をしている分野がある場合、その分野に関連する製品を作っているサプライヤーや関連サービス・プロバイダにはどのような視点からどのような対応が求められると考えられるだろうか。

海外への開発機能の移転という対応が選択肢にあがるはずである。

自動車メーカーが「地域ごとの多様性に対応する」ということは、「それぞれの地域で開発する」ことと殆ど同義であり、そこにサプライヤーにとって自動車メーカーとの共同開発、自動車メーカーの開発支援という役割や価値が出てくるからである。

自動車メーカーの海外生産の増大により、グローバル・サプライ体制の確立・整備がサプライヤーの存続条件になっている今日だが、開発機能まで海外移転しているサプライヤーは多くはない。

というのも、自動車メーカー自身が基本的には開発機能、開発組織を海外移転しておらず、海外拠点の機能は母国で開発した製品を現地で生産することと、そのために必要な部材を現地で調達することに限定されていることが多いからである。

昨今、日本車でも北米専用モデルやトヨタの IMV 等に見られるように日本国内にマザー機能のない製品が登場している。そのようなケースでは、自動車メーカーの開発機能も現地に移管されており、従ってサプライヤーにも一定の開発機能の海外移転も求められることになる。

テレマティクスの多様化方向での進化は、そうしたモデル単位での開発機能の海外移転に加えて、(モデルの開発地を問わず)特定の技術領域やサービス分野で開発機能の海外移転が求められる場合があることを示唆している。

実はそのような事例がこれまで全くなかったわけではない。代表例は意匠に関する分野である。ラジエータ・グリル周りやランプ・レンズ類、ホイール、インパネ周り、シート等は、消費者の嗜好が最も強く出る部分であるため、自動車メーカーの海外拠点でも各地の嗜好性に合わせたカスタマイズ的な開発が従来から行われており、それらの部品ではサプライヤーが開発機能を海外移転する例も見られた。

しかし、今回の記事では、開発機能の海外移転を検討する価値のある技術分野やサービス領域が意匠関連部品以外にも存在する可能性が示されたという意味で画期的である。

<加藤 真一>