デンソー、ハンガリーの生産拠点が「EU環境大賞(マネジ…

◆デンソー、ハンガリーの生産拠点が「EU環境大賞(マネジメント部門)」受賞

<2004年6月24日号掲載記事>
——————————————————————————–

デンソーといえば、世界4位のグローバルサプライヤーという企業規模や、18品目で世界トップシェアを有する製品や技術の優位性、2兆円以上の時価総額、60%近い株主資本比率や上から二番目の財務格付けに代表される財務体質、常時8%台という突出した売上高研究開発費率を持つ中核分野での事業活動に注目が集まる。

しかし、以前このコーナーで取り上げたように、同社には「工業技術短期大学校」「技能五輪選手養成」等の活動を通じた「ものづくりニッポン」の技能伝承に取り組む等、少し異なる活動の側面がある。
( 『https://www.sc-abeam.com/sc/library_s/column/3689.html』)

今度は、ハンガリーにある同社の子会社で、コモンレールやVCT等のエンジン制御部品を生産しているDenso Manufacgturing Hungary Ltd.(DMHU)が、EU委員会からハンガリー初のゼロエミッション達成など環境分野での諸活動に対して最高の評価を得たものという。

EU企業の中で、環境に損失を与えることなく経済・社会の発展に著しく貢献した企業に与えられる賞だが、実はデンソーグループ全体が評価されたのに等しい。DMHUでの取り組みは、デンソーグループ全体での循環型経済社会創生、環境調和、持続可能な環境保全のイニシアチブをまとめた「デンソーエコビジョン2005」を欧州で忠実に実行したものだからである。

EU環境賞には、マネジメント、製品、プロセス、国際協力の4分野があるが、そのうちマネジメント部門での受賞というところがミソだと思う。
理由は後ほど述べたい。

もう一つ、二人の子を持つ親の立場でデンソーに関して注目していることがある。「デンソー夏休みモノづくりスクール」と「ECOレンジャー21」である。
前者は、文字通り地域の子供たちにモノづくりの面白さを体験させるための夏休み企画で、工場を開放して指導員を付け、親子で万華鏡づくりや電磁石ロボットをづくりをしてもらうというものである。
後者は、矢作川の水源近くに2泊3日で小学生たちを集め、水や自然の大切さや人間との共生を体験してもらうという講座である。

「技能伝承」や「環境大賞」だけなら、「従業員教育」、「技術力向上の仕掛け」という内部的で直接的なことが主目的なのかもしれない。だが、最後の「地域の青少年育成」まで来るとどうだろうか。明日従業員になるわけでもなく、明日顧客になるわけでもない小学生が対象である。
企業イメージ向上には勿論プラスだが、完成車メーカーと違って直接市場に売り出す商品は少ない企業であり、直接的な効果は少ないはずだ。
純粋に次世代の社会を担う青少年育成の目的としか言いようがない。

こうなると、この会社は単によい製品や技術を作って適正な価格で売り、顧客満足を得て顧客や市場に評価されることだけを目的にしているわけではないのではないかと思わざるを得ない。技能伝承、環境保全、青少年教育それ自体を企業活動の目的にしているのではないかと。

そこであらためてデンソーのHPを覗いてみると、正しくその通りだということに気付かされる。

同社の「ビジョン」には、同社のありたい企業像として「可能性のドアを開くデンソー」とあるが、実はその一番目のドアに掲げられているのは「お客様の可能性のドア」ではない。「社会の可能性のドア」なのだ。「社会の可能性」の中でも、「障害者福祉」「青少年育成」「環境保全」の3つを重点分野に掲げている。

社会や環境に関する課題解決(しかし、単なる福祉や環境保全ではなく車や情報通信などを駆使した夢のある課題解決でなければならないとする)のために自ら行動することを、顧客の夢や幸福を実現して喜ばれることよりも上位の概念としているのだ。

顧客を大事にしないということではもちろんない。製品や技術を通じてデンソーに接する人たち(顧客)だけを満足させるのではなく、顧客を含む社会や環境の課題解決ができなければ使命を果たしたことにしないというコミットメントである。

もっと言うと、「可能性のドア」は、社会・環境、顧客、従業員の3つであり、通常他のステークホルダーと言われる株主や取引先、銀行などは登場して来ない。それらは、「3つのドア」という価値観を共有するパートナーという位置付けになるのだろう。「3つのドア」が開かれれば必然的に満足を与えることのできる人たちなのだということだろう。
ものすごいメッセージである。何を実現するためにこの会社があるのか、誰をどの順番で評価して大事にするか、どのような価値観を有する人と仕事をするのか、経営者が発信していることになる。なぜかという理屈は言っていない。言う必要がない。
自分たちの信念・理念(ある意味でカルト)や、その表明はロジックでなく、こうありたい・こうしたいという率直で明快な思いで十分であり、必然性や実現可能性が議論になるのは戦略やそれ以下の話だ。

「環境大賞」のところで、「マネジメント部門」での受賞に意味があると述べたのはそのためである。製品や技術に対する評価ではなく、マネジメントに対する評価なのだ。冒頭述べたようなデンソーの強さは、マネジメントにあり、マネジメントの強さはその信念・理念の率直さや明快さにあると言えるかもしれない。企業のビジョンや長期戦略を策定してもどうしてもぼんやりしたものになってしまうという会社には参考になるところが多いのではないだろうか。

<加藤 真一>