日本道路公団の「別納制度」、中小企業庁が利用上位50組合…

◆日本道路公団の「別納制度」、中小企業庁が利用上位50組合を一斉検査へ
<2004年3月29日号掲載記事>
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昨今何かと批判が集まる通行料金別納制度と、この制度を利用して設立された全国約760の異業種組合。一般に問題視されている点に触れながらも、社会紙面的な取り上げ方の多いそれら批判にあまり囚われずに、純粋に経営課題として本件を眺めてみたい。
通常、この制度や団体が問題にされるのは以下の点である。
(1) 日本道路公団(JH)からは最大30%の通行料割引を受けながらユーザーたる組合員への還元は10数%にとどめて別納差益を享受する団体が多い。
(2) 内部留保された資金を役員が身内企業に不透明な委託契約を結ぶなどして不正流用したり、脱税を行うケースが見られる。
(3) 組合員資格を持たない大企業や個人にまで別納制度の便宜を図る団体があり、結果として道路行政の得べかりし利益の逸失(従って国民の税負担の増大)を招いている。

(1)について多少注釈すると、別納制度の割引を受けるためには高速道路通行料実績の一定割合をJHに対して保証金として予め積み立てておく義務がある為、通常の企業同様に成長局面では運転資金が増大することになる。また、団体運営管理費も当然要するし、剰余金を配当金の形で組合員に還元している団体もあるので一概にこれを「差益」と断じるのは気の毒な面はある。
(30%と10数%の差額分全てがそれで正当化されるかどうかは別として。)
(2)と(3)は論外の話であるが、そのことをもって別納制度や団体そのものが持つ修復不能な構造的欠陥とすることは短絡的だし、より重要な問題の本質を見失う危険を秘めているのではなかろうか。
そもそも高速別納組合の設立の理念・経緯を振り替えると、「中小企業に規模の経済の恩恵や、大企業と対等な競争条件を提供すること」であった。
客先へのきめ細かい対応を強みとしなければならない多くの中小企業にとって顧客維持活動や小口多頻度物流はコアオペレーションでありながら、そのために負担しなければならない移動コスト、その大所の有料道路代の負担は大きい。
しかも大手企業は独自に割引を得られ、競争条件は益々不利になってしまう。その不利を補うために、いわば業種を超えた戦略的アライアンスとして登場したのが異業種組合である。そのこと自体は今日的にも大いに意味あることであり一部(と期待したいが)の不正をもって制度自体の欠陥と決め付けることは行き過ぎのように思われる。(しかし、実際に昨年9月に制度の廃止は決定され、現在新制度ができるまで1年間の暫定的な延長運用に入っている。)
では、一体何がより本質的な課題なのかという点について次のように考える。
第一に「企業理念と事業ドメインの明確化」の課題であり、第二に「組織形態と意思決定メカニズムのスピード経営時代への適合」の課題である。
「企業理念と事業ドメインの明確化」とは、まず「中小企業に規模の経済の恩恵や、大企業と対等な競争条件を提供すること」の設立時の熱い思いに立ち返れば余剰資金の目的外への流用や非組合員への便益供与などという問題は本来起きるはずがないことを指す。
それは理念やドメインの純化・集中化の方向の議論だが、発展・拡張方向で言えば「なぜ方法論に過ぎない高速別納制度に固執するのか」という議論にも行き着く。
中小企業が必要としている規模の経済や不利な競争条件の補完分野は何も高速道路代だけではなく、資金調達や福利厚生、人材確保などいくらでもある。
「高速別納組合」という看板に拘らず、理念とドメインに相応しい業態開発・業態転換を考えてみてはどうだろうか。
困難なテーマではあるが、独創の知恵と経営革新の勇気をもって困難に挑戦する団体に生まれ変われば組合員の感謝や国民の信頼も得られ、団体職員もそれを気概に次の困難に挑戦できる、という正の連鎖作りに着手して逆風を撥ね退けてもらいたい。
そのためにも「組織形態と意思決定メカニズムのスピード経営時代への適合」が必要だろう。内部には独創と経営革新に挑戦する人たちも沢山存在するはずだが、それが全体の声になっていかないのにもまた理由があろう。
設立当初の小さな所帯の頃には「志を一にする戦略的アライアンス」だった組織が時代を経るに連れ、組織が巨大化するに連れ、実質的には普通の企業と同様に経営と株主、サービスプロバイダー対ユーザーという関係に構造変化・成長発展してきたはずで、正常進化である限りもはや後戻りはできない。
そうであれば、「普通の企業」として競争条件を整備することが求められる。
競争条件として組合に通常一番欠けているのが意思決定のスピードであり、それを可能にする組織構造である。現代の普通の企業の意思決定は早い。
既存の事業環境に限界や脅威を感じたときにはすぐにアクションを取る。制度変更への対応は最たるものだ。独創と経営革新を目指す団体であれば、従来の別納制度適用を受けるために必要だった組合形式、一人一票制の早急な見直しに着手すべき時期に来ている。

<加藤 真一>