製造現場への人材派遣を解禁。改正労働者派遣法が3月1日施…

◆製造現場への人材派遣を解禁。改正労働者派遣法が3月1日施行。
派遣労働の期間の上限も現行の原則1年から3年に延長(製造業へは2007年2月末まで上限1年)。
<2004年03月01日号掲載記事>
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よくご存知でない方のために注釈すると、正社員(これも昨今は裁量労働、変形労働時間制など中身は分化している)以外の雇用形態には、パートやアルバイトのほかに派遣や請負などがある。派遣と請負とは似て非なるもので、例えば自動車メーカーA社のラインにB社が人員を提供する場合に、B社が人員提供以外に機械設備を提供した上で、全ての使用者責任、仕事の完成に関する財政上、法律上の全責任を負い、人員をB社自身が指揮監督するのであれば「請負」となり、一つでも該当しないものがあれば(例えば単なる人員提供で、人員への指示命令はA社が与える場合)「派遣」となる。
自動車メーカー、部品メーカーを含む製造業では、従来「請負」だけが認められており、「派遣」は禁止されていた。それが今回、(当面は)期間1年を限度として「派遣」が初めて認められたのである。「いや、うちには前から製造現場に派遣社員がいたよ」とか、「派遣ではないが契約社員はいた」とおっしゃる会社は要注意である。前者はいわゆる「偽装請負」として法律で禁じられていたし、後者は実質的には直接の指示を与えていたと推測されるので「違法派遣」であった可能性がある。
今回の法改正では一定の要件のもとにそれらが合法化されたことになる。労働界からの大反対(正社員の派遣社員への置き換え促進への懸念等)を実質的に経営側が押し切った形で成立したものと言われている。経営側は「パートや請負に対して人材派遣のみを制限するのは均衡を欠く」ことや「固定的な雇用慣習が産業空洞化を促進し、フルタイムではない労働環境を望む女性の社会進出を阻む一因になっている」ことを改正支持の理由に上げている。
しかし、一方で94年から01年までの7年間で失業率が2%台から5%台に急増する中、派遣労働者は3倍に増えており、労働側の懸念の通り、正社員(固定費)の縮減と非正社員(変動費)化が現実化している。
明治学院大学の笹島教授によれば、「企業で働く非正社員の割合は現在約3割だが将来は半分以上を占めることになる可能性がある」という。「経営と現場、業界と市場を結ぶ」立場でものを見る私たちは労使どちらかの主張に与することはせず、法律論としての是非も論じる立場にない。
純粋に「自動車という産業が強く、大きく、元気であるために」この会社を立ち上げた理念からこの問題を見てみたい。消費者の嗜好が多様化し、市場が流動性を増す中で「自動車業界が強く、大きく、元気であるために」経営資源の多様化、流動性の確保は避けて通れない問題である。
人材資源についても多様性、流動性が求められることは必然だと考える。だが、人材は設備や技術、ブランドと同様に、否それ以上に経営資源であるが故にコアコンピタンスまでアウトソース化することは極めて危険である。

どこまでを安全在庫水準として抱え、どこからをフロー化するかは、法的保護の中で横一線の人事戦略で済んだ時代にはなかった経営上のクリティカルパスの一つであり、労働法的な議論の方向性とは逆に経営の資質が問われる経営者にとっての腕の見せどころである。

<加藤 真一>