エンジニアのための経営学(4)

財務諸表や経営管理指標など経営陣の方々が気にされている数字や指標の意味合いをエンジニアや現場の方々の立場に立って分かりやすく意味付けをしてみようというコーナーです。今回がこのコーナーの最終回です。『第4回(最終回) ROA(総資産利益率)の意味と業界への期待』
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日産134、ホンダ114、トヨタ95、スズキ75、富士重61、ダイハツ35、マツダ32。
2003年3月期連結本決算におけるROA(総資産利益率。ここでは経常利益を使用)で7社平均(7.3%)を100とした時の各社の指数です。
総資産利益率というのは、財務諸表に記述可能な全ての経営資源の投入に対する成果の大きさを示すもので、総合的な企業力の端的な表現です。過去3回のコラムをご記憶の読者はこの後の展開に予想が付くかもしれませんが、これを収益性の指標である売上高経常利益率と、効率性に関する指標である総資産回転率に分解して眺めてみようと思います。
まず、売上高経常利益率ですが、同様に七社平均値(7.8%)に対する指数を見ると、日産133、トヨタ113、ホンダ98、富士重55、スズキ50、ダイハツ26、マツダ22となります。
次に、総資産回転率も七社平均(年間0.94回)に対する指数で並べてみます。
スズキ149、マツダ145、ダイハツ137、ホンダ117、富士重112、日産100、トヨタ84です。
ここから何が読み取れるでしょうか。
大方の傾向として、概ね収益性の高い企業ほど効率性は低く、効率性の高い企業ほど収益性は低いという傾向が読めます。これは軽自動車メーカーはどうしても高級車を持つメーカーに比べて採算性は低くなりがちなのを効率で補おうとする経営努力の賜物という言い方もできるでしょうし、逆に小型車・普通車メーカーは多少効率に目を瞑っても品質やブランドに力を入れる必要があることを示しているという見方もできると思います。
しかし、収益性と効率性の掛け算の結果としてのROAを並べてみるとどうでしょうか。
結局、効率性重視型経営で収益性重視型経営に太刀打ちするのは簡単なことではないということになるのではないでしょうか。マツダの効率性はスズキと並んで業界トップ水準にあり、前回報告の「不合理寛容型」のトヨタに対しては7割以上、「三大営業資産」を殆ど持たない日産に対しても4割以上もアドバンテージを持つほどに高回転型経営に成功しています。
それにも拘わらず、ROAは業界で最も低く、トヨタの3分の1、日産に対しては4分の1にしかならないのは、トヨタの5分の1、日産に対しては6分の1、という収益性の低さに由来しています。
冒頭、ROAは「財務諸表に記述可能な全ての経営資源投入に対する」成果物の大きさだという表現を使いました。ということは、「財務諸表に記述できない経営資源の投入」はここでは分母に入っていないことになります。例えば、製品開発力とか、商品の魅力度、顧客基盤や販売ネットワークの強さなどは入ってきません。
総合的に言えば「技術力」、「ブランド力」ということになるのではないでしょうか。
やや乱暴な議論ですが、それらを金額換算して総資産に加えた場合、ROA上位企業と下位企業の差はずっと縮小する可能性があります。
即ち、財務諸表で見たROAの差、特に収益力の差は、誠に失礼ながら「技術力」、「ブランド力」の差だと投資家の目には映ります。
「そんなことはない」という反論があると思いますし、実際その差は永遠ではなく、技術力は研究開発や設備投資、ブランド力はプロモーションや販売網の再構築、トレーニング等への適切な資源投入で解決可能だと市場では受け止められると思います。
しかし、いずれも短期的な成果が出てくるものではないだけに長期的、継続的にそうした投資が行なわれること、そのための財政的手当が為されることが重要です。
効率性追求がそれ自体を目的としてでなく、中長期的な技術力、ブランド力開発のための原資を捻出する目的で行なわれている、というストーリーであれば市場にとっても、エンジニアをはじめとする多くの現場の方々にも納得感のあるものになるのではないでしょうか。市場に近いところで業界を観察し、経営的な視点を踏まえて現場に関与する者として、そんなストーリーを持った会社を応援していきたいと思います。(完)

<加藤 真一>