脇道ナビ (13)  『電車速読法』

自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第13回 『電車速読法』

電車の中で、隣に立っている人が読んでいる新聞や本を横から覗き読みすると、自分でも驚くほどのスピードで読むことができる。ページをめくるのが遅く、イライラしてしまうほどだ。それも、意地悪な人、ケチな人だと読んでいる新聞や雑誌を隠すようにするが、そうなると、いよいよ速読のスピードは上がる。どうやら、一瞬の隙をみて読もうとするからだろう。そして、自分が降りようとする駅が間近になって覗き読みするときも、「あとちょっとで私が降りる駅についてしまう!早く、次のページをめくって!」と、イライラするくらいになると速読のスピードは上がる。

速読は情報収集法のひとつである。だとすれば「電車速読法」には情報収集するためのヒントがあるはずだ。

まずは、偶然に隣に立った人であっても、その人がどんな本を読んでいるのだろうかいった興味を持てるかどうかだ。つまり、常に、好奇心というアンテナを立てていることが情報収集の大きな力になる。

そして、観察力も重要だ。本を読んでいる人の服装や表情など周辺情報からどんな本を読んでいるかの見当をつけると速読、つまり情報収集のスピードが上がる。たとえば、笑いをこらえて読んでいれば、コメディかマンガ。しかめ面で読んでいれば、専門書か推理小説などと見当をつけることができる。その他、本にはカバーをかけていても、本の大きさ、厚さ、製本から、そして、チラチラと見える風光明媚な風景写真から、旅行案内書のようだと分かる。服装も、山にでもでかけるような装備を持っていれば、ガイドブックだろう。そうしたことがわかった上で、覗き読みするからこそ、速読が可能になる。

もちろん、そんな見当が裏切られることは多い。先日も茶髪の女子高生が何か読んでいたので、マンガでも読んでいるのだろうと覗きこんでみると、洋書のミステリーだった。まあ、そうした驚きも情報収集の醍醐味だと思えば楽しいものだ。

もう一つ大事なのは、せっぱつまっていることが大切だ。つまり、隣の人の本を覗き読みしているときに降りる駅が近づいていると速読のスピードが速まるようにだ。情報収集も、「そのうちに・・・」なんて考えていると情報はあっと言う間に通り過ぎていってしまう。

これが、情報収集の極意だ。ただ、電車の中でいつも居眠りしている私が言うのだから、怪しい極意だが。

<岸田 能和>