フロントランナー時代に求められるサプライヤの挑戦

◆主要自動車部品メーカー(部工会加盟の上場86社)、7年ぶり大幅減益に

2008年度の合計売上高は前年度比0.3%増の22兆9212億円とわずかに増えるが、合計営業利益は13.2%減の1兆3104億円と大幅に減少する見通し。国内自動車部品業界が営業減益になるのは7年ぶり。

<2008年06月10日号掲載記事>
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【自動車部品業界も潮目が変わる】

先週、自動車部品工業会(部工会)が自動車部品業界の経営動向について集計・分析結果を発表した。その中で、主要サプライヤ(部工会加盟の上場企業で、売上高に占める自動車部品の比率が 50 %超の企業 86 社)の連結決算ベースでの経営指標の集計は、以下の通りとなっている。

「主要部品メーカー86社の経営指標集計(連結ベース)」
(単位:億円)

.       2006年度 2007年度(前年比) 2008年度(前年比)
売上高    207,520  228,462(110.1%)  229,211(100.3%)
営業利益   12,857  15,091(117.4%)  13,104 (86.8%)
経常利益   13,445  15,130(112.5%)  13,420 (88.7%)
当期利益    7,727   8,831(114.3%)   7,766 (87.9%)

※2006、2007年度は実績、2008年度は見込み

新聞でも報道されているが、これまで 6年連続で増益傾向であったものが、2008年度は 7年ぶりに営業利益が減益に転じる見込みである。

以前、弊社代表の長谷川が取り上げたが、トヨタを始め、サプライヤの顧客たる自動車メーカーも減益に転じている。

『日本自動車産業を取り巻く三重苦と、本当の脅威』
今後、国内自動車業界の業績に大きな影響を与える三つのリスク要因として、「資源高」「円高」「米国景気の冷え込み」を挙げ、このリスク要因自体は必ずしも克服できないものではないが、克服するためにも国内自動車業界自身が進むべき方向性を設定し、実行することが重要だという内容である。

これは、自動車メーカーに限った問題ではない。サプライヤにとっても同様の状況に置かれているはずである。今回は、この自動車産業の変化に対応するために、サプライヤに求められることを考えてみたい。

【サプライヤ再編熱が再来する可能性】

前述の長谷川のコラムでは、自動車業界に大きな逆風をもたらしている逆風として、「資源高」「円高」「米国景気の冷え込み」の三つを挙げているが、サプライヤに対して最も大きな影響を直接的に与えているのが「資源高」に伴う原材料価格の高騰である。自動車メーカー側も部品供給価格に一定のコストアップを受容してきているが、それでもコストアップを全て負担してもらえるわけではなく、サプライヤ側でも相応の負担を抱えている。今回、主要サプライヤの業績動向が減益に転じたことの主要因もここにあると考えられる。

「資源高」の影響はこれだけではない。燃料価格の高騰に伴い、先進国市場を中心に小型車シフトが加速している。今後市場が拡大すると見られる新興国でも、その台数増加分で見込めるのは小型車を中心とした低価格車である。サプライヤからすれば、小型車の方が部品単価も安いので、収益性も低く、ここでもサプライヤ自身の収益を圧迫するリスクを抱えている。

長谷川は、資源を鍵とする自動車業界の再編熱が再度高まることを指摘しているが、その傾向は自動車メーカー以上にサプライヤの方が高いと考えている。

前述の経営指標をベースに考えると、主要サプライヤの平均営業利益率は 6%前後である。しかし、独自の技術を確立し、(当該部品市場で)高いシェアを誇るサプライヤの場合、10% を超える会社も少なくない。(1)既存技術に変わる代替技術の確立や(2)規模の経済の追及といった収益性向上のための施策が、サプライヤのケースの方がより直接的に影響すると考えられる。そういう意味では、自動車メーカー以上に「勝ち組」と「負け組」が明確になる可能性があり、「勝ち組」となるためにこの二つの施策を実現する手段としての提携関係の拡大が加速する可能性がある。

【フロントランナー時代に求められるサプライヤの在り方】

これまで述べてきたような逆境の中で、サプライヤはどういう施策を取る必要があるのだろうか。

弊社は、日本の自動車業界の抱える大きな命題として「トップランナーのジレンマ」を提唱している。欧米自動車メーカーを追従して今や世界の「トップランナー」となった日本の自動車メーカー(とそれを支える国内自動車業界)は、先行者がいない状態で、これまで経験したことがない厳しい局面に立たされている。そうした中で、自動車業界が進むべき道を切り開いていく必要があり、その対応が今後を大きく左右する鍵となる、というものである。

サプライヤにとっても同様である。既存製品・技術をベースに、自動車メーカーが求める原価低減に応じて少しずつ改善を継続することも重要であるが、それだけでは対応できない領域というのも生まれつつある。

革新的な代替技術の開発に取り組むことが、有効な対応策の一つであることは間違いないはずである。社内に開発リソースがあれば、積極的にシーズ技術の確立に努めるのも一つであろうし、自社に欠けているピースを埋めるために、提携先とそのスキームを模索することも一つであろう。

重要なのは、こうしたアプローチを進める上で、既存概念を超えた目標設定をしてみることではないかと考える。既存製品・技術の延長線ではなく、大胆な目標設定を行い、その実現に向けてこれまでの常識に囚われないアイデアを検証してみるべきかもしれない。

常識的なアプローチでは実現できないと考えられていた 30 万円のクルマが実現する時代である。このクルマ自体には賛否両論あるとは思うが、明確な信念を持って大胆な目標設定を行い、その実現に向けて愚直に努力を継続したこのメーカーには畏敬の念を抱くと共に、日本の自動車業界にとっても大きな脅威と感じている。サプライヤの立場に置き換えれば、新興市場のサプライヤが同様のアプローチを進めることで、日系自動車メーカーの受注を拡大させることだって有り得ない話ではないだろう。

このクルマの実現にあたって、多数の日系サプライヤを含むグローバルレベルのサプライヤが貢献してきたという事実がある。そこから学んだことも少なくないはずである。日本のサプライヤも、顧客から与えられる目標への対応を受動的に考えるだけでなく、自らの進むべき方向性を打ち出し、積極的にイノベーションの実現に取り組まなければならない時代が来ているのではないだろうか。

<本條 聡>