think drive (6)  『VW ゴルフ GT TSI』

新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。

【筆者紹介】

環境負荷低減と走りの両立するクルマを理想とする根っからのクルマ好き。国内カーメーカーで排ガス低減技術の研究開発に従事した後、低公害自動車開発を行う会社の立ち上げに参画した後、独立。現在は水素自動車開発プロジェクトやバイオマス発電プロジェクトに技術コンサルタントとして関与する、モータージャーナリスト兼研究者。

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第6回「VW ゴルフ GT TSI」

今月は話題のクルマ VW ゴルフ GT TSI の試乗インプレッションをお届けする。

「クルマの環境負荷を低減するには、ダウンサイジングが一番効果的」、というのが私の持論だが、ゴルフ GT TSI はそのダウンサイジングによるデメリットを無くしつつダウンサイジングするという方向性を提案している興味深いクルマだと思う。

最初にこのクルマの特徴を簡単に説明しよう。現行ゴルフに燃費性能を向上させる最新技術を満載したグレードが GT TSI 。その最大の特徴であるエンジンの発生トルクは、 毎分 1500 回転から 4750 回転まで 240Nmをフラットに発揮し、最大出力の 125kW を毎分 6000 回転で発揮する。吸気系に 2 種類の過給機(機械式スーパーチャージャーとターボチャージャー)を搭載し、そのエンジン運転状態に応じて、ON/OFF を含む細かな制御を行っている。燃料噴射には気筒内直接噴射方式を採用して、高圧縮比(9.7)とノックコントロールを可能にしている。1500rpm という低回転から 240Nm ものトルクを発生するエンジンは約 1.4 tのボディを動かすのに必要十分な特性をもっている。

その最先端エンジンに組み合わされるトランスミッションは、これまた最先端のトランスミッション DSG だ。前進 6 速ギアを 3 段ずつ各々クラッチを持つ 2 軸シャフトに分け配置し、変速スピードはとても早い。基本的にはマニュアルトランスミッションの構造を持つことから、トルコンや CVT のような伝達効率低下も見られない。VW, AUDI が採用しているが、他社も同様なシステムを開発中というモテモテのミッションである。唯一、発進時の半クラッチ制御がまだトルコンの滑らかさにはかなわないが、車速がのってからは極めてスムースでダイレクト、そして好燃費(良い)な走りが楽しめる。

外観は通常ゴルフと変わりない。しっかりしたシートに身を委ねると、やはりドイツ車を感じる。エンジンを始動し走りだす。DSG の発進制御(半クラッチ)が進歩している。1年ほど前に試乗した GTI の時より、スムースになっていて、クリープも違和感が少なくなってきている。特に注意を払わなければ DSGだと気が付かないかもしれない。

都内の一般道を走るが、走りに不満は全くない。発進加速、坂道での力強さ、アクセルに対するレスポンス、どれもがボディとマッチしている。ゴルフ全グレード共通のストローク感のある乗り心地、安心感、囲まれ感とあいまって不満のない動力性能がクルマの魅力を引き上げている。

クルマにも慣れてきたところで、首都高にのる。合流地点、アクセルを踏む。
ん?速い! 自分の想像を越える加速感に少しアクセルを戻し感覚とあわせる。自然に合流、流れに乗る、十分な加速力。過給エンジンだという先入観があるので、どうしてもレスポンス、過給のラグに意識をするが、どのようなシチュエーションでも違和感を持つことはない。唯一、アクセルを全閉している状態から踏みなおすと、一瞬感じる程度。

速度の高い領域でも最適なギアの選択と、過給制御によって必要十分な動力性能が得られる。

今での仕事で制御開発に携わることが多いので、どうしても制御について細かく見てみたくなる。アクセルペダルのことをよくスロットルペダルとも呼ぶが、最近のクルマ(ガソリンエンジン車)はアクセルペダル=スロットル開度ではない。電子制御スロットルなので、ドライブバイワイア、つまり ECU による制御が介在し、アクセルペダル=スロットル開度という1対1制御はほぼないといえる。(ちなみにディーゼル車はもともとスロットルによる出力制御ではなく燃料噴射量による出力制御を行っている)

ドライバーは、加速をしたいという要求でアクセルペダルを踏む。それは決して単にスロットル開度を大きくしたいわけではない。ワイヤー式のアクセルを持つ昔の過給機エンジンでは、一定の加速を望む場合、最初に多めにアクセルを開け加給が立ち上がって来たらアクセルを戻すという操作が必要だった。この辺を TSI で試してみると、見事にそのような余計な操作は必要ない。一定のアクセル開度を保っていれば、一定の加速感をキープしてくれる。注意深くインパネにあるブーストメーターを見ていると、見事にアクセルペダルとブースト圧が一致している。見事な制御だ。

このエンジンには3つの圧力センサーがついているという。スーパーチャージャー出口、ターボチャージャー出口、そしてインマニ圧力。この3つのセンサーを使い、アクセル開度に応じた加給圧制御とスロットル開度制御を行っているのだろう。制御対象が気体という慣性を持ち応答性の悪い対象を相手に、違和感のない制御を行うのはとてつもなく大変だという事がわかっているだけに驚きだった。

後に、開発エンジニアのミッテンドルフ氏と話す機会を得られたが、「その通り!」と意気投合したのはいうまでもない。しかし悲しいかなそのようなところは一般のドライバーにはある意味関係なく、どんなに複雑で困難な過程のハードウエア/ソフトウエアでも、乗った感覚が NG であれば結局ダメだしをされるだけ。

さて、視点をユーザー側に戻す。

このクルマの動力性能がクラス標準以上で、高い満足感を得られるのは以上のとおり。この動力性能と高い燃費性能の両立がこのクルマの真骨頂だ。私個人の一般的な使用形態で平均約 11km/L だった。同じ使用形態で、他の参考例をいうと、コンベンショナルな MPI システムのコンパクトカー(トルコン AT車、車重は若干軽い)で約 10km/L。つまり、動力性能は6割増しくらいの感覚で、燃費は一割良いという結果となった。

燃費というのは絶対評価が難しい性能であることは十分承知の上でコメントするが、この2車では、ゴルフのほうが気持ちよくて燃費が良かった。ではその比較対象車両は何が優れているかというと、車両価格。約 300 万円するゴルフ TSI の約半分程度の車両価格だという点。しかし、このゴルフ GT TSI、バックオーダーを抱えるほどの人気だという。

クルマの魅力や価値に燃費性能の優先度合いが高まってきている事はひしひしと感じるが、ただ燃費性能が良いという理由だけでの人気でないことは明らかだ。プリウスがハイブリッドというアイコンで売れているように、このゴルフ TSI も走りの楽しさと燃費向上という相反する課題を解決する手段を提案している点が、環境負荷低減を意識するライフスタイルを持つ人たちに受けているのだろう。

VW はこの TSI をディーゼルの TDI に相当するような、新世代ガソリンエンジンの商標として定着させようとしている。T.S.I.それぞれの意味を聞くと、それは言えないらしい。

まあ、意味はどうであれこの TSI、環境負荷低減性能をさらに向上させる技術アイテムも色々控えているという。一例には機械式スーパーチャージャーの代わりに低回転でのパワーを補うのに電気モーターを使うハイブリッドや、CO2排出原単位がガソリンよりも小さい天然ガスを使用する CNG 仕様など、どんどん新アイテムによる展開を進めるようだ。

ここ数年はディーゼルエンジンの性能向上が著しく、ガソリンエンジンが比較的おとなしかったが、ここにきて、ガソリンエンジンの技術革新、性能向上という逆襲?が始まってきている。

原油を使用している現実、そしてその蒸留/精製過程を考えると、アスファルト、重油、軽油、灯油、ガソリン、ナフサ、、、等々社会全体で偏らない使用形態が望ましいのは明らかで、クルマもディーゼルとガソリンが最適な使用法で使い分けられる事が大事だと思う。ようやくディーゼルに対するアレルギー的嫌悪感が払拭されつつあると感じているが、みなさんも自分のライフスタイルのあったクルマ選定を一度楽しんでみてはいかがだろうか?実際に購入しなくても楽しめるかもしれません。

さて最後までこのゴルフ GT TSI の排気量を書かずにきた。これは意識的に書かずにきたのだが、先の比較対象車と同じ 1.4L である。なぜ敢えて書くことを控えたかというと、クルマの性能を伝えるのに、排気量を記述しなくても十分伝わるだろうという試みからなのだが、その意図については別途コメントしてみたい。

<長沼 要>