think drive (3)  『ジュネーブショー2007』

新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。

【筆者紹介】

環境負荷低減と走りの両立するクルマを理想とする根っからのクルマ好き。国内カーメーカーで排ガス低減技術の研究開発に従事した後、低公害自動車開発を行う会社の立ち上げに参画した後、独立。現在は水素自動車開発プロジェクトやバイオマス発電プロジェクトに技術コンサルタントとして関与する、モータージャーナリスト兼研究者。

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第3回 『ジュネーブショー2007』

今月は、3月 8日から開催されているジュネーブショーをテーマにしてみる。モーターショーには 5 つのメジャーショーがあり、ジュネーブはその一つ。ちなみに、他は、毎年 1月開催のデトロイト、隔年秋(いままでは乗用車と商用車を交互に毎年だった)の東京、隔年秋に交互に行われるフランクフルトとパリである。

開催される場所を考えるとおわかりになるように、デトロイトは GM、 Ford、DCX、フランクフルトはアウトバーンの雄、パリはフレンチ、東京はメイドインジャパンというように、そのお国のカーメーカーが表舞台となる。特にフランクフルトなどは、VW、DCX(Mercedes-Benz)、BMW、Audi が各々ひとつの棟をつかうビッグブースを抱えることで有名だ。

そんな国際モーターショーのなかで中立的なショーといわれるジュネーブショーの今年の目玉を見ていきたい。今年の印象と言えば、どのメーカーも CO2削減にむけた技術をアピールしている。乗用車販売台数の過半数がディーゼルというヨーロッパらしく、ディーゼルエンジンのラインナップが豊富だ。これには二つの要因が背景にあると推測される。
一つは、先月報告された IPCC の最新報告。そして、もうひとつは、欧州自動車工業会(ACEA)が EU に約束した「140g 自主規制」(2008年から 2012年までの間に、乗用車の 1km 走行時の二酸化炭素排出量をメーカー平均で 140g以内にするという自主規制)。後者の自主規制に関しては、ほとんどのカーメーカーが達成不可能な状況になっている。そこで、自主規制ではなく法的な義務化へむけた動きがあり、2012年に 130g/km というメーカー平均排出量というさらに厳しい数値目標が提案されている。

さて、そのような中、スバルが世界初の水平対抗ターボディーゼルを発表した。その名も「SUBARU BOXER DIESEL TURBO」。今年の秋にはこのエンジンを搭載する車両(レガシー?インプレッサ?)も発表が予定されている。このエンジンは 4 気筒 DOHC、ボッシュの第 2 世代コモンレールシステムを採用し、もちろん可変ターボ+インタークーラー付き。少々コモンレールシステムが最新でないのは気になるが、現在第 3 世代のピエゾ式インジェクターでの開発も完成に近づいているというので、車両搭載時点ではもしかしたら最新システムを搭載することも十分可能だろう。もちろん、触媒等の後処理システムも装着され排ガス性能も高い。直列 6 気筒と同じく完全バランスが得られる水平対抗エンジンなので、ディーゼルの持つ振動特性がどのように料理されているか、とても楽しみだ。

先日ホンダは、地球のカラーリングを施した 2007年の F1 モデルを発表して、これからはモータースポーツからも地球環境を考える動きをしていくことをアピールしたが、ジュネーブショーにおいても、「スモール・ハイブリッド・スポーツ・コンセプト」というコンセプトモデルを発表した。詳細なハイブリッドシステムについては公開されていないが、ホンダのハイブリッドシステム IMAの特徴をさらに発展させたシステムと想像される。もともと IMA は IntelligentMotor Assist というくらいに、エンジンを基本として、アシスト的に電気モーターを使うコンセプト。それを小型軽量のスポーツカーに搭載することで、コンパクトスポーツとしての資質を環境対応性能と同時に向上させて、近い将来クルマとして発表されるだろう。おのずと CR-X の復活をイメージしてしまう。

プジョーからも同社初の SUV となる「4007」がお披露目された。「4007」はプジョー初の SUV だが、例の特徴的なフロントマスクを持つので、ぱっとみてプジョーとわかる。「4007」は「1007」に始まった新しいコンセプトに基づくクルマ。プジョーは数字 3 桁で間に「0」をおく商標権をもっているが、今は3 桁シリーズに加え 4 桁で間に「00」をおくシリーズを加えて 2本立てのネーミングをもっている。このクルマ、三菱自動車と PSA (プジョーシトロエン)の提携によって開発されていて、三菱のアウトランダーとプラットフォームを共有するという。したがって、4×4システムもアウトランダーのシステムと同じだ。エンジンは 2.2L HDi ( 156ps/380Nm ) を搭載する。このディーゼルエンジンはフォードと PSA の共同開発との事。もともと PSA はディーゼルエンジンを得意としているので、フォードとの共同開発はその得意技術を広める方向にあるのだろう。ところでプジョーは「207」シリーズで BMW との共同開発による新型ガソリンエンジンを搭載する。ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンともにグローバルな提携により推し進めていく戦略がみえる。

アウディからは A5 という、新しいクーペモデルが発表された。アウディは端正なセダンと、アバントとよぶワゴンのイメージが強く、TT はどちらかというと、ラインナップの中でスペシャルな存在。しかし、先代の A4 にはとてもスタイリッシュなオープンモデルが存在していて、もちろん2ドアだった。それを見て個人的には A4 の 2 ドアクーペがあれば、かなり格好良いだろうなと考えていた。まさにそのポジションへ投入されたのがこの A5。デザイナー自身がアウディでもっともスタイリッシュと言っているクルマだ。もちろんクワトロ(AWD)と FF のドライブトレーンをもち、アウディのラインナップにおけるスポーツ性を高めた S シリーズ、つまり S5 も同時発表された。最近のアウディは R8 というスーパーカーも発表したり、勢いを感じさせる。

その他、メルセデス・ベンツからは C クラスの新型が、BMW からは M3 コンセプト、マセラティからはグランツーリスモなどが発表された。今年は、日本で東京モーターショーが開催され、これらのワールドプレミアは秋には日本でも見られるので、ぜひ幕張へ足を運んでみてはいかがだろうか?(少し気が早かったかな?)

<長沼 要>