ネットワーキングを意識して使ってみる

◆ダイムラー日本、横浜市にメルセデス・カーグループの開発部門「TCJ」を開設

<2005年 7月 4日号掲載記事>

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この度ダイムラーが横浜に開発部門「TCJ」を開設した。顧客の要求が全世界的に最も厳しい日本市場において先端技術や安全性、デザイン、品質レベルの調査を行い、開発に反映させることで一層自動車業界内での競争力高めていくとのことである。今後は、調査・開発部門としての任務を遂行すべく、日本の自動車メーカーやサプライヤーとの「ネットワーク」を通じ先端技術やデザイン面での情報収集ならびに開発を行なっていくとのことである。

このような自動車メーカーの開発段階における「ネットワーク構築」に見られるように、「ネットワーキング」はこれまで自動車メーカーや関連企業の新規ビジネス獲得や成長などにも大きく貢献してきたのではないかと思われる。例えば、自動車メーカーがステークホルダーダイアローグ(利害関係者および学際色の強い専門家集団との積極的な対話)を通じて企業が将来進むべき方向について客観的な意見を取り入れ、特に環境対策等の分野で海外メーカーを凌駕するに至っていることもこれに該当する。

今回は「ネットワーキング」について理解を深め、このパワフルな道具をどう使いこなすことによって自分ならびに自動車業界で活動する人達が少しでも現況を好転させることができないか微力ながら考えてみたい。具体的には「1.ネットワークとは何なのか」、「2.自動車業界に見られる典型的なネットワークのスタイルは何なのか」、「3.それぞれのスタイルの利点は何なのか」、「4.今後それらの利点をどのように活用していくべきなのか」について検討していく。

【1.ネットワーキングとは何なのか】
まず、「ネットワーキング」とは何だろうか。ここでは「目標達成に必要な情報・資源・心理的な充足を得る為に人と繋がること」と定義する。例えば自動車業界で新事業を開始する際には、顧客である自動車メーカーがどんなニーズを持っているか知りたくなるだろうが、直接自動車メーカーにヒアリングにいっても恐らく門前払いされる為、自動車メーカーに出入りしている A と知り合いになることでニーズ情報を得ようとすることがこれにあたる。このように、自動車業界においては自分の任務の遂行を後押ししてくれるような人的なサポートネットワークが存在しているが、自動車業界に見られる典型的なネットワーク構築のスタイルのようなものは存在するのだろうか。

【2.自動車業界に見られる典型的なネットワークのスタイルは何なのか】
実態とは乖離する部分や例外が存在することを承知しながらも、あえて業界で言わばステレオタイプ化してしまった欧米型ネットワーキングと日本型ネットワーキングの典型について考えてみる。

《欧米型ネットワーク》
1.ネットワークの範囲:広く
2.ネットワークを維持する期間:短い
3.ネットワーク内部の連結の強さ:弱い(日本型比)
4.ネットワーク構築方法:直接(知人を介在させない) or 間接
5.ネットワークを構築する上での動機:必要な情報・資源獲得の可能性
6.他のネットワークとの連結の容易さ:容易
7.情報の流動性:高い
8.情報の多様性:高い

《日本型ネットワーク》
1.ネットワークの範囲:狭く
2.ネットワークを維持する期間:長い
3.ネットワーク内部の連結の強さ:強い(欧米型比)
4.ネットワーク構築方法:間接(知人を介在させる)
5.ネットワークを構築する上での動機:感情的繋がり
6.他のネットワークとの連結の容易さ:難しい
7.情報の流動性:低い
8.情報の多様性:低い

欧米型ネットワークと日本型ネットワークを比較した場合、欧米型ネットワークは、複数のネットワーク同士が公的・形式的に結びついている。ネットワーク内部の繋がりも弱い。また、個人の意思が優先される文化である為、仲間を離れて行動する機会も多くなる。結果として、異なる人同士の相互交流が頻繁に起きる。一方日本型ネットワークは、複数のネットワーク同士が感情的に結びついている、また仲間への忠誠度が高くなる文化である為、仲間を離れて行動する機会は欧米型に比べ少なくなる(知人の介在があれば別の話になるが)。それではそれぞれのネットワークの有利な点・不利な点とは何か考えてみる。

【3.それぞれのスタイルの利点は何なのか】
欧米型ネットワークの最も有利な点は「イノベーション」が起こりやすいことである(あくまでも理論上)。米国の社会学者マーク・グラノベターによると、「貴重で役立つ情報の殆どは親しい友人というよりはやや縁遠い知人から得られることが多い」そうである。すなわち、人間関係上の繋がりが若干軽薄な人からのほうが情報が流入し易いとのことである。欧米型のネットワークでは人と人とが結びついている頻度が、公的・形式的に結びついている分、私的で内向きな繋がりを求める日本人に比べて多いので情報の流入度は高くなる。情報の流入度が高ければ新しいアイデアが結びつく確率も高くなる為イノベーションが起きる可能性は高くなると言えるだろう。

一方、日本型ネットワークの有利な点とは「安定性」である。ネットワークの内部で強固な日本型ネットワークにおいては、外界からの情報や人材の流入が少ないが為、既存のやり方の変更を促すような外的な強い力が加わることが少ない。ネットワークの内部にいるメンバーも固定化されている為、いわゆる「当たり前(メンバー間で共通認識があること)」で通じる部分をたくさん共有している。従ってコミュニケーションもシンプルで済むし、結果として作業の効率も上がる。

欧米型・日本型ネットワークのデメリットはそれぞれのメリットに対し正反対の結果になる。すなわち、欧米型のメリットは「イノベーション」だが、日本型では「イノベーション」は理論上起こりにくくなる(情報の流入がイノベーションを創り出す最も大きな要因という立場から考えた時の結論。実際にはもっと複雑な要因がイノベーションの創造に寄与していると考えられる)。日本型ネットワークは情報量の減少と画一化に伴って「イノベーション」が起こりにくくなっているからだ。一方日本型の利点は「安定性」だが、欧米型ネットワークにおいて「安定性」は、情報量の増加と多様化に伴って低くなってしまう。総じて言うと一つの利点を求めると他の利点をあきらめなくてはいけない状況にあるのである。

【4.今後それらの利点をどのように活用していくべきなのか】
このような状況において二つの型のメリットを最大限に活用するには、目的に応じて「使い分け」をすることが重要になる。例えば、今回のコラムのトピックのダイムラーが横浜に開発部門「TCJ」を開設した時のようなケースにおいて、目的は日本市場で先端技術を創り出すことであるから、イノベーションを起こすのに適した「欧米型のネットワーキング」を活用する。対照的に、ダイムラーが日本に自動車の生産工場を稼動させる計画を立てたと仮定するならば、最重要課題は製造品質の安定化になるだろう。ゆえに、このような状況下においてダイムラーはネットワーク内部での人的な繋がりが強くなるような同質の日本人を大量に集めてきて生産をさせるというような対応が好ましいことになる。同質性が統一された行動様式を生み出し安定化をもたらすからだ。

とは言うものの、極端にイノベーションが湧き上がる組織は極度に不安定な状態にさらされることが多くなるし、極端に安定した組織では改善に必要な適度なイノベーションも活用することができない。こんな時は以下のような対策を施したい。

まず、前者の状況下においては、極度な不安定さを避ける為に、「制度化」を部分的に導入して変則的な作業や活動を減らす努力が必要になろう。また、後者の状況下においては、停滞した状況を打破する為に人種・性別・年齢等の異なる人間を投入するなどして組織に一旦かく乱した状態を作り出す努力が必要になるだろう。結論としては、全ての状況が一つのパターンで全て応用できることは無いのでわれわれは「ネットワーキング」をする際、その利点や不利な点をしっかりと理解したうえで状況に応じて、臨機応変に「使い分け」をする必要があるのだと思う。

<カズノリ (加藤千典)>