くるま解体新書『SCM改革の難しさ(2)』

弊社親会社であるアビームコンサルティング(旧デロイトトーマツコンサルティング)が、自動車業界におけるモノづくりから実際のチャネル戦略に至るまで、さまざまな角度から提案していく。

アビームコンサルティング ウェブサイト
http://www.abeam.com/jp/

第 6 弾は、アビームコンサルティング戦略ビジネス事業部マネージャーの櫻田敦史が、SCM 改革の難しさについて 4 週に渡って紹介する。今回はその第2回にあたる。

第6弾『SCM改革の難しさ(2)』

(日刊工業新聞 2004年10月20日掲載記事)
——————————————————————————–

サプライチェーンマネジメント(SCM)の整備により、マツダの「デミオ」などでビルド・ツー・オーダー(BTO)と呼ばれる生産・販売方式が導入されている。ウェブサイトを利用し、顧客が自由に仕様の選択・組み合せをするものだ。

デルコンピュータに代表されるように、パソコンなどでは BTO による在庫レス、流通の簡素化が進んでいる。しかし自動車は、前回述べたようにその設計構造や生産形態から完全な BTO 化に向かうのは困難である。BTO が購買スタイルの一つとして確立するにはまだ時間がかかるだろうし、従来の販売スタイルも確実に残っていくだろう。そのような中で各社が BTO に取り組むのには、ほかにどんな意義があるのだろうか。

自動車はその多仕様を十分にコントロールできないと、受注とのミスマッチで大量の滞留在庫や多額の販売促進費を生むか、もしくは顧客満足度を落としてしまう。特に商品企画段階でニーズに合った仕様設定ができているかどうかは重要だ。声の大きい販社の意見や、他社が仕様設定しているという理由で、販売予測や採算性分析が不十分なままに仕様追加されていないだろうか。企画段階でのミスは販売・生産段階ではカバーできない。

各基本モデルはどのような仕様の組み合せで、何種類持つのか、何を選択オプションにするのかといった企画段階でのモデル展開は大変重要だ。

モデル展開には、顧客セグメントとニーズ分析に基づく方法がある。これは、顧客のライフスタイルや車を所有することに対する価値観などで顧客を分類。
各セグメント内で共通に求められる仕様を分析し、それらを組み合わせて基本モデルとする方法である。

基本モデルは顧客セグメントの数だけ持つことになる。どのセグメントからも共通に求められる仕様は選択オプションにする。トラックなどの商用車では事業規模、輸送距離、輸送物などの顧客のビジネス形態がセグメント化の基準になるだろう。

しかし、どのような属性を持った顧客セグメントがあり、それぞれの求める仕様が何かを分析するのは容易ではない。見込み生産して、在庫を売るというビジネス形態では顧客ニーズをつかむことが組織的に難しい。見込み生産形態においては、販売実績は生産実績でしかなく、これを分析しても、実際のニーズとはかけ離れている。

他方、顧客ニーズの分析手法として BTO を活用することができる。BTO 化は、顧客接点を強化し、顧客の声の収集を可能にする。この手法の優れている点は、販社というフィルターを通すことなく、顧客ニーズをダイレクトに把握、かつそのマーケティングコストも安いところにある。実際に収集された情報を分析し、オプションの追加、抹消をおこなっているメーカーもある。

今後は仮説検証のサイクルを回し、次モデルの商品企画に反映していくことも可能だ。

現状の BTO は顧客セグメント化のための属性情報収集までには至っていない。
今後の課題だろう。

<櫻田 淳史>