ミクニに見える事業開発の方向性

◆ミクニ、新型「日産・フーガ」向け高機能アクティブペダルを受注

日産グループとは、燃料供給装置及びエンジン周辺機器以外の量産品として初の受注となる。同社の要素技術である「モジュール技術」「モータ技術」「制御技術」「センサ技術」などを組合せ、開発した。走行時での先行車両との車間距離を維持し、運転者の操作を支援する(安全)為に、及び、発進・加速時に生じる過剰な燃料消費に対する運転者のエコ運転を支援する(ECO)為に、ペダルを戻す方向に力を発生(アクティブ)させることで、ペダルの反力を強める動作を行う。安全と環境(ECO)の機能を持ったペダルとしては世界初のものとなる。

<2009年11月24日号掲載記事>

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【ミクニにとっての新たな事業機会】

ミクニといえば、老舗のキャブレターサプライヤというイメージがある読者も多いと思うが、現在は燃料噴射系部品を中心に多様な商品展開を進めている。そのミクニが、新発売となった日産「フーガ」向けに高機能アクティブペダルを受注したというのが、今回の記事である。

昨今、電子制御スロットルの採用拡大に伴い、アクセルペダルは、ペダル単体ではなく、アクセルポジションセンサ等を組み合わせたアクセルペダルモジュールとして採用されるケースが増えている。一つの電子化による製品形態の変化である。今回の商品は、このアクセルペダルモジュールに、モータと制御機構を加えることで、ペダルに反力をアクティブに制御する機能を追加し、環境・安全面での付加価値向上を狙ったものである。

既に日産は、先代の「フーガ」においても、反力を利用する機能を搭載していた。先代モデルでは車間距離制御システムと連動し、車間距離が狭まり、ブレーキ操作が必要となる時に、アクセルペダルを戻す反力を与え、ブレーキペダルへの踏み替えを促すものであった。今回の新型「フーガ」では、エンジン・トランスミッションの状態や走行状態から低燃費走行状態を判断して表示するエコランプと連動し、加速時の過剰な踏み込みに対する反力を発生し、低燃費運転を促すものとなっている。

ミクニとしては、同社のコア事業である燃料供給装置やエンジン周辺機器以外の自動車部品で、日産に量産品を供給するのは初受注になるという。自動車メーカー各社は、あらゆる部品において環境・安全面での機能・付加価値向上を追求しており、同社が開発した新技術が、こうした既存の取引先を越えた新たな事業機会につながったものと考えられる。
今回は、部品サプライヤにとっての新たな事業機会について考えてみたい。

【事業開発の方向性】

キャブレターを軸に自動車部品事業を拡大してきたミクニだが、時代の変化に合わせて、事業・製品を進化させてきている。自動車以外の事業領域でも、ガスレンジ用の立ち消え安全装置の世界トップシェアを誇るなど、事業展開を進めているが、自動車部品領域では、以下二つの方向が見られる。

(1)製品の高度化
時代の変化に伴い、燃料噴射装置は電子化され、高度な電子制御が求められるようになっている。こうした中で、電子制御スロットルボディや、可変バルブタイミングアクチュエータなど、電子制御技術やセンサ技術の開発・商品化を進め、事業化につながている。

(2)製品の垂直統合・水平展開
樹脂製インテークマニホールドをモジュール化したインテークモジュールや、フューエルポンプとフィルタ、ゲージ類をモジュール化したフュエールポンプモジュールなどのモジュール化を進めている。また、エンジン周辺領域でのセンサ技術を活かして、アクセルポジションセンサを開発し、アクセルペダルモジュールを手掛けるなど、自社の事業領域の拡大も進めている。

エンジン制御系部品からアクセルペダル、というように、自社の技術・ノウハウを活かして、新たな事業領域を開拓するという事業展開は理想的である。しかし、二万点とも三万点とも言われる自動車部品において、それぞれの部品・機能毎に無数のサプライヤが存在し、自動車メーカー側でも担当が異なる中で、自社の技術・ノウハウを活用できる新たな事業領域を探そうとしても、難易度は高いはずである。当然、ミクニにとっても簡単に見つかったわけではなく、担当者の努力の賜物だったのではないだろうか。

【外部との提携という選択肢】

当社も、サプライヤの皆様から、自社の技術・ノウハウを活かした新事業開発の相談を受けることが多々ある。上記のような理由から、これまでと全く畑違いの事業領域で探すことは簡単ではないことを説明することが多い。しかし、自社の事業領域の進化に伴うものであれば、その領域での情報は他社よりも先行しているはずであり、次世代の事業を開拓できる機会もあるのではないかと考えている。

例えば、ベアリング大手の NTN だが、ベアリング事業を軸に、エンジン・トランスミッション系の部品を多数手掛けてきた。同社は現在、インホイールモータの開発に取り組んでいるという。将来的に電気自動車や燃料電池車が市場に普及する時代になった時に、駆動系部品を中心とした既存商品の市場が減少することに危機感を持っており、自ら開発に取り組んでいるものであろう。

NTN のような大企業であれば、自社で開発に取り組むというのも選択肢になりうるだろうが、多くのサプライヤにおいては、将来の事業開発に注力する余力があるとは限らないかもしれない。

しかし、現在取り組んでいる事業領域の課題発見には最も優位な立場にいるはずである。もし自前のリソースで開発することが難しければ、必要な技術・ノウハウを持っている他社を探し、提携するという選択肢もあるのではないだろうか。

前述の通り、全面的に否定するわけではないが、「この技術、どこかに使えませんか?」というアプローチでは、なかなか新製品開発というゴールにたどり着くことは難しい。むしろ、「この技術、誰かお持ちじゃないですか?」というアプローチの方が難易度は低いはずである。

一方で、自動車メーカーの立場としても、競合他社との関係がある中で、表立って、「この技術をどこかお持ちじゃないですか?」と探すことはなかなかできない。しかし、サプライヤであれば、そのハードルも低いのではないだろうか。

前述のミクニも、過去何度か海外メーカーと技術提携を行っている歴史がある。自社製品の厳しい将来が見えた時には、次の時代に何が求められているのかを考え、外部との提携も活用しながら、自社製品を進化させてきたのであろう。

時代の変化を捉えて、新たな事業機会を探る。業界課題と自己のリソースを認識して、外部の活用を探る。厳しい状況だからこそ、こうした取組みが、必要なはずである。

<本條 聡>