中国ビジネスの達人(5)『ちょっと前まで中国で成功した日…

住商アビーム自動車総研のアドバイザーであり、過去 15年の中国駐在・ビジネス経験を経て現在も浙江省杭州にある日産ディーゼルの製造会社に出向中の三木辰也が、自動車業界にとって避けて通れないテーマの一つである中国進出に携わる方々に対し、中国ビジネスのヒントを伝授するコーナーです。

第5回 『ちょっと前まで中国で成功した日本企業はないって話だったのに今は儲け話ばかり』
『ほんとに儲かっているの?どうやって?』
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確かに 90年代までは、赤字経営や累損を抱えた経営状態の企業は少なくありませんでした。

その理由の多くは、法制法規を事前によく理解していない、優遇税制や優遇関税の期待値を事業計画にそのまま反映している、マーケティングが不十分、中国側パートナーの甘言を信じ込んでいた等、進出ありきの考えから F/S が甘い、精度が低いなど、中国進出の入り口段階での問題にあったと思われます。

実際に事業を開始した後になって、収益が上がらないとの結果が出て初めて、その問題に気が付くと言う経営者も少なくありませんでした。

90年代の日本の企業の中国進出は、進出の目的が曖昧なまま、収益確保よりも「バスに乗り遅れるな」という進出そのものが目的になった進出が多々あり、そうした姿勢が儲からない企業を生んだと言えます。

では、2000年代に入ってはどうでしょうか。

日本の企業の多くが、バブル経済崩壊の影響を受け、厳しい状況の中で生き残りを掛けてコスト低減を実現して日本へ商品を持ち帰る、巨大な中国市場を掘り起こしてそこでの販売活動で生き残る、といった明確な目的を持ち始めています。また、F/S も格段に綿密・慎重になり、中国政府の規制緩和による投資環境の向上もあって、黒字経営を行う企業が格段に増えています。

それでも、累損解消や配当を行っている企業は半数程度と言われており、儲かっているとは言っても、その程度については差があるようです。では、どのような企業が大きな利益を上げているのでしょうか?

中国国内の販売を主体とする企業では、ブランド力がある、新商品がタイムリーに投入できる、販売ネットワークがしっかりしている、サービス体制が出来ている等の条件をクリアしている企業が成功しています。

また、日本への持ち帰りや第三国への輸出を中心にする企業の場合は、輸出入体制、安い労働力、安い原材料の条件を満たしているときに上手くいっている傾向があります。

いずれのケースでも、過去の失敗例を調査し、自身の投資環境を分析し、客観的なデータに基づき、F/S の段階で必要かつ十分な条件を検討し、対応策を準備できる企業はかなりの確率で成功しています。

実際に事業活動を始めてみると、法規や会計・税制が変わったり、市場環境や競争環境が変化したりと、いくら F/S を精緻化させても追いつかない問題は色々出てくるものです。しかしながら、目的を明確にして、その目的を達成する上での条件やダウンリスクを見込んで F/S を立てた上で投資することにより、多少の投資環境の変化には対応できる確率、黒字経営が維持できる可能性は大幅に高まります。

投資戦略において投資目的の明確化とそれに沿った綿密な F/S が重要というのはどこでもそうですが、中国においてはそれによって組むべき相手、立地すべき場所、適用すべき制度と全てが異なることからとりわけ重要で、投資の成否は計画段階である程度決すると言っても過言ではないと考えます。

<三木 辰也>