「21 世紀の新しいグローバルプレミアムブランド」とは

(トヨタ、レクサス専門販売店「LEXUS」を初公開。8月 30日に約 140 店舗を一斉オープン。)

5月 19日、トヨタが 2005年 8月に国内に導入する「レクサスブランド」の店舗・サービス概要を発表。合わせて開業に先駆けて竣工した「レクサス高輪」を報道陣に公開した。レクサスブランドは「最高の商品」を「最高の販売・サービス」でお届けする。

<2005年05月19日号掲載記事>
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【最高の販売・サービス=おもてなし】

今回公開された「レクサス高輪」は延べ床面積が約 3000 平方メートルでレクサス車 6台を常時展示する。日本の和を基調とした店舗内は黒い御影石の外壁と白を基調とした大理石の床面、ゆったりとしたスペースで高級感を演出。お客様は革張りの椅子に腰掛けて”自分だけのレクサス”を購入する為のプレゼンテーションを受け商談を行う。

レクサスのおもてなしは店頭に留まらない。購入後の納車は専用スペースで行う心憎い演出を用意。アフターサービスは年中無休の専用コールセンター「レクサスオーナーズデスク」、3年間無料で利用できる専用テレマティックサービス「G-LINK」を整備し様々なサービスや盗難、事故に対応する。
またレクサス専用の損害保険も提供し全損時に新車を提供するレクサス車提供特約やラージクラス代車提供特約等、オーナーへの配慮を怠らない。
新車登録 5年、10 万キロ走行まで国内メーカー最長の保証期間を設定し定期点検・メンテナンスも3年間無料で実施する。従業員の接客技術も百貨店やホテルで研修を行い、ソフト・ハードに行き渡ったサービスで最高のおもてなしを提供し、従来のトヨタ
とは一線を画す「高級専門店=レクサス」を明確に打ち出す。

レクサスは 1989年に米国で始まったトヨタの高級車専用ブランドで世界約 60 カ国で展開されている。車自体の品質に加え店舗設計や接客方法など、従来の自動車販売店になかった極め細やかなサービスでブランド力をつけた。
レクサス店はトヨタの同じ敷地面積の店舗に比べ投資額は約 2 倍となる見通しだが、高級ブランドで先行する欧州ブランドに対し“感動を与えるおもてなし”で差別化を図り、当初 5 万台、5年後に 10 万台規模の販売を目指す。

【異業種におけるおもてなし】

ブランド戦略として徹底した顧客満足を求めたレクサスに新しい自動車販売の方向性を感じる。しかし従来のプロダクトアウト型販売手法に顧客欲求というマーケットインの情報を大幅に取り入れる販売手法を成功させるのは必ずしも簡単ではないだろう。

本コラムでは、店頭におけるマーケットインの情報を重視している衣料業界で世の男性にとって高価な買い物=スーツで行われている 2 つの販売戦略を述べると共にレクサスが参考とすべきポイントについて纏めてみたい。

1)合理化路線:2 プライスショップ

高級衣料=スーツという固定概念を覆した 2 プライスの都心型スーツショップが数年前に隆盛した。商品をスーツに特化し低価格商品を 2 プライスという顧客が分かり易い形にした専門店の販売形態である。
明るく清潔でモダンな店舗に品質の良い格安スーツ(\29,000、\39,000)が美しく陳列されており販売は好調に拡大。しかし合理的な販売手法の為接客は重視されず、商品力(高品質、低価格)に頼る販売戦略では需要が一巡した現在、売上は一息ついた状況となっている。

2)プレミアム路線:セレクトショップ

一方で同じくスーツを都心で販売する専門店で好調を維持しているのはセレクトショップである。1990年代から新たな小売形態として台頭してきた同形態は 10年以上経つ今でも毎年 100 %超の成長を続けている。明るく清潔で洒落た店内のスーツ 1 着の値段は 2 プライスの倍以上である。不景気な世の中では、多少目を瞑ってでも安価なものを選ぶ顧客が増えるのは仕方ないと思うが、決して価格を下げることなく好調を維持出来る理由は真に顧客満足に重点を置いた販売方針がある。

雑誌を見た顧客がストアロイヤリティーを求め来店するのだから販売は容易に感じるが、実際に接客を経験するとその商品に対する知識の豊富さには脱帽する。素材、ボタン、縫い方の違いについても販売員らしからぬ知識をもって商品 1 点 1 点を丁寧に説明する。しかも嬉しそうにその商品に誇りを持って説明していることを感じてしまうのである。

対応した販売員からよくよく聞いてみると、販売員はスーツの縫製工場へ出張し直接経験したことを店頭で披露する訳であるから商品に見えない付加価値を付けて販売する事が出来る。
そもそもの認識である値段が高ければ品質が良いのは当り前!と思っているところに、その理由を具体的且つ隠された魅力を含め提示されるのである。
良い意味で期待を裏切られたお客様は購買意欲を掻き立てられ、高価であるにも関わらず得した気持ちでバーゲン前の正規単価で購入するのである。ただ一方的に売ろうとする販売は一切無く、かといって放って置くこともない。ブランドロイヤリティーの下に一貫したものを感じる。無論、購入後のアフターサービスも手書きの御礼葉書から半年後のケアまで徹底している。

【おもてなしとは】

好調な販売に裏付けされるのは、顧客と共にブランドを築く心、その信用を確固たるものとする販売側の姿勢。トップブランドの地位は商品力だけでなくあらゆるサービスを提供する為の全て裏付けされた努力の賜物である。

基本的にサービスは店舗から顧客という「全体のマス」へ一方的に与えるものでは無く、来店したお客様一人一人である「個」への対応が常に要求される。
販売車種が多岐に亘る従来の販売店とは異なり明確なコンセプトに基づく「専門店」であるからこそ、より深度のある極め細やかなサービスが可能となる。

店舗の雰囲気、素晴らしい商品、行き届いた接客といった至極の空間=店舗で為されるサービスがそれであるが、一方で明確であるからこそ顧客の要求も高度化するのも事実である。

【最後に】

お客様が高いと思うモノを売る為には値段以上の価値を付加するサービスが成功へのカギとなりうる。それは必ずしもお客さまから見えるモノではない。
セレクトショップの店員同様、レクサス店にも良い意味でお客様の期待を裏切り続けて欲しいと願っている。 如何にして、そうした人財が集まり、育ち、定着するような販売店であり続けられるかが真の挑戦ではないだろうか。

<大谷 信貴>