「アフターマーケットの成功者たち」『第 14 回 アップガレージ』

国内製造業の屋台骨たる自動車産業。国内 11 社の自動車メーカーの動向は毎日紙面を賑わしている。

しかし、消費者にとって、より身近な存在であるはずの自動車流通業界のプレーヤーについては、あまり多く知られていないのも事実である。

群雄割拠の国内の自動車流通・サービス市場において活躍する会社・人物を、この業界に精通する第一人者として業界内外で知られる寺澤寧史が、知られざる事実とともに紹介する。

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第 14 回『アップガレージ』

ここ数年で中古カー用品の事業に、市場参入企業も増え、あちらこちらで店舗が目につくようになっている。

今回ご紹介するのは、中古カー用品だけに特化し業界のトップランナーとなったアップガレージである。

アップガレージは、創業 5年目の 2004年 3月に東証マザーズに上場を果たしている。店舗を黄色で統一し遠目からもはっきりと識別できる店構えとなっているので、見たことはあると思われる読者も多いかも知れない。

【中古カー用品事業立ち上げまで】

アップガレージを率いる石田誠社長は、早稲田大学在学中より実兄と川崎で中古自動車販売業(商号はオートフリーク)を立ち上げ年商 60 億円まで育て上げている。オートフリークは、主にドレスアップ車販売専門店として名を轟かせていた。

元々ドレスアップ用の部品仕入れのためドレスアップ車の買い取りを行なっていたが、ドレスアップ車だけの仕入れでは、ドレスアップを希望するユーザーニーズに対応出来ないことから、ナビ、オーディオ、タイヤ・ホイール、マフラーなど中古カー用品買い取りを早い時期から行なっており、中古用品買い取りの専門部署も作っていたのであった。この部署を担当していたのが、アップガレージ石田誠社長であった。

オートフリークでは、ドレスアップ用にサービス工場も併設しており、中古車ユーザーの囲い込みに成果を上げていたことから、「カー用品をもっと身近に、もっと楽しみやすい」ものにすることで中古車ユーザーのカーライフに変革をもたらすことが出来るに違いない、リユース品を流通させることで、これまでは不要品として捨てられていたモノの再利用にもつながり地球資源の保護にもなると石田社長は考えていた。

アップガレージ創業以前の中古カー用品という市場は未整備の状態であった。せいぜい自動車解体事業者がタイヤ、ホイールなど解体車両から取り出して解体工場の一角で販売するというケースが散見された程度である。多くのカー用品は、装着されたまま不用品として廃棄されていた。

しかし、中古車の買い取りは、ガリバー、アップルなどが買取査定システムを完備して全国チェーンを展開していたことから、中古カー用品についても仕組みさえ整えれば市場 / 事業として成立する余地があると石田社長は考えた。

【アップガレージの創業と成長】

こうして 1999年 4月に石田誠社長がオートフリークの中古カー用品事業を切り出す形で事業化したのがアップガレージである。

アップガレージの UP は Used Parts の頭文字を表すが、同時にカー用品のリユースを通じてユーザーのカーライフの UP、地球に優しいエコロジーへの貢献 UP というメッセージが込められている。

オートフリークで約 20年にわたる中古車販売事業を経営していた石田社長は、中古カー用品買い取り査定システムを整備するとともに、中古車業界での経験、知識、人脈を生かし FC 主体の店舗展開を開始する。

創業後、僅か 6年で全国に 73 店舗(直営 20、FC53)まで拡大し、800 億円市場と言われる中古カー用品市場の 12 %強のナンバーワンシェアを獲得している。

現在では、コクピットのオートレット(30 店舗)、オートバックスのセコハン市場(26 店舗)、ドライバーズスタンドのパーツオフ(8 店舗)などの既存事業者の新規参入が相次いでいるが、他社がまだ「点」にとどまるのに対してアップガレージはすでに「線」の構築を終えており、さらに今期中に 100 店舗体制を整えて「面」に拡大することで他社の追い上げをかわそうとしている。

【中古品取り扱いの上での工夫】

一般的に中古品の売買においては売り手と買い手との間に情報の非対称性が存在すると言われている。商品の品質について売り手はよく知っているが、買い手は殆ど知らないという状態のことをいう。

情報の非対称性が存在する市場ではアカロフの「レモンの原理」が働き、最終的に悪貨が良貨を駆逐して、市場に出回るのは粗悪品ばかりになると言われる。

つまり、買い手側に品質判断のための情報が不足しているときに買い手側は、個々の商品の品質に係わらず粗悪品の価格以上を支払おうとしなくなる。

その結果、平均品質の高い中古品の売り手は市場では儲けが出ないので市場から退出することになるからである。

市場の売買が同じプロ同士で行なわれるときには、情報の非対称性は少ないが、売り手と買い手が一般ユーザーである場合には、情報の非対称性は最大になりレモンの原理が働きやすくなる。

これをアップガレージのビジネスモデルを使って考察してみることにする。

アップガレージの場合は、CtoBtoC モデルであり B のアップガレージが中古カー用品のあらゆる情報を蓄積しており、中古カー用品の売り手や買い手との間にはまだ相当の情報格差が生じていると考えられる。

つまり、
(1)中古カー用品の売り手に対して、売ろうとする商品の品質判断や相場情報が売り手に正確に伝わらないと良質な商品の調達が困難になる。

(2)同様に中古カー用品の買い手に対して、品質情報や相場情報が正確に伝わらないと適正価格での販売が困難となる。

そこで、アップガレージでは、情報の非対称性の解消のために過去 5年間に発売された約 15 万点に及ぶカー用品の価格情報と品質情報をデータベースとして保有し、合わせて新品カー用品店での最新の小売価格動向を定点観測し、その相場を売り手にも買い手にも開示した上で買い取り、販売を行なっているのである。

買い取りを行なうアップガレージ全店舗の端末には、持ち込まれたカー用品の商品名、型式などを入力すると、買い取り価格が瞬時に提示される仕組みとなっており、どの店舗でも誰が査定しても同一価格が提示され価格の恣意性が起きないようになっている。

買い取られた中古カー用品は、各々本部のデータベースに登録され、販売価格は品質によって違いはあるものの、おおむね新品価格の半値を目安に値付けがなされているという。

このデータベースを利用することで、1)の売り手に対しても、2)の買い手に対しても品質と価格の妥当性を説明が出来るようになっているのである。

以上は情報の瑕疵や非対称性に関する話であるが、中古品にはこれ以外にも留意すべき点がある。アップガレージはこれらの点についても次のような対応をすることで問題の解決をしようとしている。

(1)商品そのものの瑕疵
買い取り時に、動作検査、品質基準を設け全品に保証を付保している。商品に瑕疵があった場合には返品制度を設け対応している。

(2)取り付けの瑕疵
専門のプロスタッフの取り付けにより対応しているが、保証期間内であれば無料で修理・交換を受け付けている。

【中古カー用品の横展開】

アップガレージでは、2001年に中古バイク用品の「UP Garage ライダーズ」、2004年には中古スポーツ&アウトドア用品事業の「フィールドガレージ」、輸入車用中古カー用品の「UP Garage インポート」、スバル車専用の中古カー用品事業の「UP Garage スバル館」などを立ち上げている。

さらに、アップガレージでは、業態の横展開を計画しており、種々の商材のリサイクル業態に対応できるように、基幹システムをプラットフォーム化している。

2005年 7月には、リサイクル専門のネット商店街を立ち上げカー用品だけでなく幅広い分野の中古品を扱うことを表明している。

アップガレージが立ち上げるネット商店街は、「リーワンネット」といい、中古書籍販売のブックオフ、中古厨房機器販売のテンポスバスターズなど 10 社が参加の予定であるという。アップガレージが保有する査定、在庫管理システムを参加企業に提供し、フィービジネスを第二の収益源としたい考えである。

今後、類似する業態を 10 種程度作り、拡大するリサイクル・リユース業態をシステムから支援していきたいとしている。

【アップガレージのビジネスモデル】

アップガレージの進化の歴史から学べることは何であろうか。

第一に、中古カー用品の買い取りというこれまでに誰も目を付けていなかったものだけに特化するという商品の絞込みを行なった。

第二に、品質と価格情報をデータベース化して素人でも中古カー用品の価格を瞬時に提示できるようにして FC に加盟する仲間を集めることに成功した。群雄割拠のアフターマーケットでは早いうちにネットワークを構築することは重要な成功要因であり、自社のリソースに限界がある場合には FC 化は有力な選択肢になる。そのためには素人でも FC になれるようにシステムをシンプル化することが重要なのである。

第三に、ネットワークを使って情報の蓄積と汎用化を行ない、別のビジネスモデルにも転用可能とした。

その結果、中古カー用品にとどまらず事業の多角化・大規模化に成功しつつあるのである。

アフターマーケットでの共通の成功要因にはこのように「絞り込む」→「仲間を集める」→「情報を集めて再利用する」という勝利の方程式が存在することが多いものである。

<寺澤 寧史>