社内のノウハウを社外に提供していくということについて考える

(ホンダ、系列販社に人材を派遣し、販社の営業力やマネジメントを支援へ)

<2005年05月27日号掲載記事>

(トヨタ系の部品販売会社、取引量の多い一般整備工場に経営改善を指導へ)

<2005年05月31日号掲載記事>

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日本の自動車業界においては、これまで、自動車メーカーが自社の系列部品メーカーに対し、人員を派遣するなどし、主に生産管理や生産技術といった部分を支援し、協働して部品のコスト削減や品質向上を目指すという取り組みが一般的に行なわれてきた。

自動車という製品が部品メーカーから納入される部品によって構成されており、部品のコスト、品質が自動車のコスト、品質に少なからず反映されることを考えると当たり前ともいえる取り組みである。

2000年前後、外資資本の導入により、一時、系列解体の方向に進んでいた日産、三菱自動車も現在は部品メーカーと協働する方向へと回帰してきている。先週のニュースを見ても、三菱自動車が 2002年に解散した系列部品メーカーによる「協力会」を復活させたという記事が掲載されている。

しかし、今回紹介する記事は上述したような自動車メーカーが川上にあたる部品メーカーを支援するといったものではなく、より最終顧客に近い川下のディーラーや整備工場に対し、支援をするというものである。

先週の本メールマガジンで、ホンダがディーラー向けのコンサルティング子会社を設立したという記事が寺澤により紹介されているが、ホンダはそれに加え、ホンダ地場資本の「プリモ」系販社を中心に人材を派遣し、営業やマネジメントに関し支援を行なうとのことである。

また、トヨタは系列の部品販売会社を通じて、取引量の多い整備工場に対し、補修部品の在庫管理方法や物流改善、人材育成などをサポートしていくということである。

これらのニュースは自動車メーカーが社内のノウハウ、知識、人材を生かして自社のバリューチェーン内にいる企業を支援していき、バリューチェーン自体を強化していく動きとしてまとめることができるだろう。

それに関連して、自動車メーカーが素材から最終顧客までつながるバリューチェーンの中でどこまで関与、支援していくのが適当か、といった議論もあるだろうが、今回は少し切り口を変えて、社内のノウハウを社外に提供していくということについて考えていきたいと思う。

今回紹介したニュースは両方ともバリューチェーン内の企業を「支援する」という形でノウハウを提供していくものだが、それを更に推し進めて「サービスとして」提供していくという形も今後自動車業界に限らず、増えていくものと思われる。

実際、ホンダコンサルティングなどは今後、系列外の販売店に対しても、サービスを提供していくとしているし、トヨタは既にリクルートと合弁でカイゼンをサービスとして提供するコンサルティング会社である OJT Solutions を設立するなどしている。

一方で、社内のノウハウを活かし、社外にサービスとして提供していくということは、住友商事とアビームコンサルティングの合弁である我々、住商アビーム自動車総研にとっても非常に関係の深いテーマである。

社内のノウハウを活かし、社外に新たなサービスを提供していこうと考えるにあたって、まず、必要となるのは自社の強みを認識することである。

ここでいう強みというのはある事業や製品といった表に表れている強みに留まらず、その表に表れている強みを生み出したもっと根源的な強みが含まれる。言い換えれば、自分達が提供できる価値ということになるかもしれない。

例えば、OJT Solutions の場合、トヨタ社内の業務改善のノウハウを外部に提供していくということになるが、それを活かして顧客のモノづくりの現場の業務改善を行なうのは、もちろんだが、トヨタの業務改善のノウハウを生み出した根源的な強みがカイゼンの精神であり、人、企業風土であることを勘案すると、顧客の業務改善が継続的に行なわれるための、人づくりや企業風土の改革までも、サービスの範囲に含めることが可能だろう。
その後で、自社の強み、提供する価値の受け手となる顧客、マーケットを考えるわけだが、自社の強みを根源的部分まで遡ると普遍的なものになることが多い。そのため、その強みがこれまで想定していなかったような分野でサービスとして形になることも考えられる。そういった意味で、顧客対象やマーケットは広い視点、視野で考えることが重要になる。

その中で最良の顧客となるのは自分達の強みを最大限、ありがたく感じてくれる人達ということになる。自分達にとっては当たり前のことでも、別に人にとったら非常に価値のあることかもしれない。そのギャップが最大になるところを探すわけである。

そして、勿論、ビジネスとしてやる以上、サービスの対価は必要となり、その対価を得る仕組み、つまり、ビジネスモデルを構築する必要があるが、それを考えるのは自分達の提供する価値とそれを受け取る顧客がある程度、固まってきての話である。逆にそれらが妥当なものであれば、ビジネスモデルは自然にある一定の形に落ち着くものと思われる。
また上記のようなことは今回のケースのように、社外に対し新たなサービスを提供する、つまり新規事業を担当する人のみに関連があるというものではない。というのも、自社の根源的な強みというのは、販売、研究開発、生産など既存オペレーションの中にあるものだからだ。

そして、弊社は上記の社内のノウハウを社外にサービスとして提供するということを熟考した上で、総合商社の「ネットワーク」、「リソース」、コンサルティング会社の「協働することを生業としてきた経験」を活かした、ベンチャー、中小企業サポートネットワーク「住商アビーム AutoStanding アカデミー」を開始することとした。詳細に関して、興味のある方は是非問い合わせいただければ幸いである。

<秋山 喬>