異業種企業の組織を見れば自動車業界注力度がわかる

◆日立、14.4%出資している「クラリオン」を買収へ。25日からTOBを実施

<2006年10月11日号掲載記事>

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【自動車関連事業強化を更に強める日立製作所】

日立製作所は 11日、自動車機器メーカーのクラリオンを買収すると発表した。25日から TOB (株式公開買い付け)を実施し、子会社化する。全発行済み株式を買い取る場合、取得総額は約 557 億円になる。また、TOB による子会社化が成立した際には現在、日立の 100 %子会社であるザナヴィ・インフォマティクスをクラリオンの 100 %子会社とする予定だという。

日立はハイブリッド車用モーター、エンジン部品、ブレーキ部品等を生産・販売しており、日立化成工業や日立金属などグループ 10 社も自動車機器を手掛けている。2005年度のグループの自動車機器売上高は 5800 億円であり現在でも自動車部品メーカーとして、デンソー、アイシン精機、豊田自動織機、カルソニックカンセイに次ぐ売上高であるが、これを 10年度には 1 兆円に増やす計画を掲げている。

日立の自動車関連事業は元々、日産と関係が深く、近年では「日産リバイバルプラン」における系列部品メーカーの切り出しに応じる形で、自社の事業を拡大してきた。

近年の動きをまとめてみると

1991年 日産自動車(株)と合弁で、車載情報システムの専門メーカー「株式会社ザナヴィ・インフォマティクス」を設立。

1999年 (株)ユ二シアジェックスへの出資。

2000年  (株)ザナヴィ・インフォマテックスへ追加出資し、子会社化。

2002年 (株)ユニシアジェックスへ追加出資し、子会社化(株式会社日立ユニシアオートモティブへ)名称変更。

2004年 株式会社日立製作所/トキコ株式会社/株式会社日立ユニシア合併。

そして、2004年には同様に日産との関係が深いクラリオンに 14% の出資を行い、筆頭株主となっていた。

【今回のクラリオン買収の位置付け】

クラリオンは市販用カーナビで国内シェア 5 位であるものの、日産自動車向けのカーナビ供給が落ち込み、07年 3月期の最終利益は前期比 8 割減の 13 億円の見込みとなっており、今後の競争に単独で生き残るのは困難な状況となっていた。

一方で、日立側としては、高度道路交通システム(ITS)対応で重要度が増すカーナビなど車載用情報通信機器を、環境・安全技術と並ぶ柱と位置づけ、強化策を検討していたということが今回の背景にある。

前述したとおり、日立は 14 %のクラリオン株式を持つ筆頭株主であり、カーナビの共同開発などを進めてきたわけだが、出資比率が低いため技術開発情報の共有化が難しい等の理由により、今回の買収に至ったようである。

想定されるシナジー効果としては、カーナビ分野におけるザナヴィとクラリオンの協業が一義的には考えられるが、その先には、日立本体で取り組む走行制御システムとカーナビの連動等も考えられ、電子化が一層進展していく中で、自動車メーカーに対し、総合的なソリューションを提供することが可能になったといえるだろう。

つまり、日立の今回の動きは、今後、より一層、自動車関連事業を強化するうえでのグループを巻き込んだ組織体制の整備ということができる。

今後の課題としては、想定するシナジー効果をいかに実現するかだが、今回の買収は、ブランドの独自性を確保するという観点からクラリオン株式の上場が維持されることが前提となっているようであり、TOB により証券取引所の上場廃止基準に抵触するような事態になった場合は、クラリオン株式の上場を維持するために双方で協議する旨が発表されている。このような微妙な距離感の中で、今後、どこまで突っ込んだ協業が可能になっていくのかはまだ未知数といえる。

【自動車業界注力度(Look Auto)のレベル】

少し、話が横道にそれるが、弊社では、昨今の自動車業界の好況を受けて、自動車関連事業を強化したいという、素材メーカー、電子・電機メーカー、IT事業者等、異業種企業の相談を受けることが多く、それに対し Look Auto! というサービスを提供しているが、持ち込まれる内容を現在のステータス、自動車業界への注力度、抱えている悩み等で整理すると大きく 3 つのパターンに分類される。

まず、パターン 1 は現在、自動車業界向けの納入は殆どなく新規参入を考えている、もしくは、これまで手がけてきた自動車向けの製品分野とは全く異なる分野での参入を考えている企業からのものである。

このパターンは新製品開発、新規事業開発の一環として自動車業界を狙うというものであり、自社の技術やシーズを用いて自動車業界への参入を目指しているものの、自動車業界に対する土地勘がないため、基本的な業界情報や参入の切り口、参入の方法論の提供が必要とされるケースが多い。

そして、パターン 2 は自動車業界向け製品の納入はそれなりにあるものの、これまで自動車業界というくくりを意識せずにやってきたため、各製品分野がバラバラの状態となっており、それらを束ねたうえでシナジー効果を創出する自動車事業戦略の立案を必要としている企業からのものである。

このパターンは、自動車業界向け製品の納入数自体はそれなりにあるため、自動車業界の基本的な知識や個別のニーズは把握しているものの、戦略を描く上での自動車業界の大局的な動向の提供が必要とされるケースが多い。

最後にパターン 3 は自動車事業戦略を上手く実行に移すために、組織、体制面を整備、改革したいと考える企業からのものである。これは例えば、これまで素材、製品別組織となっていたものを改め、新たに自動車事業本部(つまり顧客別組織)を新設するといったケースがこれに該当する。また、パターン 2の帰結としてこのニーズが出てくるケースもある。

このパターンの場合、自動車業界と相対する場合に上手く機能する組織、体制ということだけでなく、内部の組織・人事論的な観点からも上手く機能する組織が検討される必要がある。また、パターン 1, 2 で挙げた新製品開発、シナジーの創出といったことが、効果的に実現される組織であることが求められる。

そして、これらのパターンの中では パターン 3 に該当する企業が最も自動車業界への注力度が高いということになり、通常、自動車関連事業を強化しようと考える異業種企業は 1 → 2 → 3 というステップを経る。また、パターン2, 3 は、グループ企業を巻き込んで行われるケースも多い。

日立の今回の取り組みなどは、まさにパターン 3 に該当し、自動車関連事業を強化しようと考える異業種企業の中でも、フロントランナーの位置にいるといってもいいのではないかと考える。

【Look Autoはすればするほど有利だが】

自動車は製品特性的に各部品間のすり合わせが必要な製品であるため、他業界と比較して、完成品メーカーとのより緊密なコミュニケーションが要求される業界である。そのため、これまで系列といった業界構造が上手く機能していたわけだが、それに照らしてみると、自動車関連事業強化を目指す異業種企業にとっても、自動車業界向けのシフト、体制を敷いたパターン 3 の状態まで、早くたどり着いた企業のほうが、その後の事業展開において圧倒的に有利になる。経営論の中で、先に仕掛けた企業のほうが有利に事業展開を進められるというファースト・ムーバー・アドバンテージの概念があるがそれに近いものである。

一方で、今後の自動車の製品構造の劇的な変化を考えると、これまでの系列に、パターン 3 の企業群が追加されたような業界構造に加えて、さまざまな潜在的可能性を持つ技術、製品が自動車業界に持ち込まれる状態のほうが、自動車業界としても望ましいと考える。そういった意味で、弊社では自動車業界への窓口として積極的にパターン 1、2 に属する企業の皆様のサポートもさせていただこうと考えている。

<秋山 喬>