新規需要喚起の必要性と異業種とのアライアンスの活用

◆日産、カーウイングスの新サービス「カーウイングス おとなのクルマ旅」

<2007年08月01月号掲載記事>

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【国内自動車市場の現状】

2007年上期(1~ 6月)の登録車(軽自動車除く)の新車販売台数は、前年同期比 10.5 %減の 178 万 8440台と 2年連続で減少し、1977年以来 30年ぶりに 180 万台を割り込んだ。小型乗用車が 15.1 %減の 89 万 2206台と大幅に減少したほか、乗用車、商用車の全項目が減少する結果となった。

また、これまで好調を維持してきた軽自動車も 2007年上期の販売台数は 1.7%減の 105 万 4080台と 4年ぶりに減少に転じた。

登録車と軽自動車とを合計した販売台数は、284 万 2520台で、前期比 7.4%減となったが、これも 2年連続の減少ということになる。これまで自動車需要は主に景気の変動に影響を受けると考えられており、景気の回復に伴い自動車需要も徐々に持ち直してくると想定する向きもあっただけに、これらの数字は改めて自動車メーカーに戦略見直しを迫るものとなっている。

実際、内閣府が発表している GDP の実質成長率は 2005年が 1.9 %、2006年が 2.2 %と着実に景気回復に向かっている。ただ、成長率の内訳を見てみると、現在の景気回復を牽引しているのは主に民間の設備投資と輸出であり、景気回復の恩恵が家計消費まで行き渡っていないとする見方もある。

しかしながら、家計が潤ったとしても消費者がすぐすぐに財布の紐を緩めることは想定しづらく、また、現在の自動車需要の低迷も景気以外のライフスタイル、人口動態の変化の影響を受けている面も大きいと思われるため、自動車メーカー各社も市場の劇的な回復を見込まない成熟期の事業構造のあり方を模索し始めている。

【保有ユーザーを重視した代表的な取り組み】

新規での需要がそれほど期待できない状況であるので、今後の方向性としては各社とも代替需要を確実に獲得するため自社ブランド保有ユーザーへの取り組みを強化していくことが中心となる。

そのため代表的な施策は各社とも共通するものが多い。

まずはユーザーの自社ブランドとのつながり、及びロイヤリティを向上させることを目的としたCRM体制の構築である。

販売した車両ベースでなく購入してくれたユーザーベースで情報を管理するDB を構築し、メーカー、販社間でユーザー情報の一元管理と有効活用ができるような体制を確立することでユーザーへの定期的なコミュニケーション、及び密な関係を維持していく。

そして、それら顧客情報をベースにしてトヨタであれば TOYOTA サービスカード、ホンダであれば C カードというような形で会員カードを発行することで、ユーザーに対しサービス履歴照会や、転居連絡、リコール案内、ロードサービスといった付加サービスを提供している。

また、サービス分野におけるメンテナンスパックの導入も主要な施策の一つである。

メンテナンスパックを導入することで、自動車メーカー側では顧客の囲い込みによる新車代替機会の効果的獲得、といったことが期待できるため、昨今ではメンテナンスパックの対象期間もより長期化する傾向にある。

例えばマツダでは初度登録後初めて迎える 3年後の車検をもパッケージに含めた「36 ヶ月プラン」を導入している。

更に、金融分野における残価設定ローン、個人リースも各社が注力し始めている。これらの金融商品はユーザーにとっては月々の支払い負担が軽くなるというメリットがあるが、自動車メーカー側にとってもメンテナンス等でユーザーとの定期的な接点をつくり、期間満了時も含めて買い替えを促すタイミングが取りやすいというメリットがある。

実際、トヨタが残価設定型ローンを改定したのに続き、日産も残価設定型ローンの適用を乗用車全車種に拡大することを発表した。また、ホンダも今秋の新型フィット発売を機に残価設定型クレジットや個人リースを本格展開する予定である。

そして、これらの取り組みは自社ブランドユーザーの囲い込みの効果に留まらず、整備獲得率向上による整備売上の増加、良質な中古車の確保といった点で系列ディーラーの収益基盤の維持、強化にも大きく寄与するものである。

【将来を見越した新規需要喚起の必要性】

現在の市場環境において既存ユーザーを重視するという方向性に異論はないものの、この話は日本全体として懸念されている少子化、人口減少の問題と類似する部分がある。

つまり、少子化が続けばやがて人口減少という事態が避けられなくなるのと同様に、需要の縮小が続けばいずれ保有台数も縮小していくということである。実際、自販連の予測では 2015年前後には保有台数自体も減少に向かう可能性があることが指摘されている。

少子化→人口減少の原因となる出生率の低下が既に 1970年代中盤には始まっていながら、ようやく最近になって本格的な対策を打ち始めた国の姿勢を反面教師にしつつ、自動車メーカーとしては既存ユーザーへの取り組みと並行して新規需要喚起に向けた方向性も模索し始めるべきだろう。

国内において自動車、及び自動車産業の魅力、存在感の低下が続くと、優秀な人材の確保も難しくなり、ひいてはグローバルで戦う自動車メーカーとしての競争力が低下してしまうことも懸念される。

自動車業界を牽引する立場であるトヨタはやはりこのあたりの問題意識が高く、渡辺社長が 2007年の年明けに国内自動車需要の再生案策定のためのプロジェクトチーム編成を指示している。

そして、新規需要喚起ということを考える切り口としては、無論、これまで同様、製品面からのアプローチが必要とされる。

ガソリン価格高騰を踏まえ、ユーザーのガソリン代の負担を少しでも軽減するための燃費向上や、10 代目カローラに標準装着されたバックモニタ等による使い勝手向上は漸進的ながら明確に自動車の魅力を向上させる。

また、薄型テレビの例が示すとおり、革新的な機構というのは成熟市場を再び成長市場へと活性化させる。その意味で、ハイブリッド車や次世代ディーゼル車への期待も大きい。
一方で、モノでなくコトに消費者が価値を見出す時代を迎えるにあたって、自動車メーカーが今後、より積極的に行っていくべきと思われるのは、主にソフトな面からユーザーが自動車を用いて行うコトまでもサポートしていくことであろう。

その意味で今回紹介したカーウイングスの新サービス「カーウイングス おとなのクルマ旅」は注目される。本サービスでは、従来の旅先までのルート案内やドライブガイドに加え、旅先での宿泊施設やゴルフ場、飲食店、レジャー施設等が会員優待価格で利用できるようになり、さらに宿泊施設とゴルフ場は予約手配も可能となる。また、宿泊予約の際には最低価格保証を行い、どこよりも安い宿泊料金が提供される。

今後、自動車ユーザーの属性も人口動態に合わせて変化することが予測されるが、まだまだ主要なユーザー層である団塊の世代は定年を迎え時間に余裕ができ、自動車で旅行に出かけることも想定される。そんな旅行を自動車と本サービスが更に豊かなものにしてくれることだろう。

このように自動車を用いて行うコトまでを視野に入れたサービスを幅広く展開していくことで、結果的には自動車というモノ自体の魅力も向上していくのではないだろうか。

【異業種とのアライアンスの活用】

カーウイングスのサービスが福利厚生事業を展開するベネフィット・ワンとの協業により実現されているように、ソフトな面からユーザーが自動車を用いて行うコトをサポートしていこうとした場合、当然、自動車メーカー単体だけでなく、消費者との接点を持つ様々な異業種企業とのアライアンスが必要になってくる。

また、新規需要を喚起するという意味では、ユーザーが新車に接する機会を増加させることも有効であるが、トヨタは子会社のトヨタオートモールクリエイトを通じて自らカラフルタウン岐阜といったオートモール型の商業施設の開発を進めており、スーパーマーケットや飲食店、アミューズメント施設等、様々な異業種のテナントを引き入れながら、ユーザーが日常生活の中で新車情報に触れる場を設けている。

このように今後、国内で新規需要を喚起していくためには、異業種とのアライアンスも上手く活用しながら、ユーザーとの接点を構築し、更には広い意味でのカーライフ全般をサポートしていくことが有効ではないだろうか。

<秋山 喬>