トヨタが推し進めるゆるやかなグループ形成とその求心力

◆トヨタと富士重工、資本・業務提携の拡大を発表。スバルは『軽』から撤退

                    <2008年04月10日号掲載記事>

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【1クリックアンケート結果が予見していたこと】

 先々週の住商アビーム Auto Business Insigt Vol.201 にて下記のような業界再編に関する 1 クリックアンケートを実施した。

「自動車業界の業界再編についてのアンケート」
 家電業界では選択と集中(投資に対するリターンが得られない携帯電話や液晶やプラズマ事業から撤退して、原子力、半導体、生産設備事業、などに経営資源を集中など)の結果、業界再編(他社からの調達、他社への生産委託)の動きが相次いでいます。

 また、家電業界と自動車業界は、主戦場も製品アーキテクチャも陳腐化サイクルも流通網も根本的に業界構造が全く異なる反面、多額の開発・設備投資負担や同じように縮小する国内市場で過当競争を繰り広げている、といった類似点も多く見うけられます。そんな中、今後の自動車業界における選択と集中及びその結果としてなされる業界再編の可能性をどう思われますか。

 アンケートは 238 名の方から回答を頂き、そのうちの 157 名、67 %の方が自動車業界でも業界再編が起こると考えているという結果となった。

 このアンケート結果が予見していたかのように、トヨタとダイハツ、富士重工の 3 社は 10日、包括的な資本・業務提携を強化すると発表した。資本提携としてはトヨタが富士重工への出資比率を現在の 8.7 %から 16.5 %に引き上げる。

 業務提携としては各社は主に次の 3 点で協業する。(1)富士重工の水平対向エンジンを搭載した後輪駆動(FR)の小型スポーツ車をトヨタと共同で開発し 2011年末に販売する(2)トヨタから富士重工への小型車の OEM 供給を 2010年末ころに実施する(3)ダイハツから富士重工への軽自動車と小型車「クー」の OEM 供給を 2009年後半以降に実施する、である。

 富士重工は現在、乗用車「ステラ」や商用車「サンバー」など軽自動車 5 車種を販売しているが、今後、軽自動車の自社開発・生産から段階的に撤退し、ダイハツへと移管することになる。
【業界再編に関する家電業界との比較】

 上記 1 クリックアンケートでも言及しているように家電業界では昨年来、業界再編が盛んに行われている。主だったところを挙げてみても、三洋電機が京セラに携帯電話事業を売却、また、シャープが液晶パネルを東芝へ供給、シャープとソニーと液晶パネルを共同生産、パイオニアがプラズマパネルの生産から撤退し、パナソニックからの調達に切り替える、など動きが激しい。

 自動車業界、特に日本の自動車業界は 2000年前後の世界的な再編以降、家電業界ほどの業界再編が起こっていないが、家電業界と比較した場合、そこには業界特性ともいうべき要因が影響しているものと思われる。

 まず、一つ目の要因は自社で抱える事業の数の問題である。自動車メーカーは自動車事業という単一の事業を行っているのに対し、家電メーカーは総合電機という名が示すとおり半導体、携帯電話、薄型テレビ、原子力など複数の事業を事業部制の形で各社が行っており、選択と集中の対象として捉えやすい、そして、選択と集中を進める際にも進めやすいということである。

 もちろん家電業界の方に言わせると、各事業間で技術の共通項はあるのであろうが、軽でも大衆車でも高級車でも同じ自動車である自動車メーカーと比べた場合、家電業界が手がける各事業というのは明らかに共通項が薄い。

 そして、二つ目の要因は製品としての統合性の問題である。先程、家電業界で起こっている業界再編の例として、薄型テレビのパネル供給の話を例に出したが、家電は製品アーキテクチャのモジュラー化が進んでおり、このような水平分業が可能である。よって、製品の中のあるモジュールを全くの外部に委託するといったような意思決定も行いやすく、業界再編も進みやすい。

 一方で、自動車という製品は一部、エンジンの外販といったケースは見受けられるものの、基本的にはインテグラルな製品アーキテクチャであるため、水平分業が行いづらく、業界再編も進みにくいという側面がある。

 このように家電業界と比較した場合、自動車業界は業界再編が進みにくい構造ではあるものの、今回のニュースが示すとおりトヨタが軸となって徐々に業界再編が進みつつある状況といえるだろう。

 そして、これは 2000年前後の各社が規模を追及した世界的な業界再編とは種類の異なるものであり、各社が保有する技術や各社の得意分野に着目して行われる新たな形の業界再編である。

 詳細については筆者の過去のメルマガををご覧いただきたい。

『400万台クラブ型M&Aと新たな時代のM&A』
【ゆるやかなグループ形成の求心力となる環境技術】

 家電業界と比較した場合の業界特性の違いや過去の世界的再編の教訓、経営ポリシーといった様々な理由があるだろうが、トヨタが軸となって進展する業界再編は今回のニュースで出資比率が 16.5 %に留まっていることからもわかるとおり、非常にゆるやかに進展している。

 製品面での棲み分けにしても、富士重工は軽自動車をダイハツから調達することで、スバルブランドでの軽自動車販売は継続されるし、後輪駆動の小型スポーツ車についても生産は富士重工が行うが、販売はトヨタ、スバルの両ブランドで行うとのことである。

 グループの中で各社はゆるやかに役割分担をしながら、消費者に対しては幅広い選択肢を提供するということであろう。勿論、役割分担により、富士重工は自社の得意分野であるスポーティな車に集中することができるし、トヨタとしても不足する開発リソースを補ってもらうことができる。

 そして、トヨタによる、このゆるやかな業界再編、グループ形成には同社のサプライヤ政策にも通ずるグループとしての広義の内製化という思想を見ることが出来る。

 デンソーやアイシン精機といったトヨタグループの主要サプライヤは自主独立した企業体であるものの、トヨタとはゆるやかに結びついており、トヨタから見れば信頼できるパートナーであり、デンソーやアイシン精機が生産している製品はトヨタグループ広義で考えれば内製をしているといってもいい。

 そういった思想を昨今グループに加わったいすゞ、富士重工といった完成車メーカーにも適用していると見るべきだろう。そして、このような考え方はリソース不足時代において、トヨタが変わらず全領域をカバーし続けるための方法論でもある。

 現在、軽自動車はトヨタ単体では生産しておらず、将来的にスポーツ車についても同様の展開になるのかもしれないが、トヨタグループという広義で捉えれば内製しており、変わらずフルラインメーカーなのである。

 また、このような方向性を志向していった場合、グループ経営という概念が非常に重要となってくるのは勿論であるが、特に、これまでトヨタグループには属しておらず、新たにグループに加わった富士重工、いすゞといった企業に対して彼らを束ねるための求心力が必要になってくるだろう。

 そして、そのような求心力の一つはハイブリッド技術に代表される環境技術となってくるのではないだろうか。

 事実、今回の提携拡大のニュースの 2日後には平成 24年までに、トヨタのノウハウや部品を生かしたスバルブランドのハイブリッド車を開発することが新聞社のインタビューにより明らかにされている。

 消費者の環境意識が高まる中、富士重工にとって自社ブランドのハイブリッド車を販売できることにメリットがあるのは勿論だが、一方のトヨタとしてもより多くのハイブリッド車を市場に投入することで、次世代自動車の業界標準としての地位確立に一歩近づくというメリットがある。

 技術標準競争では先輩にあたる家電業界の事例を引き合いに出すと、薄型テレビ市場では、2007年時点で液晶がプラズマの市場規模の約 4 倍と優勢を保っているが、元々はどちらの方式も標準を目指して拮抗しており、両方式が技術革新を繰り返すことで市場が拡大してきた。

 その分岐点は、ソニーがプラズマから早々に撤退を決め、サムスン電子と合弁で液晶パネル製造会社を始めたころにあるらしい。このソニーの決断により液晶テレビの販売台数が拡大し、それにより生産コストが下がり、更に販売台数が増加するという循環が生まれ技術標準競争に大きな差がついた。

 ハイブリッド車は次世代自動車の業界標準に近づきつつあるが、環境技術全般にわたってまだまだ不透明な面があり、他の方式の開発も進んでいる。そう考えると少しでも多くのハイブリッド車を市場に普及させたいということではないだろうか。
【多様性をマネージする】

 一方で、今回の提携強化を契機にしたトヨタ式ものづくりの流入により富士重工の商品が持つ独自の魅力が薄れてしまうのではないかということを危惧する声も一部見受けられる。

 確かに、トヨタ式ものづくりの思想は富士重工の中に流入するのだろうが、トヨタとしてもそれによって、富士重工の商品が持つ独自の魅力が薄れてしまったのでは今回の提携強化の趣旨からいって本末転倒になってしまうことは理解しているだろう。

 特に、現在は消費者のクルマ離れが進み、革新性のあるわくわくするクルマづくりが求められているタイミングでもある。むしろものづくり思想についても相互に交流するべきものであろう。

 画一性からは効率は生まれても革新は生まれない。多様性がこれまでとは異なる形で結びついたときに革新が生まれる。トヨタがゆるやかに推し進めるグループ経営においては、多様性をいかしつついかにマネージしていくかが問われている。

<秋山 喬>