クルマを通じたトータルライフで顧客へ独自性を訴求するための仕組みづく りについて考える

(ダイハツ、「ダイハツ・カフェ・プロジェクト」をスタート)

ダイハツのユーザーの 7 割を占める女性が、気軽に来店できるように、店舗をカフェのように演出する。カフェらしい小物を店の装飾に使用するほか、「ムーブ ラテ」のCMに起用した人気女性デュオの PUFFY をプロジェクトのイメージキャラクターに起用。ウェルカムドリンクのサービスや、期間限定で人気洋菓子店の特製チョコレートクッキーのプレゼントも。

                 <2005年9月5日号掲載記事>

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 クルマを通じてだけでなく、店構えや店舗でのサービスを通じて、そのブランドや自動車メーカーの特徴を顧客へ訴求していく動きが活発になっている。先月、日本でもデビューしたレクサスが、店舗のフロアに御影石などを使用して高級感を演出したり、販売店員に高級ホテルや老舗百貨店の人材を登用したりしているのも、そうした動きの一つと捉えられるだろう。

 この背景には、クルマ本体の機能・性能や品質だけでは、競争優位の源泉となる独自性を顧客に訴求しにくくなってきており、店舗での演出も通じて独自性を訴求していくことが自動車メーカーにとって不可欠になってきていることがあると思われる。

 店構えや店舗でのサービスで独自性を追求することは、モノだけではなく、全体を通して評価するという日本人の価値観と合致しており効果的であると思う。例えば、懐石料理で考えてみると、料理、そのもののおいしさや、もりつけの美しさだけではなく、もりつける皿にもこだわりがあるし、配膳の順番、タイミング、置き方にもこだわる。そして店舗や従業員が、かもしだす雰囲気等も重要になる。

 そして、店舗で独自性を持つことは、来店客に対するブランド訴求力の向上によって成約率の向上や成約リードタイムの短縮につながるメリットだけでなく、それ以外の副次的効果も期待される。例えば魅力ある店構えにより、ブランドの認知度が向上して店舗への集客力が高まり、広告宣伝費が抑制されたり、訪問販売に伴う人件費の節約につながる効果とか、資本関係のない地場資本系販売店への統制力が強化され、メーカー施策浸透のための時間やコストがセーブできる効果などである。

 モノづくりに関する時間やコストの切り詰めが進む中で、今後は販売・サービス領域での時間やコストを切り詰めるためにも店舗を通じて、顧客に独自性を訴求していく動きは強まると思われる。今回は、ダイハツ・カフェ・プロジェクトを例に、クルマを通じたトータルライフで、顧客へ独自性を訴求する仕組みをつくるためのプロセスや切り口について考えてみたい。

【ターゲットカスタマーを設定する】

 そもそも誰に訴求していくのかを考えることから始まる。ターゲットカスタマーを設定するための切り口は一般的に以下の 4 つがあげられる。

(1)気候や地理といったジオグラフィック基準
(2)性別、年齢、世帯、宗教といったデモグラフィック基準
(3)価値観、ライフスタイルといったサイコグラフィック基準
(4)お得意様、一見さんといった行動変数基準

 対象顧客を上記基準で細分化し、細分化された顧客を選択するように、ターゲットを設定していく。

 顧客を細分化する切り口は、わかりやすいことが重要である。最近では、(1)や(2)は古典的な基準で、(3)、(4)の基準を採用するべきといった風潮もあるが、(3)、(4)という基準は定量化が難しく、解釈に幅が出がちなため、ターゲットカスタマーが不明確になったり、誤解が生じやすく、施策レベルに落とし込みづらいという欠点がある。施策レベルでの徹底を意識する場合には、敢えて(1)、(2)を採用するのが良いのではないかと筆者は考える。例えば、「情熱的な人」をターゲットに設定したとして、そうした人達がどこにいて、どのようにしたらリーチできるのか、情熱的な人が来店し易い店舗が、どういったものなのか、非常にわかりづらい。

 そして、設定したターゲットは、もちろん、どこに売りたい、どこで売れるだろうという自社の想いや仮説も重要であるが、一方で、自社の商品・強みはターゲットとマッチしているのか、競合の動向も踏まえたうえで、そのターゲットで十分に稼げるのか、ターゲットは本当に、それを欲しがっているのか、長期的にみて、そのターゲットは成長していくのか、などターゲット側からの検証が必要になる。

 ダイハツの場合、ターゲットが女性だとすれば、デモグラフィック基準で、わかりやすい基準を採用していること、女性という規模が大きく・持続的なターゲットであること、ダイハツユーザーの 7 割が女性であることを考えると自社の商品・強みとターゲットがマッチしていること、競合動向の検証が必要ではあるものの、よいターゲティングといえるだろう。

【ターゲットカスタマーへリーチする方法を考える】

 顧客へリーチする方法は、様々であるが、網羅性の観点から、顧客へリーチできる機会と、その手段のマトリックスで今回は考えてみたい。顧客へリーチできる機会とは、タッチポイントであり、購入前、購入時、購入後である。顧客へリーチする手段とは、Product、Place、Price、Promotion といういわゆる4P である。すなわち、タッチポイント×4P のマトリックスである。

 上記マトリックスの各領域で、どのように顧客に訴求するかという施策を検討してくいくのであるが、その前に重要なことがある。それは、マトリックスを一貫するキーワードの検討である。一貫するキーワードとは、最も顧客に訴求したいこと、すなわち独自性を表現することである。ダイハツでは、以下のプレスリリースから、Place に関する「ちょっとおしゃれでとってもあたたかい」というキーワードを確認することができる。

 『ダイハツは、2004年に「新店舗スタンダード」を打ち出し、積極的に推進している。「新店舗スタンダード」は、女性に選ばれ愛される店舗を目指し、「ちょっとおしゃれでとってもあったかい」をキーワードにしたスタンダードコンセプト。VI (Visual Identity)設定により店舗の統一を図り、一目でダイハツの店舗として認知していただくことと、ハード面(店舗自体)とソフト面(人・応対)両面からお客様に快適に過ごしていただく空間づくりをねらいとしている。』
(プレスリリース 2005年 9月 2日)

 他 3 つの P に関するキーワードと、4 つの P 全体を一貫するキーワードは確認できないが、それぞれのキーワードは体系化されている必要があり、もし、体系化されていないと、顧客への訴求活動がちぐはぐなものになって、全体としてピンボケしてしまう可能性がある。

 そして、ダイハツ・カフェ・プロジェクトがタッチポイント×4P のマトリックスでどこに該当するかというと、Place の購入時の領域となるであろう。具体的には、「ちょっとおしゃれでとってもあったかい」をカフェと捉え、カフェらしい小物を店の装飾に使用するなどが Place と購入時の領域である。そして、上記プレスリリースにあるダイハツ・カフェ・プロジェクトの前提概念として位置づけられであろう「新店舗スタンダード」で、一目でダイハツの店舗として認知していただくこと、が Place と購入前の領域であり、店舗でソフト面からお客様に快適に過ごしていただくこと、が Place と購入後の領域に関わってくる。

 今後の検討案として、例えば、Product (広い意味でサービスも含む)と購入後の領域で、女性専用保険や女性に好まれる用品の開発、Place の深堀として、上記プレスリリースにある、ソフト面、ハード面だけではなく、そこから一歩遡った、立地条件などのインフラ面から、女性が来店し易い立地への出店、Price と購入時の領域で、アクセサリーをパッケージにするかバラ売りにするかという工夫や、グレード別の価格設定を敢えて女性の購買行動に順じたものによる等の工夫、Promotion と購入前の領域で、女性のライフスタイル提案を行っているメディアの採用などが考えられる。

 必ずしもタッチポイント×4P のマトリックスの全ての領域を埋める必要はないが、これまで、どこの領域で顧客へ訴求したのか、どこの領域が有効的であったか、今後、どこの領域を強化するのか、などを管理することが必要であり、全体を管理するツールとしてもタッチポイント×4P のマトリックスは有効であろう。
【優先順位を考える】

 タッチポイント×4P のマトリックスにカスタマーへのリーチ方法を描いたら、その優先順位付けが必要となる。全ての領域を全方位的に進めることは、経営資源は限りのあるものであるから難しいだろう。展開のシナリオを複数もうけて優先順位を決めていく。シナリオの分岐点には来店客向上率や、顧客満足度などの KPI (Key Performance Indicator:業績をモニタリングするための定量的な指標)を設定し管理していくとよいだろう。
 例えば、ダイハツ・カフェ・プロジェクト、つまり Place と購入時の領域の取り組みにより来店率が 10 % 向上した時には、この施策をこのまま継続するとか、続いて売上高向上施策として Product と購入後の領域で女性専用用品の発売を検討するなどである。

 優先順位やシナリオを考え、実行していくうえで大切なことは、マトリックス上の施策には、自動車メーカーの施策、販売店の施策が混じってくるであろうし、施策に対する KPI も、1:1 の関係ではなく、複数の施策実行の結果として KPI に反映されることもあり、自動車メーカーと販売店の密接な関係を築くことであろう。
【まとめ】

 今回はダイハツ・カフェ・プロジェクトを例に、クルマを通したトータルライフで顧客へ独自性を訴求する仕組みつくりのプロセス、切り口を考えてきた。
ここで重要なのは以下の 4 点だと思う。

(1)相手を見定める
(2)相手へのアピールポイント(独自性の表現)を考える
(3)アピールする方法は、モレなく、ダブりなしで考える
(4)そして優先順位をつける

 今回は(3)を考えるうえでのフレームワークとしてタッチポイント×4P のマトリックスを使用し、タッチポイントに購入前、購入時、購入後を用いたが、購入前を、より詳細に検討するフレームワークとして消費者の購買行動プロセスである AIDMA (Attention → Interest → Desire → Memory → Action)を用いることも考えられる。日本のディーラーは購入時には、かなり細やかなサービスを提供しているが、購入前や購入後のアプローチにあまり工夫が感じられない。逆に言えば、ここに独自性発揮の余地があり、今後の成功要因になるかもしれない。

<宝来(加藤) 啓>