販社への施策展開を例に既存のハードルを取り除く方向性について考える

◆富士重工、軽自動車を販売する業販店の稼働率を約 2 割向上へ

                     <2006年06月18日号掲載記事>

◆三菱自動車、販売会社の営業力強化へ、5 つのプログラムとトレーナーを派遣

                     <2006年06月20日号掲載記事>

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【東京スバルがキャラバン隊を編成し業販店を訪問】

 軽自動車「ステラ」の発売をきっかけとして、富士重が業販店の稼働率を高めるための取り組みを始めた。ここでの稼働とは新車を販売しているかどうかを指し、数年前には約 15,000 の業販店が稼動していたが現在では約 12,000 店に低下している。すなわち年間 1台も販売しない業販店が全国で約 3,000 店舗あるとこのことである。

 稼動率を高めるための具体的取り組みとして、富士重傘下の販売会社東京スバルでは「ステラ」、「ステラカスタム」、「新型レガシィ」の 3台でキャラバン隊を編成し業販店を訪問。新型車をアピールするとともにカサブランカの鉢植えをプレゼントするなどの販売促進活動を展開している。
【三菱自動車が販売会社に「5 つの営業強化プログラム」を導入】

 三菱自動車は新車、中古車、サービス、顧客データベース、経営の 5 つに領域に関する営業強化プログラムを傘下の販売会社 30 社に提供する。

 経営の領域では営業担当者に対して新車販売だけでなく割賦や保険手数料収入など付帯サービスに関連する収益および車検、定期点検、一般整備などアフターサービスに関連する収益を含めて評価する指標を導入すること、顧客データベースの領域ではリコール問題の対応や退職などにより情報の更新が徹底できていなかった顧客データベースをメンテナンスすることが挙げられている。

 「5 つの営業強化プログラム」の導入にあたっては、従来のマニュアル配布ではなく三菱自動車からトレーナーを派遣し実行を支援する。パイロット的に導入した山梨三菱自動車販売では 13 人のトレーナーを派遣し販売会社の担当者と共に取り組んだようである。
【実行まで支援するメーカーの販売施策が増加】

 自動車メーカーやインポーターが主導で販売網を活性化、強化する取り組みは星の数程実施されており、上記はここ最近の関連ニュースを取り上げたものである。

 今回注目したいのは、近年、特別ファイナンスプログラムの設定やインセンティブの上乗せ、上記富士重の販促活動など、ビジネスの仕組みや仕掛けを作る施策に加え、数ヶ月間に渡り集中的に中古車事業を支援するトヨタの「U ―Car 成果爆発プロジェクト」や上記三菱のトレーナーの派遣など、仕組みや仕掛けを作るだけでなく実行段階まで支援するする施策が増えてきたことである。

 自動車メーカーが販売会社のビジネスに入り込んで、自らが作った仕組みや仕掛けの実行段階まで関与することは、販売会社にとってみれば、自動車メーカーの豊富な人的リソースや情報量を利用できるということであり導入を検討する価値は高いと考えられる。もし、販売会社にとって都合の悪い施策や役に立たない施策だと分かればその時点で辞退または無視すればいいのだから。実際に三菱自動車の「5 つの営業強化プログラム」ではプログラムの成果を傘下の販売会社に披露する場を設け導入に賛同するかの確認をしているし、トヨタの「U ― Car 成果爆発プロジェクト」では導入販売会社の選定に販売会社からの意欲を重視している。
【「濃いサービス」を享受するためのハードル】

 ここで便宜上自動車メーカーやインポーター主導の施策の内、仕組みや仕掛けを作る施策を総称して「薄いサービス」、仕組みや仕掛けを実行段階まで支援する施策を総称して「濃いサービス」と呼ぶとすると、現在のところ「濃いサービス」は全ての販売会社に提供されているわけではない。「濃いサービス」を享受するための、または優先して享受するためのハードルがあるように思う。

 一つは新車販売台数規模が大きいことである。「濃いサービス」を提供するにはメーカーも相応の負担が必要となる。その負担の見返りとしては、自動車メーカーが直接買取やオークション、中古車領域にも進出している中で一概には言えないが、直接的には販売会社からメーカーへの新車注文台数が多いこと、つまり新車販売台数規模が大きいことである。

 そう考えると逆に、新車販売台数規模が小さい販売会社には小さい負担で「薄いサービス」をとなり、その意味では富士重が実施した不稼動業販店へのキャラバン隊という施策は、「薄いサービス」の中で相対的にみれば寧ろ負担の大きい施策であり、富士重の意気込みが感じられるともいえる。

 もう一つはメーカー系であることである。2006年 04月 04日号の弊社メルマガで加藤は企業間のアライアンスには 2 つの類型があるとしている。実質的に一方が他方の技術や製品・サービスを購入してくるに過ぎない個別の「売買契約型」のアライアンスここでは自動車メーカーと地場系販売会社の関係と、資本提携を結んで資金、人事、技術・設備、販売チャネル等、企業活動全体で協力関係を結ぶ総合的な「攻守同盟型」のアライアンスここでは自動車メーカーとメーカー系販売会社の関係である。

 総合的な「攻守同盟型」な関係では、一施策単位では投資とリターンを度外視することもあるだろうし、「濃いサービス」の成果を検証するためや成功事例を作るためパイロット的に導入する際に対象となり易いだろう。

 上記二つのハードルは必ずしも両方を満たしている必要はない。新車販売台数規模が大きい販売会社、もしくはメーカー系の販売会社が「濃いサービス」を優先的に享受できると考える。
【ハードルを取り除くための方向性】

 それでは二つのハードルの何れかを満たす販売会社はどれくらいあるかというと実は意外に少ない。日本には約 2,500 の販売会社が存在すると言われているが、その内従業員規模 99 人以下の販売会社が約 5 割(新車販売台数規模が小さいと想定される販売会社)であり、メーカー系の販売会社は約 2 割であると言われている。つまり新車販売台数規模というハードルでは約半数が、メーカー系というハードルでは約 8 割が「濃いサービス」の対象外となるのである。

 販売台数シェアでみれば巨大なメーカー系の一部の販売会社が多くを占めるし、中・小規模の販売会社の再編も進行中である。すなわち「濃いサービス」の対象外となっている販売会社は市場での影響力も小さく、数も減少傾向にある。

 しかし、現在のハードルでは対象外となる販売会社こそメーカーの持つ豊富な人的リソースや情報量を投入した「濃いサービス」が必要なのではないだろうか。小規模で地場系に代表されるこれらの販売会社が「濃いサービス」を享受するための方向性について考えてみたい。

1.成果の体系を変える
 一社当たりの成果は小さいかもしれないが、それらが集合すれば相応の成果が期待できる。またサービスの対価を求める場合も金銭的な報酬ではなく販売台数で捉えたり、サービス提供後一定期間経過後の成果に対して報酬を課すことも考えられる。

2.サービスの提供方法を変える
 自動車メーカーの負担が大きい直接的な人的リソースの投入は必要最低限に抑える形で例えば IT を活用した E-Learning 形式にすることが考えられる。システム開発が必要になるため初期投資のコストは増大する可能性もあるが一施策ではなく複数の施策で活用可能な仕組みであることを考えればコストを回収できる見込みも成り立つのではないだろうか。

 一方で中小の販売会社では IT リテラシーが低いという問題が想定される。しかし、PC の世帯普及率は 8 割近くに達しているし家庭用 PC で使用可能な仕組みにすることや、取り組み易いよう内容をゲーム感覚に仕立て媒体もゲーム機器を活用することも考えられ工夫の余地は残されていると思う。

 上記 1、2 は複数の販売会社の連携が必要になるし自動車メーカーの立場で考えなければならないという難しさがある。それらに立ち向かい自動車メーカーからの動きを待つのではなく提案していくという姿勢が大切だろう。また、自動車メーカー側も真剣に受け止める必要があるだろう。そもそもハードルは、投資とリターンの見合いから結果的に存在しており、施策の効果の最大化という観点ではハードルの存在は自動車メーカーにとっても不本意なはずである。

3.地域コミュニティを形成する
 「濃いサービス」が提供できるのは自動車メーカーに限らない。小規模で地場系の販売会社は地方に多いことが想定されるから、例えば地方行政がその役割を担うことはできないだろうか。

 中国に進出したある部品メーカーは、長江流域の上海や南京といった都市部ではなく、その中間に位置する鎮江という地方を中心に活躍している。鎮江は物流や労働力絶対数などに多少のデメリットはあるものの、地方だからこそ相対的に自社の存在価値が高まり、行政の面倒見が良かったり質の高い労働力集めには逆に好都合だったりといったメリットがある。もし、都市部に進出していればその他大勢の企業という扱いになり、こうしたメリットは享受できなかったであろう。

 地方には地方のメリットや独特のインフラを活かしたソリューションがある。例えば地域の商工会議所を活用した経営マインド、スキルの向上や、地域特性に見合った独自の事業モデル構築への助成など「濃いサービス」を提供できる可能性はあると思う。

4.業界団体を活用する
 自販連、自検協、日整連などの業界団体はディーラーの財務状況や保有台数、整備単価など販売会社に関係する情報を地方や県、市単位という細かいレベルで保持しており、またそれらの情報を収集する仕組みも確立している。

 現状でも有意義な情報とは思うが、更に有意義にする余地も残っている。例えば自販連が毎年刊行しているディーラー経営状況調査は財務面で指標は充実しているもののビジネス面での指標に物足りなさを感じるのは否めない。また複数団体の情報を束ねることで有意性を高めることもできる。例えば自検協の持つ保有台数情報と新車登録期間情報から新車の代替需要台数を算出、自販連の販売台数実績情報を差し引くことで、その地域においてあと何台くらい販売できる可能性があるかを(ある程度の前提をおいてではあるが)算出できるのである。

 業界団体の側も、団体の存在意義を高める良い機会であり「濃いサービス」の提供を真剣に検討すべきではないだろうか。

 自動車メーカーや行政、業界団体といったプレイヤーは販売会社とそれぞれに異なる取引や利害関係で結ばれている。「濃いサービス」を提供する目的は、それぞれの結びつきを最大化させることにある。そのためには各プレイヤーが得意なことを見出し、どこに注力するかを見極めた上で主体性を持って取り組むことが重要であろう。

<宝来(加藤) 啓>