水物の利益を固定的な利益に変えることを考える

◆岩手三菱、中古車の営業費カバー率を 15 %へ

             <2006年08月29日付日刊自動車新聞掲載記事>

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【岩手三菱が中古車ビジネスの指標に営業費カバー率を設定】

 ご存知のとおり新車需要が頭打ちの中で、新車ディーラーでは新車以外の中古車、サービス・部品、保険・割賦手数料収入といったビジネスで如何に収益を確保するかが重要になっている。

 岩手三菱は中古車ビジネス強化のため営業費カバー率という指標を設け、現在の 7 %から、早期に 10 %、将来的には 15 %にしていくとのことである。

 紙面に営業費カバー率の定義に関する記載はないが、自販連の定義等を参考にして以下であると推察した。

中古車の営業費カバー率=中古車粗利合計÷営業費

営業費=販売費(広告宣伝費、販促費等)+一般管理費(人件費、設備経費等)

 つまり、ディーラービジネス活動全般で発生する固定的な費用を中古車部門の利益でどれだけ賄えているか、言い換えれば中古車がどれだけ経営の安定性に寄与しているかを示す指標と考えられる。
【営業費カバー率の課題】

 しかしながら、中古車の営業費カバー率が経営の安定性を示す指標だとすると 2 つの課題があると思われる。

 第一に、分母に営業外費用が含まれていないことである。

 最大の営業外費用とは借入金に対する金利、つまり支払利息である。これは売上の増減に関わりなく発生する固定的な費用であるうえ、経営上のインパクトも極めて大きい。自販連の統計によると、04年度の乗用車店の支払利息は売上の 0.3 % である。一見、小さいようにも見えるが、経常利益率 1.3 %の乗用車ディーラーにとっては利益の 4分の 1 を左右する費用である。

 また、中古車部門の金利に対する責任は、新車部門よりも重いとも言える。日本では新車の在庫金利負担が実質的にゼロである。カタログ受注販売が主体で在庫を殆ど持たないからである。これに対して、中古車は在庫展示販売が一般的だから、ディーラー側に仕入れから販売までの期間の資金負担が発生する。中古車部門は支払利息発生の一翼を担っているのである。

 こうしたことから、中古車を通じて経営の安定を図ろうとするなら、その尺度となる指標の分母には固定的に発生する支払利息を含むべきであろう。

 第二に、中古車で固定的な費用を賄うという考え方そのものの妥当性に懸念がある。

 岩手三菱に限らず、中古車に力を入れようとする多くの新車ディーラーは次のように考えることが一般的ではなかろうか。

・ディーラービジネスの出発点、利益・成長の中心は何かといえば、それはやっぱり新車の販売である。とはいえ、新車が売れるかどうか、儲かるかどうかは水物であるから、経営の安定性を考える上では、水物ではなくほぼ固定的な収益が見込める新車以外のビジネスで如何に固定費をカバーするかが重要だ。

・目標は水物でない固定的な収益で固定的な費用を 100 %賄うことである。そうすれば、水物の新車売上が全くなくても赤字にはならないし、新車売上があった時には新車粗利=純利益と見込むことができるから、経営は安定する。

・では、水物でなく固定的に収益が見込める部門とは何か。サービス部門はそうだろうし、それに付随する部品部門もそうだろう。だが、それら二つだけを分子に持ってきても現状は 100 %に届かない。では、割賦手数料や保険手数料も入れてみよう。これまで大体一定水準の収入が見込めたから。

・だが、それでもまだ 100 %に届かない。では、当面は中古車も入れてみよう。国内の新車販売台数は 600 万台だが、中古車の登録は 800 万台に達するほど好調というのにうちではまだ中古車の販売台数が新車よりも少ない。そこに隠れた大きなオポチュニティがある。すると、中古車の目標達成度や経営への貢献度をモニターする必要がある。そこで、中古車による固定費(または営業費)カバー率だ。

 こう見てくると、現実的で柔軟な思考の推移ではあるが、途中で目的の変化と前提条件の矛盾が起きていることに気付かされる。

 本来は、経営の安定を図るために固定的に発生する費用を、固定的に発生する収益でどれくらい賄えているか、賄うようにするかが目的だった。そのために固定的収益とは言えない新車部門の粗利を分子から外した。逆に中古車部門は分子に加えた。その結果、固定費(または営業費)カバー率 100 %が頑張れば手に届く現実味のある目標にはなったが、目標達成に意味があるのは中古車部門からは固定的な収益が見込めるという前提条件が成り立つときだけである。仮に中古車は水物だとしたら、そもそも何の目標を達成したのか、目標達成の意義は何かという根本的な疑問が沸いてくることになる。

 では、中古車は水物なのか、水物ではないのか。多くの新車ディーラーでは水物のはずである。ディーラーの中古車部門の多くが商品の仕入れを下取りに依存している。ディーラーには「下取り率」という管理指標がある。新車を購入してくれた顧客のうちの何%が下取り車を持ち込んでくれたかを測る指標で、この数値が高ければ品揃えもよくなり、低ければ品揃えが悪くなるという管理に使われる。こういう指標が存在し、それを使って管理するということは、中古車部門の仕入れが如何に下取りに依存しているかを示している。(下取り率には、既納客のリピート率・定着率・防衛率・ロイヤリティを間接的に示すという意味合いもあるが、別に下取り率を使わずともロイヤリティの管理は可能だし、買取店への持込が増えた昨今では下取り率でロイヤリティを管理するのは不正確ですらある。)

 とすると、新車が売れないときには中古車の仕入れも不調ということになり、仕入れなくして販売は不可能だから、結局新車が水物なら中古車も水物、という結論となる。

 結果として、中古車による固定費(または営業費)カバー率という指標は、前提条件に矛盾があり、固定収益によって固定費をどれだけ賄えるかを図るという役割を果たせず、経営を安定させるという当初の目的は達成できなくなってしまう恐れが高い。
【中古車を固定的な利益とするための方法】

 それでは、中古車の利益で固定費(または営業費)をカバーするという考え方や、その比率を表す指標は、全く筋違いで無意味なものなのだろうか。そうではない。筋違いで無意味なものだというのは中古車が水物だという前提条件の下での話であり、仮に中古車が水物ではなく、準固定的な収益が見込めるビジネスになれば話は全く逆で、大いに意味のある考え方、有効な指標ということになる。

 つまり、中古車による固定費(営業費)カバー率なる指標だけを作ってモニターするだけでは確かに筋違いで無意味だが、それと同時に中古車を準固定的な収益源に生まれ変わらせる仕組みや仕掛けを用意すれば、経営を安定化させられる可能性が高まる。

 以降では、如何に中古車を固定的な収益源とするかという方法論を考えてみたい。中古車利益の固定化に必要な要件は、仕入れ量のコントロール、販売量のコントロール、台あたり採算のコントロールの 3 つである。
・中古車仕入量のコントロール

1.下取りに依存しない仕入れソースを確保する
 一つは、ディーラーが買取機能を持つことである。販売を前提にした下取りと違い、買い切りの機能を持つことで、自社の新車販売が不振で下取りが入ってこないとか、入ってはくるけれども再販用に欲しい商品ではないといった問題の解決になる。

 特に、独立系の買取店は人気車は下取りよりも高値を提示するが、不人気車は下取りよりもずっと低い査定しか出さず、実質的に人気車だけを買い集める傾向がある。逆に新車ディーラーは新車販売のために不人気車でも相応の価格で引き取らざるを得ず、全体でのバランスを取るために人気車に思い切った価格を付けにくいから、結果として新車ディーラーには不人気車ばかりが下取りとして入ってくることになりがちである。新車ディーラー自身が買取店化することで悪循環を断ち切りたい。どうしても買取機能を持てない場合、買取機能は持ったものの独立系の買取店並の認知度や支持を顧客から得られない場合は、
年間 800 万台の商品が流通しているオートオークション(AA)の活用も検討すべきである。

2.下取りに依存するものの仕入れの量や時期をコントロールする
 中古車として戻ってくる時期や量をコントロールするという明確な目的を持って新車販売時に残価を設定したローンやリースを拡販するようにする。

 残価設定のあるリースやローンなら、契約完了時にほぼ確実に車両が戻ってくることが期待できる。

 残価設定型リースやローンでなくても、メンテナンスパックまで付けて新車を販売していれば、期間を通じて車両のコンディションを他の誰よりも熟知していることから競争力のある下取価格を提示することが可能であり、調達力を高めることができる。メンテナンスパックの意義と課題については、先週の大谷の記事をご参照いただきたい。
(『Look Outside,Learn The Best!』)
・中古車販売量のコントロール

 中古車は稼動する限り、いつかは必ずいくらかで誰かに売れるものだし、不稼動車であってもリユース可能な部品が残っている限り販売の可能性はある。従って、利益の問題を別にするなら、中古車は仕入れの量だけ販売の量も期待できるということになる。

 だが、ここでまず考えなければいけないことは、いつそれが実現するかという時間軸の問題である。「いつかは売れる」という考え方に立っていると、実際にはいつまでも売れない。2~ 3年後には売れるかもしれないが、それでは今期のカウントにならない。また、在庫はスペースと資金を食ってしまうから、本当ならもっと売れ筋の車両を仕入れれば回転率が上昇してもっと量的拡大ができた可能性までも潰してしまう。

 だから、どこかで見切りを付けるルールと管理を行なうことが販売量のコントロールには不可欠である。1 週間ごとに展示場所を入れ替える、2 週間経過しても売れなければインセンティブを付ける、30日経過したら 10 %値引きする、45日経過したら AA に売却するといったルールを作り、ルールに則った管理を行なうべきである。

 さらに品揃えや展示方法で差別化することも重要である。いつ売れるかという時間軸をコントロールするとともに、誰に買ってもらうかという顧客軸のコントロールがないと、偶々顧客が入ったときには売れるが入らない時には売れないという水物の商売になってしまう。スポーツカー専門、高級車専門、軽自動車専門といった特徴ある店作りを行い、特定の顧客層から指名買いされるようになると、偶然に左右されないビジネスになるだろう。

 また、こうした管理を徹底するためには、中古車部門に専任の管理者が必要になるだろう。新車ディーラーでは新車マネージャが中古車マネージャを兼務していることも多いが、中古車には独自のスキルと管理システムが必要だからである。
・中古車台あたり採算のコントロール

 採算をコントロールするためには、商品とサービスが均質化されるようにコントロールしなければならない。採算とは顧客が商品とサービスの質に対して支払う対価の大きさだから、採算が均一化するようにコントロールするためには質が均一化するようにコントロールしなければならない。

 米国には、比較的走行距離やコンディションの類似した中古車(特にリースアップ車やレンタルアップ車)を専門的かつ集中的に大量に仕入れ、統一基準で点検整備と加修を行なったうえで統一的な保証を付けてワンプライスで販売するメガ中古車ストアが見られる。国内でも輸入車ディーラーが認定保証車を扱っているが、これも商品とサービスの均質化の事例である。上述したようにディーラーは、残価設定型の金融商品やメンテナンスパック等を通じて新車販売時および契約期間中に中古車の質を均一化させる術を有しているのだから、その特権を行使して中古車部門の商品とサービスの均質化に努めるべきだろう。

 また、中古車部門に独立性を持たせることも必要である。いくら中古車専任マネージャが独自のルールと管理を徹底しようとしても、新車部門の都合で高値で下取りさせられたり、欲しくもない商品を回される制度や習慣が残っていたのではザル法になってしまい、モラルやモチベーションも低下するので採算は改善しない。

 どうしても新車部門が干渉しがちな場合は、査定を中立的な第三者に任せることや、下取り価格が相場を上回った部分は新車部門の責任とする仕組みも検討すべきであろう。
【終わりに】

 これまで中古車の経営指標を基点に変動的な利益をいかに固定化していくかについて考えてきた。経営に固定費が付き物である以上、いかに固定的に見込める収益を増やしていくかを考えることはディーラー事業に限らず全ての事業、経営者にとって昔からある普遍的な課題の一つであると思う。

 だが、実際にはなかなか究極の解決策は見つかっていない。その背景には、業界に長くどっぷり漬かっていると固定概念や無意識の制約に囚われて革新的なアイデアが生まれにくいという問題もあるだろうし、逆にあまりに業界固有の要件や内部の事情を知らない人間にアイデアを出させると実現性のない空論を並べ立てるだけに終わるという問題もあると思う。

 自動車業界と異業種を繋ぐインターチェンジの位置にいる弊社もどちらかに偏らないように自らを戒めながら、偏りがちなクライアントの方々に対して独自のポジションを活かしたブレークスルーのお手伝いができるように心がけている。もし、何かお困りごとがあればお気軽にご相談いただきたい。

<宝来(加藤) 啓>