’販売員’から’購買代理人’へ。変化にチャンスあり

(「無人ショールーム」、京都日産が開設)

◆高級車の「無人ショールーム」、京都日産が京都市中京区の西大路店に開設

<2006年02月05日号掲載記事>

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【無人ショールームオープン】

従来、商談プロセスの中でショールームは、販売店側からみると、訪問販売等を除く多くの場合、ダイレクトメール等の各種プロモーション活動の結果として、クルマの購入を検討する見込み客と販売店とのリアルな場での最初の接点であり、大別すると本来 2 つの役割を担っている。

1 つは、目立たせたり、入店し易い雰囲気を醸し出したりして見込み客を如何に来店させるかという役割、2 つには、クルマを魅力的に演出したり、実際に触れさせたりして来店した見込み客を如何に商談スペースの場へと誘導するかという役割である。

しかし、販売の現場では、商談スペースとの機能分化が必ずしも明確ではなかった。ショールームに入るやいなや販売員が近寄ってきて商談(売り込み活動)が始まることが普通で、顧客(見込み客)がそれを嫌がりショールームから遠ざかっていた一面もあろう。

今回取り上げる京都日産自動車株式会社がオープンした「京都日産フラッグシップギャラリー」と名付けられたショールームには、販売員がいない。呼ばれればいつでも駆け付けられるように、別の場所に待機しているのであり、ショールームと商談スペースを明確に分離しているのである。それが、紙面で「無人ショールーム」といわれる所以だろう。

「無人ショールーム」では来店した見込み客を商談スペースの場へ誘導する過程において販売員は能動的に関与しない。見込み客は、設置されたフリードリンクコーナやテーブル等を活用しながら、クルマのデザインや乗り心地を確かめたり、家族や恋人と話し合ったりして、従来のショールームにある’販売員の目’に気遣うことなく検討を進める。そして、クルマに関する質問がある時や、見積もりが取りたくなった時等に、内線電話で販売員を呼びだす仕組みとなっている。

【B (販売員)の購買代理人化】

いってみれば、上記の仕組みの中で販売員は、売り手という立場に基づく営業的なアプローチはせず、顧客が望んだ時にだけ顧客の望むように接触をするという、いわば顧客の購買代理人的な立場で存在する。

代理人を通した自動車販売は「無人ショールーム」に限ったことではない。例えば、株式会社オートサーバーでは、インターネット上で、顧客が欲しいクルマを登録すると、カーオークションや流通在庫の車両データから探して、登録時のメールアドレスに通知する AutoBee というサービスを展開している。

つまり、これまで自動車販売には、C (顧客)と B (販売員)の間に、買い手と売り手という相対峠する人間関係があった。しかし、無人ショールームやAuto Bee を活用した中古車の販売は、B が売り手ではなく、C の購買代理人的な役割を持つようになってきたと捉えることができる。

購買代理人の具体的イメージを持つため、もう一歩進めて対面販売、側面販売、セルフ・サービスといった販売形態の観点から整理してみる。これまで売り手である販売員は、販売時の商品やサービスの説明のし易さを重視した対面販売を主流としていた。しかし購買代理人による販売は、顧客と同じ側に立って販売する側面販売と、顧客が商品を選択するセルフ・サービスの中間に位置する。

<参考>
一般的な販売形態の概要
・対面販売
販売員がデスクなど什器をはさんで顧客に対応する形態。高価で複雑な商品でも納得して買ってもらえる等のメリットがあるが、販売員のコストがかかる等のデメリットがある。貴金属や化粧品、医薬品の店舗で採用されることが多い。
・側面販売
販売員が顧客と同じ側に立って説明をしながら販売する形態。顧客が自由に商品を選べる等のメリットがあるが、売り手が販売の主導権を握りにくい等のデメリットがある。スポーツ用品店やペットショップ、アウトドアショップ等で採用されることが多い。
・セルフ・サービス
顧客が自由に商品を選択する形態。販売員の効率は最もよい等のメリットがあるが、顧客に商品知識が豊富でないと購入が進まないといった制約がある。ご存知のとおり、スーパーやコンビニ、ディスカウントショップで採用されることが多い。

この動きの背景には、自動車という商品自体の複雑さ、高額な商品故のローンやリースといった支払・所有方法の複雑さ、自動車登録関連の手続きの複雑さ等から発生する B と C の情報格差が、自動車の普及や IT の進歩により C側の情報力が強まり、埋まってきたことに一因があると思われる。

とはいえ今後も、情報の非対象性や、登録などの面倒くささは完全にはなくならないので、それらを解消することに価値が残る。つまり側面販売やセルフ・サービスの中間に位置する購買代理人的な役割を担う B は増えていくのではないだろうか。

また、対面販売と側面販売の中間に位置する B の動きもある。例としてレクサスが上げられるだろう。レクサスでは、上質なスーツに身を包んだ販売員が、「セールスコンサルタント」の肩書きで懇切丁寧にじっくり時間をかけ顧客へ対応し対面販売の付加価値を高めている。そして、一方では、「おもてなし」を重視して、顧客の立場に立ってソリューションを提供するという側面販売の機能、つまり購買代理人的な役割を担っているのである。

総じていえば、豊富な情報量や販売体験により、賢くなる C に対応して B 側から C に近づいてきており、B の購買代理人化こそが、小売業の方向性といえるのではないだろうか。

【購買代理人化時代における新規参入のチャンス】

B の購買代理人化とは、ビジネスモデルの変化も意味する。例えば、自動車販売で考えると、これまでメーカー・インポーターからの仕入原価と実売価格の差やインセンティブを主な収益源としていたモデルから、広告収入、代行手数料、成約手数料などを主な収益源とするモデルへの変化である。

そして、これまで述べた購買代理人化という考え方は、新車・中古車販売に限らず部用品や、その他の小売業においても通ずるところがあると思う。特にIT を活用した Auto Bee のモデルは、設備などの初期投資が少なく、人件費などの固定費、販売費も削減できる。とりわけ、これまでのビジネスにしがらみを持たない新規参入者にとってはチャンスであろう。

弊社では自動車業界に新規参入を検討中の企業や、既に参入している中小企業の方々に向けて、資金面や販路面でのご支援をする事業を展開している。ご興味のある方は是非以下のサイトを訪れていただきたい。
https://www.sc-abeam.com/autostanding/index.htm

<宝来(加藤) 啓>